僕の未来と嘘
中学受験の直前程に、僕は入院した。
急性胃腸炎が酷くなりすぎたようで、病院に行ったらそのまま入院です!って。
中学初めての欠席が入院ってまじ笑えねぇ!
丁度その頃、中学に入って初めて出来た彼女にフラれたばかりの俺は、傷心引きずっていざ小児科病棟へ入院。
ここで言っておくと、僕には自傷癖があった。
小学生の時に腕にバッテンの傷をつけた。
自分の爪で引っ掻いて引っ掻いて。
親に心配?されたくねーよ!むしろ学校の友達に心配されたかったの僕は!
僕はバッテンの傷をつけたまま学校へ行って、学校の友達に幽霊を倒すときに呪われた!って嘘をついた。
まぁ、それっぽい嘘っちゃあ嘘でしょ!
とりあえず、僕には自傷癖があるのだ。
入院した時も左手にはカッターで無造作に切った傷があった。
うっわー、まじありえない!猫に引っ掻かれた!って言って信じてくれるかな、と思ったら意外にもあっさり信じてもらえた。両手に無造作に切ってあったからだろうか。まじラッキー。
僕は、点滴用の注射針を腕に引っさげたまま病室へ入った。
病室での事は、特に特筆すべき事なんか、無い。
何にも無いし、強いて言えばご飯ゲロまずっ!って位だった。
図書館から借りていたマクロスFの小説も全部読み干して、暇でテレビを見ていたら、看護婦さんがやってきた。
抜かりなく目の前の机に英語の教科書とノートを開いていた僕は案の定看護婦のお姉さんに褒められた。ここでもラッキー。僕の外面の良さに抜かりはないんだぜ。
病院ってストレス溜まりにくいな、と思いながらそれでも4人部屋で一人という病室はだだっ広くて、小児科病棟ってこともあって面会時間が午後4時までだし、親族しかお見舞いにこれない決まりになってるし、話し相手に困って終始絵を描いていた俺は、ひたすら自分の高校生活を妄想して浮かれているのだった。
高校受験はとってもストレスが溜まった。
僕は美術系に進みたいし、親は小さい頃から俺がやっていた音楽系に進むとばっかり考えていたもんだから、超衝突した。
衝突して、イライラして、その時仲が良かった学校の美人の非常勤の先生に心配して欲しくて制服からは見えないようにだけど、カッターで腕をめった切りにした。
僕ってば可哀想でしょ?僕はこんなことで悩んでるんだ。僕を見て、僕を見て!って叫ぶように何回も切り刻むんだ。別に楽しくはないし、痛いけど、心配してもらう方が嬉しいかな、って思っちゃう僕はドMかしら?
いよいよ進路を決める段になって、親との衝突は益々増えた。
「いい加減、漫画なんてお遊びの世界に居るのなんかやめなさい!そんなものが将来なんの役に立つの!?」
金切り声で母さんが叫ぶのを耳に挟みながら、僕は今まで読んでいた漫画を大切に机の右端に寄せて、教科書を開いた。
「別に、母さんには関係ないでしょ!母さんと僕は価値観が違うんだよ!うっさいなぁ!」
「勉強しないで高校に入れると思ってるの!?あんたは何がしたいのよ!?」
漫画描きたいです!漫画投稿して漫画賞取りたいです!普通の仕事なんかくそくらえです!なーんて言える口もないので、僕は黙って母さんの言葉を流す。
「お遊びなんか高校受験終わってからで良いでしょう!?なんで今漫画読んだり漫画の絵を描いたりする必要があるの!しかも漫画の絵よ!?ちゃんとした絵じゃないのよ!?」
「うっさいな!ちゃんとした絵ってなんだよ!馬鹿にするのもいい加減にしろよ!」
あ、言ってしまった。
これは父さんが帰ってきたら母さんがこれを言いつけて殴られるパターンか?
そう思った僕はこれ以上事態を広げない為にMP3を持って母さんの横を通り過ぎ、部屋を出てトイレに向かった。
大抵、言いつけるなら電話で言いつける。
トイレからはその様子も伺えるから反論もし易くなる。しかもトイレだったら母さんは僕の邪魔は出来ない。ビバトイレ。
母さんの電話が終わるのを待って、僕はMP3を取り出してイヤホンを耳につけた。
音楽を聴く。今日の音楽は倉橋ヨエコさんの曲。
夜な夜な夜なというタイトルのその曲を聴きながら、僕は歌詞を反芻するのだ。音楽の世界にのめり込み、僕は僕ではない僕になる。
自嘲気味に歌の歌詞を聴きながら、僕はトイレを出る。
夜は自己嫌悪で忙しい!夜は自己嫌悪で忙しいんだ!
僕と歌詞とを重ね合わせれば、哀れな僕の出来上がり。
父さんに怒られて殴られる夜を憂いながら、僕は隠れて漫画を読むために教科書とノートが開きっぱなしの机に行き、僕の腹の所にチャックのあるファイルケースを置く。
これで、母さんが来ても漫画をサっとファイルケースに仕舞い、ファイルケースの中からわざとらしく数字がたくさん書いてある授業中のプリントを出したり閉まったりして、あたかも勉強途中で資料のプリント探してますよー!っていう体を醸し出すのだ。
ちゃんと、父さんが帰ってきそうな時間には漫画を見つからないように押入れの奥に隠して、古い漫画とか、父さんがコンビニで買ってきた漫画をわざとらしく置いておくのだ。そうすれば、新しい漫画は売られないで済む。
見つかっては困るものを考えながら、僕は夜に父さんにする言い訳を小さい頭をひねって考えながら漫画を読んで母さんが自分の部屋にくる足音も聞き逃さないよう耳をすますのだ。
うう、なんて健気なんだ僕は!
自分の未来に対して親と意見が合わないだけでなんでごちゃごちゃ勉強だの何だの言われなくちゃならないんだ!僕は勉強が大嫌いなんだ!
そんな憤りを感じながら三代飛鳥は、やがて訪れるであろう嵐をやり過ごすための鋭気を溜めるのだった。