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マコとの決戦


「マコ……」


 勇者たちはゆっくり玉座に近づいた。そこにいるのは間違いなくマコだった。僧侶が買い与えた洋服を身に纏い、首には勇者がプレゼントしたネックレスをしている。


「勇者様……」


 マコはゆっくり口を開いた。


「私、思い出したわ。自分の記憶を」


 マコの姿に変化はないが、身に纏うオーラは以前とすっかり変わっていた。自分に甘えすがりついていたマコではない。冷酷で残酷な瞳をした優雅な一人の魔王だった。


「マコ、自分の使命とはどういうことだ」

「私はマコではないわ。魔王よ」


 魔王は冷静に吐き捨てた。勇者はその事実はわかっていた。わかっていたが、勇者はその言葉に強いショックを受けた。


「やはり、戦わなくてはいけないのか…?」


 勇者は魔王に、そして自分に問いかけた。


「当たり前だわ。あなたは私の種族を殺した一族の敵」


 魔王は玉座から立ち上がり、右の掌を差し出した。と思った瞬間、最大衝撃魔法が勇者たちを襲った。


「うああああああ!!」


 勇者たちは全員壁に叩きつけられた。もの凄い魔力だ。魔力を感じることができる若き魔法使いと僧侶は、そのあまりの魔力の大きさにガタガタ体が震えている。


「あなたたちに育てられたなんて、魔族の恥だわ」


 魔王は左の掌を差し出した。目の前に巨大な火球が現れる。魔王は左の指を軽く弾くと僧侶に向かって火球を打ち放った。


「きゃあああ!」


 反射的に女戦士が盾を持って僧侶の前に飛び出した。激しい爆発音を立てて女戦士の盾が砕け散り、女戦士は壁に激しく叩きつけられた。


「女戦士さん! しっかり!」


 僧侶は必死に回復呪文を女戦士に詠唱している。


「無様ね」


 魔王は左手を突き出し、無防備な僧侶の背中めがげて再び巨大な火球を打ち放った。


「くそぉぉ!」


 今度は勇者が自身の剣を盾にして火球を弾いた。


「さすが精霊の力ね。魔法を弾くなんて。でもこれはどうかしら」


 魔王は左の掌の上に巨大な氷の槍を作り出すと、勇者めがけてそれを投げつけた。


「マコ! やめろ!」


 たまらず若き魔法使いは電撃魔法を氷の槍にめがけて放った。氷の槍は勇者に届く前にバラバラになって砕け散った。


「魔王! もう容赦しません!」


 若き魔法使いは杖を魔王に向け最大電撃魔法を放った。電撃はまるで魔王の体を避けるように一回転すると若き魔法使いに直撃した。


「うがぁぁぁぁ!」

「ダメね。所詮人間の魔法だわ。魔法とはこう放つのよ」


 魔王は右の掌を若き魔法使いに向け、最大電撃魔法を放った。


「やめろおおおお!!」


 勇者は再び剣を盾にして魔王の放った電撃魔法を受け止めた。


「す、すみません勇者殿……」

「大丈夫だ! 僧侶、手当てを頼む!」

「はい!」


 僧侶は電撃を受けた若き魔法使いに必死に回復呪文を詠唱する。


「魔王! くらいな!」


 僧侶の回復呪文で復活した女戦士は、手斧を魔王に向かって投げつけながら、自身の拳を振り上げて魔王に飛びかかった。しかし手斧は魔王に当る前に失速して地面に突き刺さり、魔王が右の掌を突き出すと女戦士の体を最大衝撃魔法が襲った。


「がはっ!」


 女戦士はまたも壁に叩きつけられ、身に纏っていた鎧が粉々に砕け散った。


「マコォォォ!!」

「マコではないわ。魔王よ」


 魔王は優雅に楽しそうに笑った。


「言ったでしょう? 初めて会った時、最強の姿を見せるって」

「お前…初めて会った時の記憶があるのか」

「当たり前よ」


 魔王は冷酷な瞳で優雅に笑った。


「これが私の最強の姿、私は魔族の象徴であり特別な存在。男だったのは強すぎる力をセーブするため。そうでないと配下の魔族も殺しかねないから」


 勇者は剣に精霊の力を最大限にこめながら魔王に向かい直った。


「やはり、お前は魔王でしかないのか!」

「そう、私は至高の存在。あなたと同じよ勇者様」

「僕と同じ? 同じとはどういうことだ」


 勇者は精霊の力を剣にこめつつ、ゆっくり魔王との間合いをはかる。


「あなたは人間で唯一精霊の力を持つ存在。そして私は魔族そのものの力の象徴」


 魔王は右の掌を差し出した。再び最大衝撃魔法が勇者を襲う。勇者は精霊の力を込めた剣でそれを跳ね返したが、仲間達はなす術も無くその衝撃を受けた。


「みんな大丈夫か!」


 勇者は仲間に問いかけるが返事はない。かろうじて意識はあるようだが、今の衝撃をまともに受け動けそうにもなかった。


「さすがね」


 魔王が感心したように言う。


「精霊があなたに力を貸すのも当然だわ。あなたが死ねば精霊は消えてなくなる」


 魔王は勇者の姿を見ておかしそうに笑い出した。


「あなた、自分のことを人間だと思っているけど、あなたって本当に人間なのかしら?」

「何を言っている。僕は人間だ」


 勇者は剣に精霊の力をため、魔王がいつ魔法を放ってもいいように構える。


「じゃあなぜ、あなたに精霊の力が宿っているのかしら」

「それは…僕が勇者だからだろう」

「あっはっはっは」


 魔王は手を叩いて笑った。


「違うわ。あなたは人間ではない。あなたは精霊が作りだした人間に似たものよ」


 魔王の言葉に勇者は困惑した。自分が人間でない? 魔王は何を言っているのだ? 魔王の発言の意図が勇者にはわからない。


「馬鹿なあなたに教えてあげるわ。私とあなたの因縁を」


 魔王は優雅に玉座に座り足を組んだ。


「私は魔族から生まれた魔族の象徴。姿形は魔族として作られた。そしてあなたは精霊の象徴、姿形は人間として作られた。つまり…」


 魔王は勇者を指差した。


「私たちは精霊と魔族、その象徴そのものなのよ」


 勇者は魔王の言葉が信じられなかった。自分は人間だ。人間として生まれ育った記憶も持っている。


「僕が、精霊につくられた、精霊の象徴だと……?」

「そうよ。いわば精霊と魔族の戦争のために作られた兵器。あなた自分の体を見てご覧なさい。精霊の力に包まれているわよ」


 勇者は自分の体を見渡した。体中が淡く水色に輝いている。


「精霊が死ぬのか、魔族が死ぬのか…はっ」


 魔王は何の準備もなく唐突に最大衝撃魔法を放った。慌てて勇者はそれを剣で跳ね返す。


「決着をつける時ね。全ての精霊の力を備えたあなたと、魔族の象徴である私」


 魔王は玉座から立ち上がると、両手を高く掲げ全身に魔力を溜めだした。


「はああああああ!!!」


 部屋の壁や天井が魔力の波動を受けてガラガラと崩れ出した。凄まじい魔力だ。魔王の近くにいる勇者は、その魔力の波動に当てられて呼吸をするだけで制一杯だった。仲間達はボロボロの体を引きずりながら、必死にガレキの崩壊を避けている。勇者は必死に自分の中に眠る精霊の力に語りかけた。これと戦うために僕が作られたのか。精霊、教えてくれ。僕は人間ではないのか。精霊、なぜ力を貸す。この敵を倒すためなのか、精霊、答えろ!


 その時、精霊の意思を勇者は感じた。


 そうか。それが精霊の意思か。勇者はゆっくり剣を投げ捨てた。


「どうしたの? もう降参?」


 勇者は剣を捨てると自滅魔法を唱えた。勇者の生命力が魔法力へ変わっていく。


「命を差し出すというの? いい覚悟ね」 


 勇者は魔王に構わず背を向けると、仲間達の元へ歩き出した。


「逃げるの? 逃げ場なんてどこにもないわよ!」


 勇者は魔王の声が聞こえていないかのようだ。ゆっくり女戦士の元に近づいた。


「勇者……あんた…まさか…」


 勇者は魔法を手に込めながら女戦士に優しく語りかけた。


「君と初めて出会った時は、まさか一緒に旅をする仲間になるなんて思わなかったよ。でも君の力のおかげで沢山の危機を逃れることができた。本当に今までありがとう」


 女戦士は必死に勇者の腕を掴んだ。


「ダメだよ! 一緒に国に帰るんだろ! これが最後みたいなこと言うな!」


 勇者は移動魔法を女戦士に唱えた。女戦士は光に包まれて一瞬の内に魔王城から消えた。


 勇者は若き魔法使いにゆっくり近づいた。


「勇者殿、いけません! あなただけを死なせて生きてはいけません!」


 若き魔法使いは泣きながら首を振る。勇者は優しく語りかけた。


「君の魔法でどれだけ冒険が楽になったか。君はまだ若い。その天才と呼ばれる力をこれからは世界のために使ってくれ。これからの未来は君が作るんだ。本当に今までありがとう」


 勇者は移動魔法を若き魔法使いに唱えた。若き魔法使いは光に包まれて一瞬の内に魔王城から消えた。


 勇者は僧侶にゆっくり近づいた。僧侶はもう涙が溢れて止まらなかった。


「勇者様……わたし…ずっと……」


 勇者は僧侶の手を優しくとった。


「君は僕の初めての仲間だ。君の手と優しさにどれだけの傷が癒されたか数え知れない。本当に今までありがとう」

「勇者様…わたし、ずっと、ずっとあなたのことが好きでした…」

「そうか…。ありがとう。君に好意を持たれていたなんて、とても誇りに思うよ」

「いやです…私も…御供させてください…」


 僧侶は泣きながら勇者にしがみついた。勇者は移動魔法をかけながら優しく僧侶に語りかける。


「君には待っている人たちがいる。僕なき後の世界を宜しく頼むよ」


 勇者は僧侶に移動魔法を唱えた。僧侶は光に包まれて一瞬の内に魔王城から消えた。


 勇者の仲間達はみんな魔王城から姿を消した。勇者は振り返ると全身に精霊の力を満たせながらゆっくりと魔王に向かって足を踏み出した。今や世界中の精霊が勇者の元に集まり、勇者にその力の全てを与えていた。


「仲間は飛ばして、貴様だけ死ぬ気か。良い根性だ」


 魔王は感心したように吐き捨てた。勇者はその声に答えずゆっくりと魔王に手を伸ばした。





「……マコ、教会に帰ろう」





 魔王は心底おかしそうに笑った。


「あなた自分が何を言っているのか分かってるの? 私は魔王よ。いつまでそんなたわ言を言っているつもり?」


 勇者は自身を纏う精霊の力を全て魔力に変えた。


「マコ、帰ろう。結婚式を挙げるんだろ?」


 勇者は一歩ずつゆっくり魔王に近づく。


「マコ、君はまだ僕がプレゼントしたネックレスをつけている」


 勇者は一歩ずつゆっくり魔王に近づく。


「マコ、教会に帰るんだ」


 勇者は一歩ずつゆっくり魔王に近づく。魔王が苦しそうに顔を歪めた。


「やめなさい。その名で私を呼ぶな」


 勇者は一歩ずつゆっくり魔王に近づく。もう少しで魔王に手が届きそうだ。


「ずっと僕と一緒なんだろ? マコ、一緒に帰ろう」

「やめろぉぉぉぉ!!!」


 勇者はゆっくり魔王に触れ、その体を抱きしめた。瞬間、2人の魔力が打ち放たれた。精霊の魔力と魔族の魔力は相殺し、その衝撃は魔王城の壁と天井を全て吹き飛ばし、その威力は遥か彼方まで打ち放たれた。


 2人は衝撃の中心で見つめ合っていた。魔王の体から魔族の力が抜けていく。勇者の体から精霊の力が抜けていく。


「マコ、君から魔族の力を解き放つ」


 衝撃の中、勇者はゆっくり微笑みかけた。


「……勇者様……」


 マコは泣きながら勇者を見つめた。


「精霊も魔族も関係ない、君はマコだ」


 勇者とマコを中心として精霊と魔族の魔力が相殺していく。勇者はマコの額に刺さっていた角を引き抜いた。


「ごめんなさい…勇者様…ごめんなさい……」


 勇者はゆっくりマコを抱きしめた。


「僕の命をかけて、君を守る。君は君の人生を生きなさい」


 その瞬間、激しい衝撃と共に世界から精霊と魔族という存在が消えた。



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