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第七話_スキル

「それで、コイツらを倒したらクエスト終了だとは思うが、どうやって証明するんだ?」


アーデルミノスが疑問を口にした。

目の前に転がっているのは、先ほどまで彼らの脅威であったはずのオークとゴブリンの死骸だ。


「ゴブリンもオークも、耳を片方切り取ってギルドに持っていけば…あぁ!!」


説明の途中で、ロンが唐突に裏返った声を上げた。

まるで今この瞬間に天変地異が起きたかのような大袈裟な反応。


「収納袋を…教会に忘れてきちゃった!」


頭を抱えて叫ぶロン。

しかし、その狼狽ぶりにはどこか芝居がかった「わざとらしさ」が透けて見えていた。

清十郎はそれを察しながらも、あえて波風を立てない穏やかな口調で応じる。


「では、手で持っていくしかないんですね。あまり気持ちの良いものではないですが、仕方ありません。」


血の滴る生々しい耳を素手で運ぶ光景を想像し、清十郎は軽く眉をひそめる。

だが、その言葉こそがロンの待ち望んでいた「フリ」だった。


「その言葉を待ってたよ!」


ロンの表情が、一転して不敵な笑みに変わる。

獲物を罠にかけた狩人のような顔で、彼はおもむろに虚空へと指を走らせた。


「ステータス・オープン!」


その掛け声と共に、彼らの視界に半透明の淡い光の板——ステータス画面が浮かび上がる。


「ミリチェアさんのスキルの話はしたと思うけど、実はこの世界の住人は全員、生まれつき一つだけスキルを保有してるんだ。ほら、見てよ」


ロンが自分の画面の一部を指し示す。

そこには「スキル」という項目があり、一つの単語が刻まれていた。


「ロンさんのスキルは…『回収』、ですか?」


清十郎が読み上げると、ロンは自信満々に鼻を鳴らし、何故か腰に手を当てて奇妙な決めポーズを取った。


「ふふふ…この素晴らしいスキルを見せる時がついに来たようだね!」


「いいからさっさとやってみろ。日が暮れるぞ。」


感動に浸る間も与えないアーデルミノスの辛辣なツッコミに、ロンは「連れないなぁ」とぼやきながらも、意識を集中させた。

彼は何もない空間に向かって力強く手を翳す。


「回収!」


刹那、空間がわずかに歪み、小さな光の粒子が弾けた。

次の瞬間、そこにはロンが「忘れてきた」と言っていたはずの、何の変哲もない布の袋がポツンと出現した。


あまりに地味な登場に、清十郎は一瞬、反応に困る。

伝説の宝剣や豪華な装飾品が現れるならいざ知らず、出てきたのは使い古されたただの袋である。


「これは…教会から遠隔で、ここまで移動させたということですか?」


「そう!僕がレベル5になったことでようやく覚えたスキルさ!」


胸を張るロンに対し、清十郎はふと疑問を抱く。


「生まれつき持っている、というお話ではありませんでしたか?」


「持ってはいるんだけど、レベル5にならなきゃ発現しないんだって。君たちのステータスも見てみなよ。まだないはずだから。」


◇◇◇


「…なるほど。では、そのスキルを使えばどんなものでも取り寄せられるのか?」


アーデルミノスが、現れた袋を突きながら興味深そうに尋ねる。

もしあらゆる物資を瞬時に補給できるなら、戦術的な価値は計り知れない。


「いや、それがそう上手くはいかなくて。自分のものか、もしくは事前に『登録』しておいた知り合いのものなら大抵はいけるんだけど…その登録できる『知り合い』の定義が、ちょっと曖昧なんだよね。」


ロンは再びステータス画面を操作し、スキルの隣にある三つの空枠を見せた。


「ここに出てくる人だけなんだよ、呼び出せるのは。」


画面をタップすると、そこには「ミリチェア」の名前、そして見慣れない二名の名前が表示されていた。


「アーデルミノスさんや清十郎君の名前は、まだ出てきてないんだよね。」


「この二人は?」


「ああ、これは同じ孤児院で一緒だった幼馴染だよ。今度会わせてあげるね。」


屈託のない笑顔で答えるロン。

それを見たアーデルミノスは、顎に手を当てて思案にふけった。


「ふむ…同じ孤児院の仲間は登録され、出会ったばかりの我々は登録されない。となれば、単なる面識の問題ではないな。信頼の深さや、親密度といった目に見えない繋がりが関係していそうだな。」


「ってことは、僕ら…まだそこまでの仲じゃないってこと?」


目に見える数値やシステムで「拒絶」されているような気がしたのか、ロンが露骨に肩を落とし、捨てられた仔犬のような悲しげな顔をする。

そのあまりに分かりやすい落ち込みように、アーデルミノスは呆れたように短く笑った。

そして、大きな手でロンの肩を無造作に叩く。


「…まあ、これからに期待だな。お前の働き次第では、その枠に名を連ねてやってもいい。」


「っはい!頑張ります!」


アーデルミノスの励ましに、ロンの瞳がパッと輝く。

その単純さと、彼を取り巻く不思議な空気感に、清十郎も思わず口元を綻ばせた。


「ふふ、私も期待していますよ、ロンさん。」


「待て。登録されている相手なら、その持ち主がどこに居ようと、お前の好きに回収できてしまうのか?」


もしそうなら、相手の預かり知らぬところで所持品を盗み出すような真似も可能になってしまう。

物騒な問いかけに、ロンは「いや〜、それができたら最高なんだけどね」と、どこか遠い目をして答えた。


「以前、ミリチェアさんの下着…いや、身につけているものをスキルで回収しようとしたんだけど、ダメだったんだよね。」


「…下着をか?」


アーデルミノスの声のトーンが一段階下がり、ゴミを見るような、あるいは獲物を仕留める直前のような鋭い眼光がロンを射抜く。

清十郎も引きつった笑いを浮かべ、一歩後ずさった。


「いや、違うんだ!実験だよ、あくまで実験!ちなみに、ミリチェアさんが僕の肩に手を置いて念じてもらったら回収できたんだよね。」


「…下着をか?」


逃げ場を塞ぐように、アーデルミノスが再び同じ問いを繰り返す。

その威圧感に耐えきれず、ロンは冷や汗を流しながら激しく首を振った。


「い、いや、別のものです…!別の小物をちょっとね…ははは…。」


ロンの必死の弁明を、アーデルミノスは呆れたように鼻で笑う。


「名前を連ねるのが少し遠のいたな。」


深い森の中、異世界のことわりに触れながら、三人の間には確かな、だがまだ名前のない絆が芽生え始めていた。

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