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転生最強竜の花婿探し(※ただしイケメンに限る)  作者: ゆうらり薄暮


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8 候補者たち



 やがて、王が入場した。


 王冠。

 マント。

 威厳。


 だが、その威厳が竜の前で、ちょっと縮む。

 人間の王は、世界の王ではない。

 数多ある国のうちの一国の王であるだけだ。

 それが空気だけで分かる。


 王は壇の前で一礼した。


「竜の御方、アルシェ様。ご足労いただき、感謝いたします」


「足労?」


 アルシェが首を傾げた。


「足、労ってない」


「言葉の慣用表現だよ!」


 アランが思わず突っ込み、王が一瞬びくっとした。


 アルシェはアランを見て言った。


「あなた、元気」


「胃は死んでる」


 王は咳払いをして宣言した。


「本日より、竜様の花婿選考会は王宮管理のもと“応募制”とする!」


 広間がどよめく。


 拍手。

 歓声。

 そして、悲鳴も混じる。


「……なんで悲鳴」


「希望と絶望は似てる」


「竜の哲学いらない!」


 王は続ける。


「一次審査は、竜様の条件に従い“容姿”」


 アランは頭を抱えた。


 国家が顔を公認した瞬間である。

 世界が終わる音がした。


 王が言い切る前にアルシェが楽しそうに手を挙げた。


「二次審査は?」


 王が一瞬固まった。


「……え?」


「二次審査」


 アルシェがきらきらした目で言う。


「性格?」


 広間がざわめく。


 アランは驚いた。


 性格審査。

 竜の口から出ると妙に本気に聞こえる。


 王は慎重に言う。


「……性格、でございますか」


「そう」


 アルシェが頷く。


「昨日、アランに言われた」


 王の視線がアランへ刺さる。

 周囲の貴族の視線も刺さる。

 刺さりすぎて串焼きになる。


「……俺は何もしてない」


「した」


「したって言うな!!」


 アルシェは楽しそうに言った。


「あとは“静かに話せるか”」


 アランが目を見開く。


「それ、勇者の件引きずってるだろ」


「大きすぎる声は嫌」


「竜の嫌がり方が生活感すぎる!」


 王が困った顔をしつつ頷いた。


「……承知しました。では二次審査は“態度”と“言動”」


 アルシェが満足げに頷く。


「いい」


 アランは小さく呟いた。


「……俺、止め役にされてないか」


 レオニスが耳元で囁く。


「はい」


「即答すな」



 そこへ、一次審査通過者たちが入場してきた。


 整った顔の洪水。

 眩しくて目が痛い。


 アルシェが目を輝かせる。


「顔、多い」


「言い方を変えろ!」


 最初の応募者が前に出た。


 青年貴族。

 笑顔が爽やかすぎて逆に怪しい。


「竜様! 私はこの国の未来のため、あなたの花婿に――」


「顔は良いけど好みじゃない」


 アルシェが即答した。


「えっ」


「不合格」


「早い!!」


 青年貴族が固まる。


 次の応募者。

 筋肉が美しい騎士。


「竜様! あなたを守る盾に――」


「大声」


「なぜ!!」


「静かな生活が好き」


「それだけ!?」


 不合格。


 次。

 僧侶。

 顔は神々しいが目がギラついている。


「竜様! あなたを我らが神の導きのもと――」


 アルシェの目がすっと冷たくなった。


「宗教は嫌」


「即拒否!?」


「面倒」


 僧侶は顔を引きつらせる。


「なぜ分かるのです!」


「顔」


「顔で分かるの!?」


 アランが叫ぶと、アルシェが真顔で言う。


「欲の顔」


 アランは黙った。

 妙に納得してしまった自分が嫌だ。


 会場がざわめく。

 応募者たちの声が小さくなる。


 学習が早い。

 人間は賢い。

 胃は死ぬ。


 そして次。


 レオニスが名簿を読み上げた。


「次、第三十二応募者。名は……ユリウス・リーヴェン伯」


 前に出たのは、銀髪の男だった。

 柔らかい笑み。

 上品な物腰。


 顔がいい。

 無駄にいい。


 アルシェの目が少しだけ輝く。


 アランの胃が嫌な音を立てる。


 ユリウス伯は丁寧に礼をした。


「竜様。お会いでき光栄です。まずはお詫びを」


「お詫び?」


 アルシェが首を傾げる。


「昨日、王都で混乱を招いたのは我ら人間の責任。竜様の意向を汲み、秩序を整えます」


 声が小さい。

 落ち着いている。

 礼儀もある。


 アルシェが頷きかけた、その瞬間。


 アランの鼻がぴくりと動いた。


 匂い。


 甘い香。

 人工的。

 強い。


 香水……だけじゃない。

 何かが混ざってる。


 アランは反射的に口を開いた。


「……おい」


 ユリウス伯が微笑んだ。


「はい?」


 その笑みがきれいすぎる。


 アルシェがアランを見る。


「どうしたの?」


 アランは喉の奥が冷えた。


 これは。


 “偽装”だ。


 騎士が言った通りだ。

 顔を盛るやつが来た。

 政治か宗教のせいか分からないが何かが混ざってる。


 アランは、ゆっくり言った。


「……おまえ、顔」


 ユリウス伯の笑みが微かに硬くなる。


「顔が何でしょう?」


 アランは息を吸い、吐いた。


 逃げない。

 ここで逃げたら、世界が壊れる。


「……竜様」


 アランはアルシェを呼んだ。


 アルシェが瞬きをする。


「なに」


「こいつ、匂いが変だ」


 会場が静まり返った。


 アルシェの目がゆっくり細くなる。


「匂い?」


 ユリウス伯は笑ったまま言う。


「香を焚いておりますが」


 アランは言い切った。


「香じゃない。魔法だ」


 その瞬間。


 アルシェが指先をほんの少しだけ動かした。


 空気がひゅっと引き締まり、世界の膜が一枚剥がれる気配がした。


 ユリウス伯の頬が僅かに歪む。


 美しい顔に、ひびが入ったように。


 会場が息を呑む。


 そして、アルシェが静かに言った。


「……偽物の顔は嫌」


 ユリウス伯の笑みが消えた。


 次の瞬間、何かが起きる。


 アランは確信した。


 これが。


 “顔の戦場”の本番だ。


 ◇


 妖精たちは理の中間層で机を叩いていた。


「始まった!」

「始まりました!」

「偽装が来た!」

「竜様の地雷!」

「胃薬を!!」

「増やして!!」


 議長妖精が叫ぶ。


「第十七候補、頼むから今だけは逃げないで!!」


 誰も知らない。


 アラン本人ですらまだ知らない。


 ここから先の展開が恋より先に世界の命運を決めることを。

 

※完結まで毎日投稿です。

よろしくお願い致します。

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