7 王宮へ
王宮へ向かう、と言ったはいい。
アランは、屋敷の玄関前で立ち尽くしていた。
扉はある。
庭もある。
馬車もある。
ただ一つ問題がある。
「……どうやって行くんだ」
「歩く」
「王都まで歩くのか」
「歩ける」
「そういう意味じゃなくて!!」
アルシェは不思議そうに首を傾げた。
「近道?」
「やめろ。近道って言って空間めくるやつだろ」
「めくらない」
「信用できねぇ……」
そこへ、昨夜の騎士レオニスが現れた。
相変わらず無駄がない動き。
視線も姿勢も全部が「規律」。
「おはようございます、竜様。第十七候補」
「呼ぶな!!」
アランが即ツッコミするとレオニスは微動だにせず言った。
「正式な呼称です」
「正式にするな!! せめて呼び捨てでもいいから名前で呼べ!」
アルシェがにこにこした。
「第十七候補、可愛い響き」
「最悪の褒め方だ!」
レオニスが軽く咳払いをした。
「本日は王宮へ。馬車を用意しております」
アランは思わず安堵した。
歩かない。
空間もめくらない。
たぶん。
馬車の前に立つ兵士たちが明らかに怯えていた。
顔が青い。
膝が笑っている。
アランは思う。
分かる。気持ちは分かる。
隣に“世界を壊せる女”がいるのだ。
胃も壊れる。
アルシェは馬車を見て、少しだけ眉を寄せた。
「狭い」
「竜は乗らなくてもひとっ飛びだろ」
「私は人型」
「心のサイズが竜なんだよ」
アルシェがアランを見た。
「あなた、先に乗って」
「え?」
「狭いから、あなたでスペース確保」
「俺は荷物か!!」
結局、アランが先に乗った。
後からアルシェが優雅に乗り込む。
狭いはずの馬車の空気がなぜか王宮の謁見室みたいに重くなる。
レオニスが外から言った。
「出発いたします」
馬車が動き出す。
窓の外を流れる王都の街。
昨日より人が多い。
多すぎる。
「……おい」
アランが窓を覗き込む。
「なんだこの人数」
通りには人が溢れ、屋根の上にまで人がいる。
旗が振られ、紙が舞い、叫び声が混ざる。
「花婿! 花婿!」
「竜様ー!!」
「候補者見せてー!!」
「※ただしイケメンに限るー!!」
「……何の祭りだよ」
「採用活動」
「採用担当みたいって言ったの俺じゃないか」
アルシェは頷いた。
「採用担当は忙しい」
「忙しいのは王都の胃薬担当だろ!」
馬車が角を曲がると、王宮の正門が見えた。
その前に。
列があった。
列というか、戦場の前線だった。
男、男、男。
年齢も身分もバラバラ。
だが全員が共通している。
顔が良い。
良すぎる。
整いすぎて怖い。
現実味が薄い。
「作画が違う」みたいな顔が現実にズラっと並んでいる。
アランは本気で引いた。
「……王宮、何したんだ」
「集めた」
アルシェが窓越しに眺め、少しだけ嬉しそうに言った。
「顔が多い」
「言い方!!」
レオニスが馬車の外から淡々と説明する。
「応募制度導入に伴い、一次審査を設けました」
「一次審査って何だよ」
「顔です」
「最初から最後まで顔じゃねぇか!!」
アルシェが満足げに頷いた。
「効率的」
「最悪の効率だよ!」
馬車が正門をくぐる。
群衆の歓声がわっと跳ねる。
その瞬間、アルシェがさらっと言った。
「ねえ」
「なんだよ」
「あなた、緊張してる?」
「してるに決まってるだろ!」
「顔が固い」
「顔の話をするな!!」
アルシェが少し考える。
「じゃあ、ボリューム下げる?」
「……いや」
アランは歯を食いしばる。
「やめとけ。王宮の空気までいじったら、今度こそ戦争になる」
「分かった」
アルシェは素直に頷いた。
素直すぎて逆に怖い。
竜の素直は凶器だ。
⸻
王宮の中は、豪華だった。
高い天井。
柱の彫刻。
絨毯の赤。
どこもかしこも「金」。
アランは歩くだけで罪悪感が湧く。
靴の裏で床が削れたらどうしよう、とか本気で考える。
「……俺、ここに来ちゃいけない人間だろ」
「来た」
アルシェが当たり前みたいに言う。
「事実で殴るなって昨日言っただろ」
「殴ってない。言葉」
「言葉が一番痛いんだよ!」
通されたのは、大広間。
舞踏会でも開けそうな規模の場所だ。
その中央に壇があり、椅子が二つ。
片方は玉座っぽい。
もう片方は。
ふかふか。
ふかふかすぎる。
アルシェがふかふかの椅子を見て、目を輝かせた。
「これ、私の?」
「竜様用です」
レオニスが淡々と答える。
「ふかふか」
「そこに食いつくな!」
アランの方を見る。
アラン用の椅子は……普通だった。
普通だが妙に壇の近くにある。
近すぎる。
「おい」
アランがレオニスを睨む。
「俺の席、近いんだが」
「竜様の“言葉が届く”位置です」
「その理由やめろ!!」
アルシェがふかふかに座って満足げに足を揺らす。
「いい椅子」
「椅子で機嫌良くなる竜、扱いやすいな……」
アランがぼそっと言うとアルシェがにこっとした。
「今、褒めた?」
「褒めてない!!」
※完結まで毎日投稿です。
よろしくお願い致します。




