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転生最強竜の花婿探し(※ただしイケメンに限る)  作者: ゆうらり薄暮


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6 呼ばれていない来訪者



 屋敷の中は静かだった。

 静かすぎて怖い。

 さっきまでの街が嘘みたいだ。


 だが静けさの中に別の気配がある。


 甘い香。

 微かな金属音。

 誰かの足音。


「……誰かいる」


 アランが言うとアルシェが頷いた。


「来客」


「来客?」


「候補」


「おい」


 アランは立ち止まった。


「待て。候補って、俺だけじゃないのか」


「あなたは17番目だから」


「それは聞いたけど! 追試とかじゃなく!?」


「今日は面倒だから会わない」


「会わないのに来るのかよ!」


「妖精が呼んだ」


「妖精の独断!?」


 アルシェは首を傾げる。


「独断じゃない。おそらく胃薬を減らすための判断」


「理由が胃!」


 そこへ、廊下の向こうから声が飛んだ。


「失礼いたします」


 低い、よく通る男の声。

 丁寧だが固い。

 軍人みたいな声だった。


 現れたのは、騎士だった。


 濃紺の制服。

 磨かれたブーツ。

 胸元には王家の紋章。

 そして、顔が良い。


 整っている。

 真面目で端正。

 アランの系統とは違うが世間的に言えば確実に「顔が良い部類」だ。


 騎士は膝をついて頭を垂れた。


「王都警備隊、第二騎士団所属。レオニス・ヴァルハイトと申します」


 アルシェはソファのような椅子に座り、片肘をついたまま言った。


「用件は」


 騎士は一瞬だけ言葉を詰まらせた。

 目の前の存在が「竜」であることを再認識した顔だ。


「……恐れながら。竜より告知の件につき、王都が混乱しております。治安維持のため、情報の確認を」


「確認?」


 アルシェは目を細めた。


「あなた、私に命令しに来たの?」


「いえ!」


 騎士の背筋が凍りつく。

 声が裏返りかけたが耐えた。

 さすが騎士。


「確認、でございます。王としては、竜様の意向を理解し、最小限の被害で収めたいと……」


「被害」


 アルシェが笑った。


「私、誰も殺してないけど」


「……はい」


「街も壊してない」


「……はい」


「空に文字も、今日は書いてない」


「……はい」


「行儀よくしてる」


 騎士が一瞬、困った顔をした。

 竜基準の行儀。

 人間の理解が追いつかない。


 アランは咳払いをした。


「……あの。俺は関係ない」


 騎士の視線がアランに向く。

 一瞬、目が細くなる。


 騎士は礼儀正しく言った。


「あなたが、第十七候補?」


「やめろ、その呼び方」


 騎士はなおも丁寧だった。


「王都では、既に噂が飛び交っています。“候補が屋敷に連れ去られた”と」


「事実だろ!」


「……」


 騎士は黙った。

 黙ったまま、アルシェを見る。


「竜様。候補者の扱いについて、王としては最低限の確認を」


 アルシェはあっさり言った。


「殺さない」


「その基準しかないのか」


 アランが突っ込むと、アルシェが当然のように頷いた。


「人間は弱いから」


「弱いけど権利はあるんだよ……」


 騎士は慎重に言葉を選ぶ。


「……候補者が望まぬ形で拘束されている場合、王都は――」


 アルシェの目が一瞬だけ冷たくなった。

 空気が凍る。

 屋敷の空間がわずかに軋む。


 アランの喉が鳴った。


 これが妖精の言ってた“危険”か。


 だが次の瞬間。


 アルシェがふっと息を吐いた。


「アラン」


 名前を呼ばれた。

 それだけで空気が戻る。


「あなたは望んでない?」


 アランは、言葉に詰まった。


 望んでない。

 もちろん望んでない。

 でも。


 「ならない」を選べば記憶を消される。

 それは嫌だと言ったのは自分だ。


「……望んでないけど」


 アランは苦い顔で言った。


「理由もわからず消される方がもっと嫌だ。だから……ここにいる」


 騎士の目が揺れた。

 驚きと少しの尊敬。

 そして、ほんの少しの警戒。


 アルシェは満足そうに頷いた。


「聞いた?」


 騎士は、ゆっくり息を吐いた。


「……承知しました」


 そして、視線を上げる。


「竜様。もう一点。王都では“候補者が次々消えている”と恐れる声もあります」


「消えてる」


 アルシェは首を傾げた。


「消えてない。ここにいるだけ」


 騎士は言い淀む。


「……行方不明者が増えております。冒険者、貴族、騎士、僧侶……」


 アランが目を見開いた。


「おい……まさか、他の候補も拉致ってるのか」


「妖精が確保した」


「言い方!!」


 アルシェはさらっと続ける。


「逃げたのもいる。失神したのもいる。泣いたのもいる。不合格になったのもいる」


「情報が雑!」


 騎士が喉を鳴らした。


「……竜様。王都としては、これ以上の混乱を避けるため、候補者選定の手順を――」


「手順?」


 アルシェが面倒そうに眉を寄せた。


「面倒」


「面倒で済ませるなよ!」


 アランが叫ぶと、アルシェは一瞬だけ目を細めた。


「……アランがそう言うなら、少し考える」


 アランは固まった。

 騎士も固まった。


 騎士が小声で呟く。


「……竜様、候補者の言葉を聞くのですね」


「聞く」


 アルシェは当然のように言った。


「逃げない人間は、価値がある」


 騎士がほんの少しだけ表情を緩めた。

 そして、ふと口元に視線を落とす。


 アルシェの手がいつの間にかアランの袖を掴んでいた。


 さっきからずっとだ。


 騎士は一拍置いてから静かに言った。


「……竜様。ひとつだけ、提案がございます」


「なに」


「他国からも要請がございます。候補者の安全と、王都の混乱回避のため。選考会を“公的”に」


 アランが嫌な予感に顔をしかめる。


「公的?」


 騎士は真面目に言った。


「王宮で正式に」


「やめろ」


 アランが即答した。


 アルシェは目を輝かせた。


「いい」


「良くない!!」


 騎士は続ける。


「王都には、候補者が自ら名乗り出る制度を作れます。拉致ではなく、応募に」


「応募……」


 アランは嫌な単語を噛みしめる。

 応募、と言った瞬間に世界がもっと狂う気がした。


 アルシェは頷いた。


「応募は好き。並ぶのは嫌いだけど」


「並ぶな、竜が並ぶな」


 騎士は少しだけ笑った。


「竜様が並ぶ必要はありません。応募者を、王宮が整理します」


 アルシェが即答する。


「採用担当みたい」


「言い方ぁ!」


 騎士は続ける。


「そして、竜様の基準が“顔”である以上」


 ここで騎士の目が一瞬だけ鋭くなった。


「……“偽装”が出ます」


 アランが眉をひそめる。


「偽装?」


「化粧、幻術、変身。顔を盛る者は必ず出ます」


 アルシェは、にこりと笑った。


「可愛い努力」


「努力で済ませるな」


 騎士は真剣だった。


「その中で候補者が騙される可能性も」


 アルシェの笑みがすっと消えた。


「騙される?」


「はい」


 騎士は一礼した。


「その他にも竜様の趣味嗜好を逆手に取り、国家や宗教が介入する恐れがあります」


 空気が重くなる。

 アランの背筋が冷えた。


 「竜様は顔が好みだと判断力が下がる」と妖精が言っていた。

 それが現実の政治になる。


 アルシェはゆっくり言った。


「……嫌」


 声は静かだった。

 でも、拒絶は鋼より硬い。


「偽物の顔は嫌」


 アランは思った。

 そこは嫌なんだ。

 殺すのは嫌で騙されるのも嫌。

 基準が妙に人間くさい。


 騎士は頷いた。


「ですので提案します」


 騎士はまっすぐアランを見る。


「第十七候補。あなたに協力を願いたい」


「……俺?」


「あなたは、竜様に“言葉が届く”」


 アランが固まる。


「それは……」


 アルシェが静かに言う。


「アランは、私のものじゃない」


 騎士の表情が一瞬凍る。

 アランの心臓が跳ねた。


 アルシェは続ける。


「でも」


 そこで少しだけ視線を逸らす。


「あなたが嫌だと思うなら嫌って言っていい」


 アランは息を呑んだ。


 この竜、たまに「選択肢」をちゃんと残す。

 それが一番ずるい。


 騎士は慎重に言った。


「王都の混乱を抑えるため、竜様が怒らぬよう、応募制度を整えたいのです」


「応募制度」


 アランは頭を抱えた。


「俺、ただの冒険者だぞ」


「だからこそです」


 騎士は真顔で言った。


「政治家ではなく、欲に染まっていない第三者が必要です」


「買い被りすぎだろ」


 アランはぼそっと言う。


「俺、安酒と昼寝と静かな生活が好きなだけだ」


 アルシェが頷く。


「私も好き」


「おまえは静かじゃない」


「静かに壊せる」


「やめろ」


 騎士が咳払いをした。


「……まずは、王宮にて“説明会”を」


「説明会!?」


 アランが叫ぶ。


「何の説明会だよ、花婿の!?」


「はい」


「世界が終わる!!」


 アルシェは嬉しそうに言った。


「説明会、楽しそう」


「やめろ!」


 アランがアルシェを睨むと、アルシェはふっと笑った。


「大丈夫」


「何がだよ」


「アランがいるから」


 その瞬間、騎士が小さく目を見開いた。

 理解した顔だ。


 そして静かに頷いた。


「……では、決まりです」


「決めるな!!」


 アランの叫びは、屋敷の天井に吸われて消えた。



 その夜。


 アランは客室に戻り、ベッドに倒れ込んだ。


 疲れた。

 胃が痛い。

 鼻が良すぎる。

 世界がうるさい。


 なのに、眠れない。


 目を閉じると、アルシェの言葉が浮かぶ。


「アランがいるから」


 何がだよ。

 俺はただの冒険者だ。


 ……ただの冒険者だった、はずだ。


 そのとき、扉が静かにノックされた。


「アラン」


 アルシェの声。


「入る」


「入るな!」


 扉が開いた。


「入った」


「最悪だ!」


 アルシェはベッドの端に腰掛け、真顔で言った。


「ねえ」


「なんだよ」


「今日のあなた、良かった」


「何が」


「逃げなかった」


 アランは顔をしかめる。


「……逃げ道は、まだあるって言っただろ」


「ある」


 アルシェは頷いた。


「でも、あなたはまだここにいる」


 沈黙。


 アランは視線を逸らして言った。


「……おまえも、約束しろ」


「なにを」


「俺を顔だけで見るな」


「うん」


「あと」


 アランは言いにくそうに続ける。


「……俺の意思を、勝手に奪うな」


 アルシェは一瞬だけ黙った。


 そして、いつもの軽さじゃない声で言った。


「奪わない」


「本当か」


「本当」


 アランは息を吐いた。


「……じゃあ、明日。王宮とやらに行く」


 アルシェの目が、少しだけ柔らかくなる。


「即答?」


「逃げないって決めたからな」


「いい顔」


「だからやめろ!」


 でも、いつもより声が弱い。


 アルシェは立ち上がり、扉へ向かう。


 振り返って言った。


「明日はもっと、匂いが多い」


「脅すな」


「大丈夫」


「また“世界の音量”下げる気か」


「あなたが望むなら」


 アランは一瞬、言葉に詰まった。


 望むなら、やってくれる。

 竜の力で。


 それは甘い毒だ。


「……必要な時だけにしろ」


「うん」


 アルシェは頷き、静かに扉を閉めた。


 その直後。


 廊下の奥で、何かがひそひそ話す気配がした。


『王宮、ですって……』

『応募制度……胃が……』

『胃薬、足りますか……』


 妖精の声だ。


 アランは天井を見上げた。


「……足りるわけないだろ」


 そして、思った。


 王宮で説明会。


 それはつまり。


 世界規模の“顔面選考”が、公的に始まるということだ。


 最悪だ。


 でも。


 その最悪の中心にいる竜がなぜか少しだけ可愛く見えた気がした。


 ……いや、気のせいだ。


 たぶん。


 ◇


 翌朝。


 王都の空に、ひっそりと新しい掲示が追加されていた。


『追加事項』

『応募制度を導入します』

『会場:王宮』

『司会:王都騎士団』

『※ただしイケメンに限る(据え置き)』


 妖精たちが理の中間層で頭を抱える。


「書いてないって言ったじゃない!!」

「書いてないわ」

「書いてるじゃない!!」

「私は書いてない。王が希望した」

「責任転嫁!!」


 そして、屋敷の窓辺でアルシェがにこにこしていた。


「便利」


 アランは胃を押さえた。


「……終わった」


 だがアルシェは、アランの袖を掴んで言った。


「行こう」


「どこへ」


「顔の戦場、第二ラウンド」


「王宮だろ!!」


 こうして。


 半竜の冒険者と、最強竜と、胃薬不足の妖精と、真面目な騎士が組んだ


 史上最悪に平和で史上最悪に理不尽な


 “公開花婿選考会”が幕を開ける。


 アランはまだ知らない。


 王宮には、顔が良いだけでは済まない


 とんでもない“応募者”が既に待っていることを。

 

※完結まで毎日投稿です。

よろしくお願い致します。

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