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転生最強竜の花婿探し(※ただしイケメンに限る)  作者: ゆうらり薄暮


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3 半分だけ竜になった男の朝



 最初に異変に気づいたのは、音だった。


 ――近い。


 目を閉じたままでも分かる。

 誰かがすぐそばにいる。


「……気のせいじゃないよな」


 呟いた瞬間、布の擦れる音がした。


「起きてる?」


 女の声。


 しかも、やたら落ち着いている。


 アランは、ゆっくり目を開けた。


 視界の半分を占めていたのは――白銀だった。


「……近い!!」


 反射的に身を起こす。


「おはよう」


 アルシェはベッドの縁に腰掛けたまま、平然と手を振った。


「なんでいる」


「観察」


「何を」


「半竜化した翌朝の顔」


「帰れ!!」


 布団を引き上げるとアルシェは首を傾げた。


「隠す必要ある?」


「ある!!」


「もう見てるし」


「いつ!」


「今」


 即答だった。


 アランは額を押さえた。


「……あのな」


「なに?」


「人の寝起きの顔を観察するな」


「どうして?」


「人間的な倫理観だ」


 アルシェは少し考える。


「ふうん」


 納得したのかしてないのか分からない顔だ。


「じゃあ、次からは起きてから見る」


「そういう問題じゃない」


 アルシェは気にせず、じっとアランの顔を見た。


「……やっぱり」


「なにが」


「色、変わってる」


 アランは眉をひそめる。


「色?」


「目」


 指先が近づいてくる。


「ちょっ、触るな」


「触らないわ。見るだけ」


 指は止まる。

 本当に止まった。


 その距離が逆に意識を煽った。


「金が入ってる」


 アルシェが呟く。


「金?」


「瞳の奥。昨日はなかった」


 アランは、ふと鏡を探す。


 部屋の隅に置かれた磨き板を覗き込んで――息を止めた。


「……誰だ、これ」


 そこに映っていたのは、確かに自分だ。


 でも、目の色がわずかに金を含んでいた。

 肌の血色が良すぎるし、寝不足のはずなのに妙に整っている。


「……余計なことしたな」


 アルシェは即答した。


「してない」


「嘘つけ」


「竜基準では最低限よ」


「最低限でこれかよ」


 アランは鏡から目を逸らした。


「なあ」


「なに?」


「俺、これ……戻れるんだよな」


 アルシェは、一瞬だけ黙った。


 ほんの、一瞬。


「戻れる」


「……本当か?」


「ええ」


 視線は逸らさない。


「でも」


 続けて言う。


「戻りたいって思わなくなる可能性は高いわ」


「詐欺師の言い回しだな」


 アルシェはくすっと笑った。


「選ぶのは、あなたよ」


 その言い方がやけに真面目で。


 アランは少しだけ胸の奥がざわついた。


「……なあ」


「なに?」


「一つ、言っとく」


 アルシェは黙って待つ。


「俺を顔だけで見るな」


 空気が止まった。


 妖精がいたら今ごろ胃を押さえている沈黙だ。


 アルシェは、ゆっくり瞬きをした。


「……それ」


「気に入らないか?」


「いいえ」


 即答だった。


「むしろ」


 少しだけ、声が柔らかくなる。


「嬉しい」


「は?」


「だって、そう言えるってことは」


 アルシェは、アランをまっすぐ見る。


「あなた、自分をちゃんと“人間”だと思ってる」


「当たり前だろ」


「当たり前じゃないのよ」


 静かな声だった。


「顔がいい人間ほど自分を“物”として扱われることに慣れる」


 アランは言葉に詰まる。


 昨日までの自分を思い出した。


 褒められて、流されて、期待されて、それでも深く考えなかった日々。


「……だから」


 アルシェは続ける。


「顔だけで見ないって条件、受け入れる」


「……即答かよ」


「即答よ」


 少しだけ、得意げに。


「観察対象は“あなたの人生”」


「重いな」


「竜基準では軽い」


「信用ならん」


 アルシェは立ち上がった。


「今日は外に出ましょう」


「は?」


「あなたの生活、見る」


「観察じゃないか」


「違うわ」


 振り返って言う。


「確認」


「何を」


「半分竜になったあなたが逃げないかどうか」


 アランは、苦笑した。


「……逃げたら?」


「追う」


「やっぱり優しくない」


 アルシェは少しだけ考えてから言った。


「でも」


「ん?」


「無理やり連れて行くのは、嫌」


 一拍。


「あなたが行くって言うなら、行く」


 その言葉にアランは少しだけ驚いた。


 選択肢がちゃんと残っている。


「……ずるいな」


「竜だから」


「……まあ」


 アランは立ち上がる。


「行く」


「即答?」


「逃げ道が分かってるなら、今はいい」


 アルシェは、満足そうに微笑んだ。


「いい顔」


「だからやめろ」


 でも、声は少しだけ弱かった。


 こうして。


 半分だけ竜になった男と世界を壊せる女はまだ恋愛未満の関係のまま、並んで歩き始めた。


 ――この距離が後戻りできないほど縮んでいることをアランだけが……まだ、知らない。


※完結まで毎日投稿です。

よろしくお願い致します。

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