2.5閑話 妖精たちの地獄会議
世界の裏側には、表からは見えない場所がある。
神域でも異界でもない。
ただ「理を管理するためだけ」に用意された中間層の空間。
そこに、妖精たちは集まっていた。
「……で?」
最年長の妖精が低い声で言った。
「誰が世界に直接書き込む許可を出したの?」
沈黙。
若手妖精がそっと手を挙げる。
「い、いえ……許可というか……」
「というか?」
「止める前にもう書かれてました……」
別の妖精が頭を抱える。
「もう書いたからねって、あのテンションでしたよね?」
「でしたね」
「軽率にも程がある」
机代わりの光の板がぱき、と音を立ててひび割れた。
感情に反応する素材だ。
「確認するわよ」
議長役の妖精が資料を広げる。
「今回の件の発端は――」
「最強竜アルシェ様が」
「前世の趣味を理由に」
「花婿を募集した」
「条件は?」
全員が声を揃えた。
「「「顔」」」
間。
「……以上?」
「以上です」
胃を押さえる妖精が増えた。
「人格は?」
「後だそうです」
「倫理観は?」
「会ってから考えると」
「価値観は?」
「顔が好みなら何とかなる……とのことです」
沈黙が落ちる。
空間が重くなる。
「……ねえ」
別の妖精がか細い声で言った。
「これ、世界壊されません?」
「可能性は?」
「高いです」
「理由は?」
「竜様、顔が好みだと判断力が下がります」
「致命的じゃない?」
「致命的ですね」
誰かがぽつりと呟いた。
「そもそもなぜ我々がこんな苦労を……」
年嵩の妖精が遠い目をする。
「……忘れたの?」
一同が静まる。
「竜様は本来、竜だった」
「はい」
「それがうっかり」
「うっかり……?」
「神格に片足突っ込んだ」
全員がうなずく。
「世界の理に干渉できるどころか」
「書き換えられる存在になった」
「しかも自覚が薄い」
「最悪です」
議長が深くため息をついた。
「だから我々は、竜様のご機嫌取りをしている」
「世界のために」
「世界が壊されないために」
若手妖精が恐る恐る言う。
「……今回、花婿を娶らせたいのも」
「そう」
議長は即答した。
「竜様の大切なものを増やすため」
「大切なものが増えれば」
「破壊衝動は減る」
「過去の統計でも明らか」
「つまり」
別の妖精がまとめる。
「今回の目的は」
「花婿探しではなく」
「世界安定」
「……の、はず」
全員がゆっくりアランの映像記録を見る。
先ほど確保されたばかりの第十七候補。
金と銀の髪。
憂いを帯びた美貌。
完全に無自覚。
「……第十七候補」
誰かが言った。
「顔、どうですか」
「竜様の好みド真ん中です」
「えぇ、彼の方は自覚があるのかないのか女と見まごうような美青年がお好きですからドンピシャです」
「今までの16人は微妙に好みから外れていたようですから」
「最悪ですね」
「最高でもあります」
「どっちだ」
議長が頭を抱える。
「確認事項よ」
「はい」
「私たち、妖精が人前に姿を見せた理由」
「話を早めるためです」
「例外措置です」
「通常なら我々が見える人族は限られます」
「祝福持ちか、愛し子か……」
「でも今回は」
「竜様の案件なので」
「優先度、最上位」
誰かが小さく笑った。
議長は資料を閉じる。
「結論」
一同が姿勢を正す。
「我々は」
「竜様の機嫌を損ねない」
「花婿候補を逃がさない」
「世界を壊させない」
「この三点同時進行……」
全員、顔を引きつらせた。
「できる?」
「……やるしかありません」
若手妖精が震え声で言う。
「胃薬、足りますか?」
「備蓄は?」
「三日分です」
「足りない」
議長は即断した。
「増やしなさい。世界が持つまで」
そのとき、空間の端がわずかに揺れた。
「……」
「竜様が」
「第十七候補を見ています」
一斉に背筋が伸びる。
「表情は?」
「……上機嫌です」
全員が頭を抱えた。
「始まったわね」
「ええ」
「顔がいい男による」
「世界存亡イベントが」
妖精たちは知らない。
いや、正確には――
まだ知らない。
第十七候補の男が花婿に向いていないほどまともな人間だということを。
それを知ったとき、竜の機嫌がどう転ぶのかを。
※完結まで毎日投稿です。
よろしくお願い致します。




