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転生最強竜の花婿探し(※ただしイケメンに限る)  作者: ゆうらり薄暮


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2 美貌の冒険者



 冒険者ギルドは朝っぱらから荒れていた。


「ふっざけんな!!」


 テーブルを叩いたのは、筋骨隆々の男だった。

 鎧の胸当てには大きな紋章が刻まれている。

 いかにも勇者の肩書きを背負った顔だ。


「世界を救ってきたのは俺だろ?! 魔王も討った! 竜の花婿だって俺が――」


「勇者様」


 受付嬢が恐る恐る鏡を差し出した。


「……鏡?」


「一応……」


「見るな!!」


 周囲の視線が微妙に逸れた。

 誰も口にはしない。だが全員、同じことを思っている。


 条件は、顔。


 勇者の功績は、条件に書いていない。


 ひりつく空気の中、隅の席で静かに酒を飲んでいた男がいた。

 薄い外套。使い込まれた剣。肩書きも取り巻きもない。


 なのに、目を引く。


 金と銀を溶かし合わせたような長い髪は、光の加減で色を変える。

 頬の線は細く、睫毛は妙に長い。

 その奥にある瞳はこっくりと深い紫色をしていた。

 表情はぼんやりしているのに、憂いだけが妙に似合う。


 中性的な美青年。

 そう言えば聞こえはいい。


 実際は、本人の意思と関係なく、ただそこにいるだけで絵になる顔だった。


 彼は杯を傾けながら、周囲の騒ぎを他人事のように聞き流していた。


「この街、頭おかしくなったな」


「前からだろ」


 美青年は面倒くさそうに返した。

 声は低すぎず高すぎず、これまた腹立つほど良い声をしている。


「……なあ」


 隣の男が声を落とす。


「おまえ、空……見たか?」


「見た。字が出てたな。悪趣味」


「悪趣味で済ませるなよ。あれ……竜の神託だってさ」


「へえ」


「へえ、じゃねえ」


 隣の男は彼の顔をまじまじと見た。

 見てから視線を逸らし、また見た。


「……おまえさ」


「何」


「顔、良すぎるの自覚ある?」


「ない」


 即答だった。


「嘘だろ……」


「生まれつきだ。どうしろってんだ」


 美青年は杯を置き、ため息をついた。


「俺はただ飲みたいだけなんだよ。静かに飲ませろ」


 ――その瞬間。


 ギルドの扉の外がふっと明るくなった。


 光が差したというより、光が集まったようだった。


 騒がしいホールのざわめきが一拍遅れて止まる。

 誰もが同時に同じ方向を見た。


 扉の前。


 そこに、小さな光がいくつも浮かんでいる。

 きらきらした小さな生き物たち。


「……妖精?」


 誰かが呟いた。


 本来、妖精は人前に姿を現さない。

 世界の管理者であり、神の下で理を調整すると言われている存在だ。

 見えるのは、祝福を受けた者か妖精の愛し子だけ。

 少なくとも、こんな酒場でぞろぞろ見えるものではない。


 次の瞬間、扉が吹き飛んだ。


 物理的に。


「ぎゃあああ!!」


「扉が!!」


「またかよ!!」


 煙の向こうから、光る妖精の集団が流れ込んでくる。

 統率が取れている。

 いかにも会議で決めてきましたみたいな顔をしている。


『該当者を確認します』


「該当者?!」


『顔良し』


「待て」


『年齢適正』


「待てって」


『未婚』


「聞け!」


『人間』


「条件雑すぎない?!」


 美青年が立ち上がった。

 椅子が軋む。

 周囲が一斉に道を空ける。逃げるというより、近寄れないのだ。


「ちょっと待て!」


 彼は眉を寄せる。

 憂いが濃くなる。

 さらに絵になる。


「俺は関係ない! 人違いだろ! 俺は貴族でも勇者でも――」


『関係あります』


 妖精がにこりと笑った。


『条件が顔ですので』

『我々は理の層から個体情報を参照できます。婚姻状態も顔面偏差値も。貴方は最適解です』


「最悪の理由だな!」


 妖精が合図を出す。


『花婿候補第十七号、捕獲』


「話を聞け!」


 床が消えた。


 いや、床が消えたというより、床以外が遠ざかった。


 世界がひっくり返る感覚。

 胃が浮く。

 声が出ない。


 最後に見えたのは、ギルドの天井と呆然とした冒険者たちの顔。

 そして、なぜかふわふわと宙に浮かぶ金色の文字だった。


『※ただしイケメンに限る』


 ――その時、彼は初めて思った。


 あ、これ。

 完全に。


 顔のせいだ。


 俺の名は、アラン・ド・ヴァレンヌ。

 ただ酒を飲んでいただけの冒険者だった。


 ◇


 次に意識が戻った時、足元が雲だった。


 正確には、雲よりもっと上。

 空が近すぎる。

 世界が下に見える。


「……夢か?」


『違う』


 声がした。


 振り向いた瞬間、言葉を失った。


 そこにいたのは、竜だった。


 巨大な生き物。

 どう考えても、美しいとしか言いようのない存在。


 神話に出てくる災厄とか守護とか、そういう言葉を全部まとめて形にしたような生き物だった。


 その存在は次の瞬間、ぼふんと音を立てて消えた。


 そして現れたのは、一人の女。


 白銀の長い髪。

 金の瞳。

 人の形をしているのに、人の尺度では測れない美貌。


 見た瞬間、理解した。


 あ、これ、勝てないやつだ。


「初めまして」


 竜は、にこやかに言った。


「あなたが十七番目?」


「……はい?」


 思わず声が裏返る。


「いや、違……えっと……」


「緊張しなくていいわ」


 彼女は首を傾げた。


「顔は合格してる」


「顔だけ?!」


「あと、悲鳴がうるさくないのもいい」


「評価基準が独特すぎる!!」


 後ろで妖精たちがひそひそ話している。


『失神してないですね』


『前例と比べると優秀です』


「前例があるの?!」


 竜は満足そうに頷いた。


「じゃあ、確認するわね」


 一歩、近づいてくる。


 近い。

 近すぎる。

 顔が強すぎて距離感が狂う。


「あなた」


 にっこり笑って、言った。


「竜になってもいい?」


「よくないが?!」


 空気が凍った。


 妖精たちが一斉に固まる。


 ……やったか?


 と思ったのも束の間だった。


「正直ね」


 彼女は感心したように言った。


「いい反応」


「え?」


「怖がるのも、拒否するのも正常」


 少しだけ目を細める。


「だから選択肢をあげる」


 俺の前に、二つの光が浮かんだ。


 竜になる


 ならない


「……ならないを選んだら?」


「記憶を消して帰す」


「竜になるを選んだら?」


「私の花婿候補として、審査続行」


「審査って何だよ……」


「性格」


 あっさり言われた。


「顔はもう合格だから」


 俺は頭を抱えた。


 世界は終わっていた。


 ◇


「……正直に言う」


 俺は深く息を吸った。


「怖い」


 竜は頷いた。


「正常」


「でも」


 顔を上げる。


「理由も分からず、全部なかったことにされるのは嫌だ」


 一瞬、空気が変わった。


 妖精たちが息を呑む。

 竜の目がほんの少しだけ細くなった。


「……いいわ」


 彼女は微笑んだ。


「その反骨心、加点対象」


「加点方式なのかよ……」


「だから」


 楽しそうに言う。


「今すぐ竜になる必要はない」


「え?」


「お試し期間」


 指を鳴らす。


「半分だけ竜にする」


「半分?!」


「寿命は伸ばす。魔力も少し与える。でも見た目は人間のまま」


「それ、戻れないやつじゃ……」


「逃げたら追う」


「優しくない!!」


 彼女はくすっと笑った。


「安心して。顔が良いから、丁寧に扱うわ」


「そこ?!」


 妖精たちが一斉に頷いた。


『そこです』


『完全にそこです』


 俺は遠い空を見た。


 人生って、顔で狂うことがあるんだな。


 ◇


 ――こうして。


 俺は半竜になった。


 選ばれる予定なんて、これっぽっちもなかったのに。


 そしてまだ、この時の俺は知らない。


 この竜が、顔だけで選んでいるように見えて、

 一番しつこく『逃げない人間』を見ていることを。


 恋が始まるのは、だいたい理不尽のあとだということを。


※完結まで毎日投稿です。

よろしくお願い致します。

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