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転生最強竜の花婿探し(※ただしイケメンに限る)  作者: ゆうらり薄暮


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1/9

1 ただしイケメンに限る!



 結論から言うと、私は転生した。

 しかも、竜である。


 ただの竜ではない。

 古代種。希少種。伝説級。

 神話の脚注で「詳細不明だがやばい」と雑に処理される側の存在だ。


 白銀の鱗は月光を弾き、翼は山を覆うほど大きい。

 火を吐き、雷を落とし、その気になれば世界の理にまで指をかけられる。


 正直、盛られすぎだと思う。


 数千年前、湖面に映った自分の姿を見た時、私は素直にこう思った。


『……うん、強そう』


 なお前世は、地球の日本人女性だった。

 名前も顔ももう思い出せない。

 人生の大半を会社と家の往復で溶かし、特技らしい特技もなく、たぶん普通の社会人だったのだと思う。


 ただ一つだけ、異様なほど鮮明に残っていることがある。


『イケメンが好きです』


 誇張でも冗談でもない。

 筋金入りの面食いだった。


 顔が良い。それだけで人生の彩度は上がる。

 顔が良い。それだけで多少の欠点は見逃せる。

 逆に言えば、顔が好みでない時点で選考対象外である。


 そして転生後も、その価値観は一切ぶれなかった。


 ――問題は、竜になってしまったことだ。


 竜の生は長い。

 とにかく長い。

 長すぎて暇が余る。


 私は一族の族長までやった。

 面倒な会議も、面倒な儀式も、面倒な責任も全部やった。

 数百年で飽きた。

 さらに数千年かけて可愛い甥っ子に族長の座を押しつけ、ようやく悠々自適の生活を手に入れた。


 自由だ。

 最高だ。

 ざまぁみやがれ長老ども。

 これから好きに生きるぞと心の底から思った、その頃だった。


 世界が、私を放っておいてくれなくなった。


 最初は小さな違和感だった。

 空気の密度が微妙に変わる。

 言葉にしなくても、世界そのものが『こうであるべきだ』と押しつけてくる。


 私はそれを面倒くさいなと思いながら、指先で適当に押し返していた。


 そんなある日。

 湖のほとりに、きらきら光る小さな生き物が集団で現れた。


 妖精である。


 しかも多い。

 やたら統率が取れている。

 いかにも『会議で決めてきました』みたいな顔をしている。


『竜様』


 代表らしき妖精が胸に手を当て、うやうやしく頭を下げた。


『お時間よろしいでしょうか』


「いいけど、手短にね」


 私は人型の姿で湖畔の岩に腰かけた。

 巨大な竜の姿で対応すると話が長くなる。相手が勝手に畏れ、勝手に儀礼を増やすからだ。

 人型の方が会話が早い。

 それが長い竜生で得た学びだった。


『恐れながら……そろそろ』


 妖精たちの空気がやけに改まる。


『血を残す時期ではないかと』


「え?」


『竜の系譜は貴重です。それに貴女様は、先代よりさらに前……長の系譜の直系』


 要するに、結婚しろということらしい。


 私はしばし考えた。

 竜生で初めての重大イベントである。


 いや、大昔に長老どもに捕まって延々お見合いループの地獄を経験したことはある。

 だがあれは思い出したくもないので割愛しよう。

 慎重になるのは当然だ。


 私は長い指先を顎に当て、湖面に揺れる月を見つめた。


 ――そして、答えを出した。


「……いいよ」


 妖精たちがざわめいた。

 空気が軽く跳ねる。期待と安堵が混ざった音だ。

 ああ、これは相当大きな案件だったのだなと、そこでようやくぼんやり理解した。


「ただし」


 私は一拍置いて、はっきり言った。


「顔がいい、人型の男に限る」


 沈黙。


 風が止んだ。

 湖が凪いだ。

 鳥が飛ぶのをやめた。

 世界が一瞬フリーズしたような気がした。


 妖精たちは目を見開いたまま固まり、次の瞬間、数名が同時に口を開いた。


『……え?』


「イケメン限定で花婿。あと竜族は却下で」


『……し、しかし竜なら竜同士で婚姻を……』


「無理」


 即答だった。


『なぜですか』


「竜だって人型くらい取れなくはないわよ。でも練習がいるし、竜同士は魂の格が近いから無理強いしにくいの」


『……は?』


「私は人型で生活する主義なの。結婚相手が常に巨大な本体形態だと家具がもたないでしょ」


 本音を言えば、今の竜族の雄は大方知っている。

 その上で、好みの顔がいない。

 見合いループの抜け道も散々試した。全部駄目だった。

 それだけである。


『家具基準……』


「あと会話が遅い。一言考えるのに百年単位とか無理」


 会話が遅いと普通に苛立つ。


『個体差では?!』


「却下」


 私は手を振って話を切り上げた。

 妖精たちは半分ほど魂が抜けた顔をしている。

 かわいそうだが、譲れないものは譲れない。


『……では、なぜ人間を? 人間は脆い種族です』


「顔が好みの人型になれる男なら何でもいいけど、どっちにしろ問題ないわ」


『え?』


 私は心底不思議そうに首を傾げた。


「私は全知全能の最強竜よ?」


『……』


「相手を竜にすればいいだけじゃない」


 完全な沈黙が落ちた。

 妖精たちは口を開けたまま固まる。

 面白い。


 私はそのまま、さらりと言った。


「格下の人間なら話は早いもの。魂の格を引き上げて、寿命を伸ばして、竜としての耐久性と魔力を与える。ね、簡単」


『それを……簡単と……』


「簡単だし」


 妖精たちは遠い目をした。

 彼らが胃を抱えたくなる気持ちは分からなくもないが、私にとっては事実なので仕方ない。


『……つまり』


 代表妖精が震える声で確認する。


『顔の良い相手を竜に作り変え、花婿にすると』


「そう、それ」


 私は満足げに頷いた。


「好みの顔を毎日眺められるなら、悪くないでしょ」


『……』


『……竜様』


 別の妖精が弱々しく手を挙げた。


『恐れながら、条件が顔のみというのは……』


「それが一番大事」


『人格、倫理観、価値観などは……』


「会ってから考える」


『後なんですね……』


「後」


 妖精たちの肩が、目に見えて落ちた。


 でも仕方ない。

 だって私の好きは、前世からずっと顔起点だったのだ。


 顔が好みだと世界が少し明るく見えた。

 頑張ろうと思えた。

 嫌な日も、顔を見ればどうにかなった。


 たぶん、そういう人生だった。


 名前も思い出せない過去の私が唯一握りしめていた、自分のままの価値観。

 それが、これだ。


「で」


 私は岩から立ち上がった。

 人型のまま翼を出し、悠々と広げる。

 月光が鱗を滑り、湖面に銀が散った。


 妖精たちが反射的に後ずさるのが分かる。

 そこまで怯えなくてもいいのに。

 私、そんなに怖い竜ではない。


「告知を出してちょうだい」


『……どのように?』


「こう」


 私は楽しげに笑った。


「最強竜が花婿を募集します。選ばれた人間は竜にします。条件はひとつ。顔が良いこと。以上」


 妖精たちが一斉に頭を抱えた。


『……これ、戦争になりますよ』


「顔が?」


『いえ、世界が』


「大丈夫」


 私は確信をもって言った。


「イケメンは、だいたい覚悟が決まってるから」


『根拠が薄い!!』


「薄い? 前世の経験則よ」


『前世がどんな世界だったんですか……』


 代表妖精が震える声で呟く。

 私は肩をすくめた。


「さて」


 私は空を見上げた。

 雲の向こう、世界の上澄み。

 そこに私の言葉が届く場所がある。

 届いてしまう場所がある。


 私はそれを便利としか思っていない。


「条件は変わらない」


 指先で空を軽くなぞる。


「※ただしイケメンに限る」


 次の瞬間、空気の層がわずかに軋み、遠くで何かが起動する気配がした。

 妖精たちが一斉に青ざめる。


『……竜様、今、なにを』


「書いた」


『世界に?!』


「うん」


『軽率に?!』


「うん」


『止められないんですか?!』


「もう書いたからね」


 私が言い終えるより早く、夜空のどこかがふっと光った。

 まるで世界そのものが『了解』と返事をしたみたいに。


 そして――空に文字が浮かんだ。


『竜より告知』

『花婿を募集します』

『選ばれた人間は竜にします』

『※ただしイケメンに限る』


『……本当に出た……』


 妖精の一人が膝から崩れ落ちる。


「ほら。便利」


『便利じゃありません!!』


 こうして、世界最強の転生竜による、史上もっとも平和で、たぶん理不尽な花婿選考会が始まったのである。


※完結まで毎日投稿です。

よろしくお願い致します。

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