ユキさんの事情。
男衆というのは、敷地内で設備整備や庭仕事をしている人たちのことだ。神社と関係住居を含む神域内で仕事をしている。
宮大工に変身して全国津々浦々に出かけたりもするので、よくお外からお嫁さんを連れてくる。
もちろん、御簾の間の支度も手伝ったはずだ。若い衆だけじゃ、仕組みがわからないだろうからね。
すぐに呼びに行った人が戻って来て、工具を持って三人来ると教えてくれた。私はその間にばばちゃまの部屋から椅子を持ってきて、廊下にしつらえる。そして、妹の真冬をなだめて両親の部屋に行かせた。終わったら呼びに行くからと約束して、部屋の鍵を閉めさせて送り出す。
真冬とすれ違っただろうくらいすぐに、男衆が三人やって来た。
「おー、みゆちゃんおめでとう! あ、内緒だっけか」
だはははは、と三人は笑いながら早速ばばちゃまの指示で私の部屋のふすまの状態を見始めた。
こんな調子だ。話はもう村中に広まっているだろう。きっと、知らないのは妹くらいだ。
「あー。確かにこりゃ、鍵変えた方が面倒ねえやな」
「わー、わざと鍵穴に絞り入れたんだな、こりゃ。えげつなー」
「鍵は在庫あったからすぐだよ。災難だったなあ、みゆちゃん」
一番若い男が引手のところを拭けるだけ拭くと、力技でえいやっと襖を外した。ばこんがつんと、結構大きい音がした。それで私の部屋は丸見えになったわけだけど、紳士な三人はできるだけ目をそらしてくれている。見張りの二人は離れたところに立っているので、中は見えない。
まあ、片付いてるわよ、気を付けないと母やばばちゃまや妹が来るからね。
「それにしても、冬季のやつぁーようやく結婚か。やっぱ前のは建前だったわけだろ? 俺らの予想どおりだよ」
前の、とは、前の婚約者の話か。
「そうそう、冬季は扱いが全然変わったから、レベル超高くなったんだろうなって、俺ら話てたんだよ。あ、俺同級生だから」
襖を外した若い男は、中学まで冬季さんと同じクラスだったらしい。なにせ一学年一クラスしかないからね。
「修行に出るとか、すげえよなあ。あいつはほら、ここでまとめて育てられたから、村の子供らの世話もしてただろ? だから基本的にやさしいし気が利くし。習い事も一通りやらされてたからなんでもできるし器用だし。もちろん成績もいい。まあ、もてたよなあ、一応は」
「はあ」
『一応』がつくわけか?
「なんだかんだ、『神谷』だからなあ。もてても皆一歩引くわけさ、年上の俺の学年でも結構いたなあ。怨霊片付いたからって急に眼の色変えてるような連中が、そういう連中さあ」
「ああ、いたいた、俺の学年でも。男見る目が上がっちゃって、行き遅れてんだよな」
三人は、てきぱきと引手や鍵を外したり、無理に外した鍵の受け手側をチェックしたりと、ちゃんと手を動かしながら、痛烈な皮肉を投げ飛ばしまくっている。
結構大きな声で話しているので、部屋で様子をうかがっている女性陣なら聞こえているだろう。
ばばちゃまは黙ってうなずいている。
「でもよ、結局七縛りってパワーあるじゃん。相手選ばないとダメだって話を聞いてたぜ、男の間じゃさあ」
「そうそう。鈍感じゃないと。半端じゃ相手できねえってな」
鈍感。めったやたらと私、それを言われるんだけども。
「完全に外の全く霊感がないような女か、神様でも受けれられるような七縛りの女かってな」
七縛りの宮内家家長の妻である亜希さんは、まったく視えない外の人だ。今の神宮様と結婚した人もそう。
元神宮の親父の妻は、七縛りの母だ。神宮当時の親父のところにはいろんな女性たちが送り込まれたらしいが、結局子供を産んだのは母だけだという。
本人は何かの時に酔っぱらって、俺は無実だ! と叫んでいたんだけども。そういうことなのか。
「村の者はなんだかんだ縁続きだったりするだろ? 中途半端に神谷の血がちょろっと入ってて、ちょっとくらいなら視えたりするし、変に勘がいいとか運がいいとかさ」
「だから、前のはさ、無理じゃねえかなあって言ってたんだよな。上の連中もわかってたんじゃねえのかね。婚約期間長かったから、血が薄すぎて大丈夫なくらい鈍感になってるのかなって話もしてたんだけど」
七縛りの妻が、三家以外の村の者ということはある。現相談役はユキさんの祖母で、七家のどっかの傍流の傍流みたいな話だしね。前婚約者も、その可能性があったわけだ。
「二屋の本家の娘だからなあ、そんなことねえよなあって、なあ。まあ、お別れに関しては、誰も驚かねえよな、男連中は」
「ああやっぱり、てやつな。まあ、長かったけどな」
「長かったけどな」
ちょっとしんみりしている。三人の気持ちはわかる。
つまり、二人は恋愛関係ではあったのだろう。だけど、体質的に無理だった。
まあ、こちらは棚ぼただ。心広く、言われておいてあげよう。ばばちゃまがちょっと無表情で怖いけどね。
「ほい、新しい鍵」
鍵の交換は十分ほどで終わり、襖は元通り、鍵のテストも問題なく、鍵は私とばばちゃまに一個ずつ渡された。ばばちゃまは、前部屋の鍵を持っているのだ。
「ありがとうございました」
「どういたしまして。じゃあ、明日頑張れよー」
どう頑張れというのかな?
私は、笑顔で彼らを見送った。
振り返ると、やらかしたらしい二人は、まだ気まずそうに立っていた。
「ばばちゃま、ありがとう。私、まゆを迎えに行ってくるね」
「ああ、よく家長様にもご報告おし」
「はあい」
二人のことは、あとはばばちゃまにまかせよう。
私は早速部屋の鍵をかけて、両親の部屋へと向かった。




