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突然の、じじばば大集合。

 お風呂を出て、パジャマにしているスウェットに、お気に入りの外でも使えるボアパーカーを羽織って部屋でぼーっとお式の時のことを反芻する。おなかすいたけど、顔がうっかり崩壊しそうなので、たっぷり反芻してから食堂に行こうかとね。

 まだ、七時だし。

 食堂は七時までだけど、ご飯は保温されてあるし、レトルト丼もお湯に付け込まれている。最終的に夜の十一時には電源切られて施錠されてしまうけど、部屋に持って帰って翌朝洗い場に出すなんてこともたまにしている。成長期ですからね。

 カップ麺やお菓子なんかも売店みたいなところに置いてある。

 家ごとの色別コインを各コーナーに入れておくと、コーナーごとのお値段で後から請求が来る仕組みになっている。入れるコインも食堂に置いてあるから、あっちからこっちに入れるだけ。

 手ぶらで行ける。基本的に、わが家に家族の団らんというものはない。

 ユキさんが誓いの言葉を語る様子が、脳内で反芻される。普段と違う、祝詞をあげるときみたいな、張のあるいい声だった。おまけに言っちゃったよ、『妻』! 『妻』!

 どよんどよん、とふすまが鳴る。母が呼びに来た。

「着替えて来てね」

 またかよ。いいとこだったのに。

 母が持ってきた『たとう紙』(着物を包んでる和紙の分厚いやつね)を開くと、神職用の一式が入っていた。白小袖に単衣、白袴、帯の類と足袋。

 んん?

 夕飯係のお役目は終わったし、そもそもあれは白の作務衣でいい。神殿に行くときは水路を通るためどうせ脱ぐので一式は着ない。夜の拝殿にでも行くのか?

 うちは、時々、突然、そういうことがある。そういうのは問答無用。お役目だ。

 着替えて父母の部屋へ行くと、母も同様に着替えていた。

「どこ行くの?」

御簾(みす)の間」

 どこのことかと思ったら、この間の婚姻届を書いた部屋のことだという。

 御簾といえば平安時代のお屋敷で、一番奥に偉い人がいて、その前にある仕切りだよな。すだれみたいな。神社にも一応あるが、うちの中で使うところがあるとは知らなかった。

 母が言うには、御簾は普段使うことがないので隣の部屋に片付けてあるけど、よく見ると天井に引っかけるところあるんだそうだ。床の間があるところが奥で、その手前に御簾を下げる。床の間側を奥御簾と言って、更に几帳(きちょう)を置いて目隠しをすることもあるという。几帳といえば、これまた平安時代に部屋の中で仕切ったり目隠ししたりするのに使っていた、木枠に布を下げたやつだよな。これも神社にある。普通、家にはないだろう。

 御簾に几帳で、いったい何を奥に隠すんだろう?

 うちで一番偉い人間は神宮様だけど、神社から出るのは祭りの時だけで村内(むらうち)まわったらそのまま神社直行だし。

 次に偉いのは家長で、うちの親父だ。あんなものは、そんな隠すようなものじゃない。

 考えていたら、当の親父が戻ってきた。やっぱり、神職の装束だ。

「そういえば、何があるの? 時間かかる? 夕飯まだなんだけど」

「臨時緊急氏子総代会だ。時間はわからん」

「は? それ、私関係あるの?」

「関係あるに決まってるだろ、おまえのために集まってるんだ」

「は?」

 ユキさんと私の結婚式は、臨時で緊急に氏子さん(神社を支える地元の方々。まあ、うちの場合は村全員がうちの神社の氏子さん)の役職が付いている皆様方を、招集しなくてはいけない事態を引き起こしたらしい。

 村の者のうち、ユキさんの婚約解消を知っているのは、両親と七家の家長と相談役代理の亜希さんのみ。

 私との婚姻届の提出を知っているのは、両親と亜希さんのみだ。

 七家より身近な三家は神谷・宮内・外宮。神谷はうち、宮内は亜希さんのところ、外宮はもはやないも同然で七家の人が名乗っているので、七家と同じ扱いだ。

 氏子総代は、三家七家から一名ずつ、更に七家の分家からも一名ずつ、という決まりだ。ようするに、村の偉いじじばばが勢ぞろい、ということだ。

「冬季は、今は『新神宮』様と呼ばれることがある。どういうことかわかるか?」

「えっと、二年前に、新しい神様が二柱現れてユキさんの中に入ったとかなんとか?」

「そう。その二柱は、神宮様の中におられる『おほらさま』の眷属であると、おほらさまがお認めになっている」

「眷属って、狐とか、鴉とかじゃないの?」

 お稲荷さんの狐とか、熊野神社の八咫烏とか。

「動物に限った話じゃなくてな、ようするに部下みたいなもんだ。『神使(しんし)』とも言うな。新たな二柱は、神谷の血筋だった者が神霊となられ、八百万の神々の一柱に列せられた。まあ、こちら側の公式ではないがな、あちら側ではそういうことらしい」

「はあ」

「おほらさまに眷属ができるというのは、この千年で初めてのことだ。だから、どう扱うべきかまったくわかっていない。冬季自身はこれまでどおりに生活しているからまあ、普段は気にしないんだがな。おほらさまも好きにさせてるし。冬季は気まぐれに神社に籠るし、時々、おほらさまの指示で仕事をこなすこともあるらしいが、説明がないので会社の仕事なんだかおほらさまの仕事なんだかもよくわからん。しかしな、おまえ、結婚式をしたんだろ?」

「うん」

「神宮様お手ずから、盃に酒注いで」

「うん、私のは舐める程度だけどね」

「一大事だろ!」

「そうなの・・・・・・?」

「おまえは、おほらさまに、眷属の妻として認められたんだ!」

「まあ、うん、そうね」

「それが一大事だって言ってるんだ!」

 ・・・・・・よくわからん。

「わかっとらんな。まあいい、とにかく皆揃った、行くぞ。おまえは聞かれたこと以外しゃべるな」

 よくわからないので、おとなしく言うことを聞くことにする。ただごとじゃないようだしね。

 父母に挟まれて『御簾の間』とやらに向かう。前回と同じく、廊下のあっちとこっちに見張りが立っている。前回と違うのは、双方とも白衣上下なところだ。御簾の間に入ると、中にいた氏子の皆様も同様の恰好だった。

 私は、母に手を引かれて、床の間側の中心からずれたところに置かれた几帳の陰に座らされた。母が、その隣のみんなからは見えるところに座る。父は、床の間の前に座った。

 そうして、七家のトップ、一谷(いちたに)の家長が、手をついた。

「この度は、新神宮様と神谷家長女未冬様のご婚姻、誠に、おめでとうございます」

 一斉に、全員が手をついて頭を下げた。

 江戸時代の殿様とお家来衆か?

 私は呆れて眺めるばかりだ。几帳があってよかった、表情は見られない。それに、おめでとうを言われているのは親父だしね。

 そうかと思ったら、親父がお礼を返したあと、一同がざっと座ったまま体をこちらに向ける。

 へ?

「未冬様、新神宮様とのご婚姻、誠におめでとうございます」

 えーと。

 ちなみに、私が『様』付け呼ばれるのは今日が初めてだ。

 ちらりと母を見ると、頷いている。返事をしろということらしい。私は、姿勢を正す。

「ありがとうございます」

 まったく全然、気圧されてなんかいないぞ、かつ調子に乗ってもいないぞ、という難しい演技だ。


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