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結婚式は突然に。

https://kakuyomu.jp/works/822139841307342761

ユキさんの活躍は上記『百物語が終わるまで』にて連載中です。なろう版を大改造していて若干設定が変わっているので、カクヨム版もお読みいただけると嬉しいです。

 おとなしく待っていると、ユキさんはすぐに戻ってきて、拝殿側の小部屋指さし、次に水路を指さした。神殿側に来いと言うことらしい。先ほどの様子からすると、神宮様の指示だ。断ることはできない。

 私は黙ってすぐに拝殿側の小部屋に入ると、作務衣(さむえ)から何からすべてを脱いで白小袖(しろこそで)羽織(はお)って白い短い腰ひもで縛って出る。すぐに脱ぐし、後で乾かすの大変だからね、簡単なの。

 水路に入る階段から冷たい水の中に入り、食事の箱を水面に浮かべながら水路の反対側にたどりつく。ユキさんが食事の箱を受け止めてくれたので、そちらは任せて岩の輪の下をくぐって、階段を使って神殿に上がった。

 ちなみに、生地が厚いので濡れて透けることもないし、へばりついて体の線がわかるとかそういうこともない。だって、神職なんてほとんど男ばっかだからね。逆に見たくないってのが、あるんじゃないのかな。

 そうして、更衣室になっている小部屋に行って、小袖を脱いで手ぬぐいで体を拭いて、新たな小袖と単衣(ひとえ)という白衣、更に白い袴を身に着けた。まあ、私も子供の頃からのことなので、慣れている。髪の水分はふき取りきれないので、ちょっと寒い。

 小部屋を出ると、ユキさんが待っていた。すぐに奥へと歩き出したので、それについて行く。神宮(かんみや)様が、神殿側の最奥に座っていた。

 神宮様の前には、屠蘇器(とそき)が置いてあった。三々九度(さんさんくど)のセットだ。

 屠蘇台の上に盃台(さかずきだい)が載せられていて、その上に大きさ違いの盃が三段に重ねてある。

 神宮様が、一升瓶から大小二器のお銚子に日本酒を入れて、盃台の脇にそれを置いた。お銚子の飾りはない。

 屠蘇器はいずれもシンプルな赤い塗りの一色で、年代物に見える。

 うちの神社で結婚式をするときは、神職も新郎新婦も拝殿にいるので、備品の屠蘇台も拝殿に置いてある。私も、巫女役でお手伝いをすることがあるので知っているが、あれとは違う。

 神殿にも置いてあったんだなあ。いや、奥の間か?

 屠蘇器が入っていたと思われる箱は、神殿の端の方に置いてあった。木箱だ。

 そういえば、大掃除の時に奥の間で神職さん方が木箱の中の塗り物なども出して手入れしていたのを見た覚えがある。使われているのは、見たことないけどね。

 ユキさんが神宮様の前に正座して座り、隣りを示したので、私はユキさんの脇に正座した。

 ユキさんにならって、手をついて、頭を深く下げた。

 神宮様が、祓詞(はらえことば)と、祝詞(のりと)をあげてくれた。

 これは、結婚式だ。

 続けて、三献の儀(さんこんのぎ)。三々九度だ。

 神宮様自ら、朱塗りの大きな方のお銚子を三回傾け、最後の時に一番うえの盃にお酒を注ぎ、ユキさんに渡す。

 ユキさんは、それを三度口につけて、飲み干した。

 神宮様はユキさんがお返しした盃に、再びお銚子を三回傾けてお酒をほんの少しだけ注ぎ、今度は私に渡してくれる。

 これは、めっちゃ恐れ多い。私は、慎重にかちかちになりながらその盃を受け取った。

 盃を三度口につけ、三度目にお酒を飲む。飲むと言っても、最初からほんの少ししか入っていないので、唇につける程度だ。

 そうして盃をお返しする。神宮様は、その盃に再び同じようにお酒を注ぎ、ユキさんに渡す。ユキさんも再び、同じように飲んでお返しする。

 普段の結婚式では、盃を渡してからお酒を注いでいるのだけど。今回は神宮様が手酌するみたいな感じで注いでくれた。

 神宮様はお酒がお好きだ。なんだか、普段飲んでいるお姿を見ているようで、少しだけ緊張がほぐれていった。

 続けて、神宮様は二段目の盃に、小さい方のお銚子で一段目の同じようにお酒を少しだけ注ぐ。二段目は、私、ユキさん、私の順でおなじことをする。

 更に三段目は、大きなお銚子で、ユキさん、私、ユキさんの順だ。

 神宮様は屠蘇台を脇によけて、ユキさんを見る。

 ユキさんは、軽く頷くと、私を見る。私は、目をぱちぱちさせる。えっと、三献の儀の次は、誓詞奉読(せいしほうどく)だよね。ユキさんはちょっと口の端をあげて見せて、神宮様に向き直る。

 そうして、はっきりとした声で、誓詞を読み上げた。拝殿でやるときは紙に書いてあるものを新郎が読み上げるんだけど、紙はない。オリジナルなのか、いつものものとはちょっと違うが、中身はだいたい同じだ。

 当社の神様、神宮様の中にいるのは『おほらさま』。ユキさんはずばりそうは言わないけれど、おほらさまのことだとわかるようにまわりくどく当社の神様をあげ、更にほかに祀っている神様をあげて、御前にて結婚式を挙げることへの感謝と、夫婦仲良く支え合い子孫繁栄にも努めます、的なことを誓い、今日の日付、つまりは私の誕生日の翌日の日付を言い、自身の名前を告げた。私は「妻、未冬(みふゆ)」と、続けて言う。

 うわあ『妻』だよ『妻』!

 この誓詞奉読(ちかいのことば)を受けて、神宮様が背筋を伸ばして、誓いは受けたので、今後とも誠心誠意仕え、かつ誓いのとおり夫婦仲良くしていきなさいね、的なお言葉をくれた。

 私たち二人は、両手をついて深く、床に額がつくほどに深く頭を下げる。その間に、神宮様は奥の間へと渡り廊下を通って移動して行った。

 衣擦(きぬず)れの音が消え、ユキさんに合わせて、私は体を起こした。

 ユキさんの方を見ると、ユキさんも私の方を見た。そうして、笑みを見せてくれたので、私も笑った。

 ちょっと、お互い照れた。

 すっごく緊張したけど、すっごくうれしい。

 神殿の中なのであとは話をすることもなく、ユキさんが屠蘇台の片づけをして食事の準備をしている間に、私は新たな白小袖に着替えて、お昼ご飯の箱を浮かべて、水路を渡った。

 最後は、あちらとこちらでそれぞれ正座して。手をついて、頭を下げて。

 頭を上げたあとに、ちょっと笑みを交わして。

 ユキさんは立ち上がって奥に戻り、私は小部屋に着替えに入り、作務衣に戻って拝殿から出て、垣根をくぐって家に帰った。


 再び、お風呂に行く。

 母もやって来て、誰もいなかった露天風呂に二人で移動した。露天なので、普通に話したら隣の男湯や使用人風呂にも聞こえてしまうから、本当にお互いにしか聞こえない声で、話をする。

「ユキさんに会えたでしょ?」

「うん」

「時間かかったね」

「なんか、神宮様がお式やってくれた」

「え?」

「神宮様と、ユキさんと私だけで。神殿で。指輪の交換とか玉串奉奠(たまぐしほうてん)とかはなかったけど、祝詞上げてくれて、三々九度のお酒、神宮様がお自ら注いでくれた。緊張したー」

「・・・・・・良かったね」

「うん」

 母は、すぐにお風呂から出て行ってしまった。


 そう、三人だけの結婚式は、実は、とんでもないおおごとだったのだ。


https://kakuyomu.jp/works/822139841307342761

ユキさんの活躍は上記『百物語が終わるまで』にて連載中です。なろう版を大改造していて若干設定が変わっているので、カクヨム版もお読みいただけると嬉しいです。

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