夫、発見しました。
https://kakuyomu.jp/works/822139841307342761
ユキさんの活躍は上記『百物語が終わるまで』にて連載中です。なろう版を大改造していて若干設定が変わっているので、カクヨム版もお読みいただけると嬉しいです。
結論として。
なんと、入籍当日、夫になるユキさんはうちに来ていた。
正確には、となりの神社に。
私がぐるぐるしながらケーキを食べていた頃、亜希さんの車で神社に付いて、そのまま神殿に入ったのだそうだ。
「神宮様の元に五日ほどいる必要があるそうだ。土曜か日曜には出てくるんじゃないか?」
朝食の時に、親父がしゃべっていた。
うちの食堂は、いろんな人がくる。住み込みの人もいれば、すぐご近所に住んでいる人もいる。
友達によると、若い人はうちの食堂を喫茶店とかカフェとかと呼んでいるんだそうだ。朝くるのは、喫茶店のモーニングを食べに行く、ということらしい。たまに村内の友達も来る。
確かに、駐車場側に一般の人向けに「神社かふぇ」という看板が小さく出ている。昔は「神社喫茶」だった。一般人はそんなに多くないのだけど、食堂の若い人たちが面白がって季節ごとにデコっていたりするので、ちょっと前まではハロウィンになっていた。クリスマスの準備をしているのが、角の作業スペースの様子からわかる。一応、ここは神社の一角のはずなんだけどね。まあ、亜希さん家の一階の保育施設の子たちも来るからね。
うちは神道という宗教の家だけど、神社施設そのものの中以外は、意外と柔軟だ。
みんなにはまだ、私たちの入籍の話も、ユキさんの婚約解消の話さえも知られていないようだ。
一部上の方の人たちには、婚姻届けを書く前夜にあった会合で、婚約解消の話はしてあると親父は言っていた。偽装婚約の設定で、双方別の婚約がまとまりそうだから、と、けん制してあるらしい。
うちがお祀りする神様は、昔とんでもない悪さをした怨霊なんだそうだ。
騒ぎを収めるために、神谷家のご先祖様が、自分の中に閉じ込めた。
千年前のことだ。
以来、神谷の子孫の中を転々としながら神社で暮らしていた神様は、四百年ほど前、脱走を試みた。
そうして再び神谷の子孫の中に閉じ込められ、いつからか七年おきに体を変えるようになったのだそうだ。懲りずに百年前にも脱走を試みて失敗したという神様は、今も、親戚の一人の体の中にいる。
その神様が入っている状態の人を、神宮様と呼んでいる。
ユキさんが神宮様のところに籠るのは、たまにあることだった。
ユキさんは、仕事でお祓いをしている。神社側からの依頼でお祓いをすることもある。
その対象次第で、神社に現れたり時には籠ったりもするのだ。
だから、みんな、ああまたか、今回は長いね、という感じだ。
こうなると、神殿に入らない限り、ユキさんには会えない。
うちの神社はちょっと特殊で、お賽銭箱の向こうに拝殿があって、その先に水路が流れていてその奥に神殿がある。そして更に奥には奥の間があって、神宮様が住んでいる。
基本的には、神殿の水路寄りのところの両脇に小部屋がそれぞれあって、片方は神宮様とのつなぎ役の人が常に交代制で一人いる。もう片方は、神殿に渡るためには水路を通って清めなくてはいけないので、びしょぬれの衣装を交換するための更衣室になっている。
ユキさんが籠るときは、つなぎ役である三交代制の朝晩昼番夜番の当番が一時的に解除されて、すべてをユキさんがやってくれる。あの水路を越えるのが地味に嫌で、当番は不人気だからみんな、ユキさんが籠るのは大歓迎なのだ。五日もいれば、単純に十五人も助かる。
そんな歓迎の空気が濃くて、ユキさんが籠ることを不審に思う人はいない。
結婚二日目。
帰宅すると、母に先に風呂に入れと言われた。
神宮様とユキさんの夕食を届けに行く係が、私に回ってきたのだ。
つなぎ役の交代時に食事が運ばれるのに、交代がないからだ。ご飯を受け渡すだけなので、相談役事務所の人や隣に住む神谷家で務めることが多い。だから、私が行くのも、不自然じゃない。
つなぎ役は、役目の前後にお風呂に入る。これは、神殿の下を流れて来た水で沸かしてある。一応鉱泉なうえに、神社の裏の崖の清水と神社の中で湧いた水なので、清める効果もあるのだ。
上も下も真っ白な作務衣を着て家の一階の東端にある相談役事務所の方へ行くと、亜希さんがいた。「ちょっと待ってね」と言って、お弁当屋さんが配達に使うような両手でぎりぎり持てる蓋つきの箱をすばやく用意してくれた。そこに、二人分の食事が入っている。
「ユキちゃん、おこもりが必要になっちゃった。不可抗力だから勘弁してあげてね」
亜希さんはまだ四十くらいだけど、相談役代理という偉い人だ。今回の事情もすべて知っている。亜希さんは、私のあこがれの女性だ。元防衛大卒の自衛官で、頭も良くて、何より、この神社を変えてくれた。いろいろな因縁があって暗かったうちが、亜希さん一人でずいぶんと明るくなった。亜希さんも、私にいろいろ教えてくれる。困ったら家長である親父にでも突っ込んで行ってくれる。
亜希さんが言うのだから、勘弁するかどうか、少し考えてあげようと思う。
うん、考えてあげるくらいはしよう。
食事を持って、拝殿脇から神社に入る。
水路の拝殿側に座って、合図用の紐を引いた。
カロン、と、木の板がぶつかる音が聞こえる。
拝殿側から見ると、右から左へと水が流れている。水深は私がちょうど足が届いて頭を浮かせていられるくらい。幅は二メートル以上あるので、普通の人には飛び越えることはできない。
流れていると言っても、足元は早いけど上の方はそれほど早くないので、身を縮めて浮かんで軽く腕だけで泳げばほとんど流されることなく神殿側につける。
水面から神殿や拝殿までは二十センチくらいあるし、深いので、双方水の中に階段がある。
でも、神殿側の階段は、這い上がれるところの岩を丸く掘りぬいた中をくぐっていかないといけないので、頭まで潜る必要がある。
通常、つなぎ役や神殿に用事がある人は拝殿側かよそで単衣に着替えてから水路に入り、神殿側の更衣室になっている小部屋で着替える。小部屋には、手ぬぐいと白の神職の白衣と袴が大量に置いてある。
一応、どうしても渡らなければいけないけど水に入れない場合は、神殿側と拝殿側から伸ばして繋ぐ橋がある。ただし、頭に水路の水をかけて手を洗うくらいはしてもらうことになっている。
今回のように食事を運ぶだけの時は、水の上を運ぶための板の上に乗せて、軽く流して対岸に送る。端へ流されてしまわないように紐が付けてある板で、それは神殿側に置いてある。
神殿側には、ランプの明かりが灯っていた。奥の間にもある。全体を照らすほどは明るくない。
私が鳴らした音を聞いたのだろう。神殿側の小部屋の陰から、ユキさんが姿を現した。
私がいるのを見て、まばたきをする。
一応、驚いたらしい。
その時、かすかに声が聞こえた。ユキさんが振り返って、軽くこちらに手を挙げると、奥に戻って行ってしまった。
次回も、火曜夜7時更新となります。
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ユキさんの活躍は上記『百物語が終わるまで』にて連載中です。なろう版を大改造していて若干設定が変わっているので、カクヨム版もお読みいただけると嬉しいです。




