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服の中身はなんですか?

 結局、そのまま宴会モードに突入された。

 正式なものではないので、特に紹介だのなんだのはなく、料理ができ次第あっちこっちで乾杯が始まるという雑然とした宴会になった。

 最初だけユキさんと私は向かい合わせになったんだけど、お疲れ様、と声を掛け合っただけで、ユキさんは座って一分で誘拐された。

 始まったのが三時頃。私はそれまでお昼ご飯お預けだったので、そこからごちそうをありがたくいただいた。屋敷にいる人たちのお祝いの言葉を受けながら、ついでに注がれるオレンジジュースとお茶をひたすら飲んで、高級なお刺身に舌鼓を打ち、高級牛肉のしゃぶしゃぶも食べた。ケーキも三種類食べた。六時になってもユキさんは同じ食堂内で誘拐されたままで、私もさすがにお腹いっぱいだったので、静かに退場した。

 あー、おなかいっぱいだし緊張もしたし、眠くなってきた。でもお風呂入らないと寝られないしね。一日こんなんだったから受験勉強ゼロだしなあ。食べすぎで溺れないように、ちょっと英語アプリで発音だけやろうかな。それから、母かまゆとお風呂行こうっと。

 なんとかおなかが落ち着いて来てから隣室のまゆに声を掛けると、まゆがお風呂についてきてくれた。まゆは小学生なので宴会の場には入れなかったけど、お刺身定食とケーキ二カットとオレンジジュースの瓶をセットでもらえたのだという。

 まゆの食器を片付けながら母にまゆとお風呂に行くと断って、私は久しぶりに姉妹風呂を堪能した。背中の洗いっこをしたり、まゆの頭を洗ってあげたり、楽しいお風呂だった。

 そうして二人で二階に戻ったんだけど、ちらっと、変なものが見えた。

「ん?」

 女部屋とユキさんたち親戚部屋の間には、洗面所とトイレがある。

 南側に並ぶ洗面台とトイレエリアの壁の間が通路になっているわけだけど、そこを抜けていく白い影がちらりと見えたのだ。

「見た?」

「うん、誰かが行ったね」

 私たちは小声で確認する。

 私たちは、昔よくやった足音をいかにたてずにギシギシいう階段を鳴らさずに上がれるか競争をして上がってきたので、多分、相手は私たちに気づかなかったのだろう。

 私はお風呂の荷物をまゆに預けて、部屋の前で待つように身振りで指示する。まゆは、うんうんとうなずいてから、ガッツポーズをして荷物を受け取ってくれた。何を頑張れと?

 まあ、あっち側は普段はほぼ無人で、今日泊まるのはユキさんだけだしね。

 まゆに見せられない修羅場が発生する可能性もあるわな。

 ばばちゃまに声を掛けた方がいいんだけど、ノックすると相手にばれちゃうしね。とりあえず、私はそーっと、トイレと洗面所がある方へ向かう。一応確認したけど、ふすまを少し開けて様子を見ている人はいないみたい。

 トイレの陰にいったん入ると、小さな金属音が聞こえた。

 うーん、鍵を開けようとしてるんだろうなあ。

 和室のふすまにとりつけた鍵は、まあ、チャチだ。とはいえ、普通ど素人には開けられない。ということは、隙をついてばばちゃまの部屋から鍵を持ち出すとかなんかしたんじゃないかな。おそらくはあの二人組のどちらかだろうから、一人がばばちゃまをなんかの用事で連れ出して、その隙に鍵を盗むとかね。

 トイレと洗面所の間の通路にそうっと入る。あちら側との間には扉があって、それは今は開いたままだ。普段は開けっ放しで通気していて、使用者がいる時は閉めるんだけどね。本当は。

この通路に入れば、ユキさんの部屋の入り口が見える。予想通り、ユキさんの部屋のふすまに鍵を差して一生懸命ひねっている女がいた。

 あーあ……。

 多分、ちゃちゃっと開けて中に入って、ユキさんを待ち伏せするつもりだったんだろうなあ。

 白い長めのカーディガンを羽織ってるんだけど。うまく鍵が開かなくて必死になっているうちに、しゃがみ込んで鍵穴をのぞくかのような姿勢になっている。おかげで、カーディガンの下の様子がよく見えちゃったよ。片膝たててるんだけど、太ももから下が丸見え。十一月も終わろうってのに、ショートパンツかよ。それともパンツだけか? まさかそれも履いてないとは言わないよね?

 上は中は見えないけど、重ね着感がない。頑張ってタンクトップで、ブラだけかもしれない。

 さすがにノーブラノーパンでカーディガンはないだろうからね。

 私はため息を落として、通路を抜けた。

「何やってんの?」

 女は、びくっとこっちを見上げて来た。

 鍵は差したままだ。抜けなくなったのかもしれない。

 たしか、五味の傍流の傍流なあたりの人だったよなあ。下の名前は知らないけど。

「そこ、私の『夫』の部屋なんですけど。何か御用?」

 私は、にーっこりと言ってやる。女の顔が引きつった。そこに、階段を上がってくる音がした。この二階は、両側に階段がある。そして、奥の階段を使うのは、ユキさんたちこちら側の部屋の人くらいなんだけど。なんか、足音が複数?

 女は、ぱっと立ち上がってカーディガンの前を重ねて押さえ、私の方に来かけて止まる。

 うん、前門の虎後門の狼状態だね。

 姿を現したのはユキさんと、昨日私の部屋のふすまの鍵を直した男衆三人だった。

「うえっ? 何やってんの里美ちゃん」

「え? なんで足丸出し?」

「あ、ユキの部屋の鍵、ささってんぞ? ばば様用のじゃん」

 里美ちゃんとやらは顔をこわばらせて真っ赤になった。ユキさんをちらりと見て、分がないとわかったんだろう、私の方に突進して来たので、私は避けた。

 すぐ脇を、足音も荒く駆け抜けて行き、自分の部屋に駆け込んで行った。ドアを開け閉めする派手な音がした。

「なんだあ? 夜這いかあれ?」

「おう、まゆちゃん。ユキは無実だぞ」

「……わかってる」

 ユキさんは、私が誤解する心配はしていないらしく、ささったままの鍵をながめて溜息を落としている。

 多分、ユキさんには、部屋に侵入者が来たことがわかったんだろう。それで、男衆に同行してもらって来たんだ。

「なんで、こんなに大勢で?」

 一応、訊いてみた。

「え? ユキが部屋に侵入者が来たっぽいって」

「ついて来てって言うからついて来た。なんかあったら大変だからな」

「新神宮様の護衛だよ護衛」

 護衛。夜這い狙いは予想の範疇だろう。多分、あの女はユキさんを部屋で待ち受けて、そこにもう一人の女が来て、既成事実が成ったかのように騒ぐつもりだったんだろう。

 それは確かにまずいけども、そもそも、ユキさんは鍵があっても部屋に入れない仕掛けをしてあったんだろう。ならば、廊下で遭遇するだけだ。

「……もう少し、やりようなかった?」

 夜這い狙いなら、それなりの恰好の可能性はあったし。いきなり四人で来なくても、三人を後ろに待機させる方法だってあったはずだ。

「悪いのはあの人だけどさ。さすがにちょっと、アレじゃない?」

 あんな恰好の女を、こんなうわさがすぐ広まるような田舎で、さらし者にするのはちょっと、配慮が足りないんじゃないかなって、思うんだけど?

そもそも通せんぼになって、あの女が逃げそびれたのは私のせいだけどさ。

 私は、どこに怒りを向けていいのか、わからなくなった。

「あー、みゆちゃん、そうは言っても、俺らユキのお友達だけどユキは新神宮様でもあるからさ」

「そうそう、一人で前に出せないよ」

「俺らの立場もわかって?」

 そっちはわかってる。わかんないのは、ユキさんの気持ちだ。

 するっと、ユキさんが三人の間を抜けて来た。

 すぐ私の前に立つ。特に表情もなく、私に手を差し出してきた。握手を求めるみたいに。

「なんですか?」

 動かないので、ユキさんと握手をしてみた。そうしたら、ぐいっと、腕を引かれた。

 引かれたけど、私はその場に立ったまま。だって、体が動くほどの力じゃなかったから。

「これで、俺の限界なんだよ。これ以上だと肩が痛くてね」

 ユキさんが言う。

「リハビリし続けて、やっと右手の握力が十六キロ。まゆちゃんより力ないかもね」

 妹のまゆは小学校五年生。さっきもお風呂でふざけた。今のユキさんよりも力はあった。

「俺は男だけど。さっきみたいなのがあるとね、襲われたら抵抗できないんだよ。誰かに守ってもらわないといけないんだ」

 ユキさんは、手元を見ていた。抑揚のない話し方をしているけど、手が冷たい。

「俺はね、襲われる側なんだよ。みゆちゃんを守ったりもできない」

これまで私に触れたユキさんの手は、いつも、あたたかかったのに。

 私は、ユキさんの手を離した。

「わかりました。守ってくれなくていいです」

 そう言って、私は、回れ右をした。

 洗面所の前を通り過ぎる。まゆが部屋の前で待っている。女が入った部屋を指さしている。騒ぎで、何人か廊下に出てきていて、ふすまを開けて廊下をのぞいている人もいるし、ばばちゃまも部屋を出て来たところだった。

 私は、まゆが指さす部屋の前に立つ。

 そうして、ゆっくりと息を吐く。

 それから、ドカッと、そのふすまを蹴り破った。


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