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証拠品、押さえました。

 両親の部屋に戻り、私服に着替える。ふえー、楽になったあ。

 なあんか、相談役様、すっごい帯も袴もぎーって絞められたんだけど。痩せろってことなのかしらね。

「ねえ、羽織り、これどうすんの? 御衣(みそ)の交換って何?」

「源氏物語とか読んでないの? 契りを交わしたあと、衣の交換をして男が帰るの。ようするに証拠品よ証拠品」

「うわあ、夢ねえな」

「当たり前よ。平安時代なんて、高位の人だとわかってても誰だかわからない、なんてことがあったわけだからね。今回は、周りに見せつけるためだけど」

「はあ。なんかすっごい見物人だったね、外」

「まあね。四谷と五味と陸奥が倒れて。一さんが一応一緒に出たわ。それで見物人が増えたんじゃないかしらね」

 一さんとは神職三家の宮内家の家長で冬一さんというのが本当の名前。冬の字カットで一さん。お医者さんなのだ。あんまりこういう場にはいないんだけど、たまたまお休みで逃げそびれたのかな。

「一谷の家長も斜めになってたけど、畳にしがみついて絶対出ない! て感じで残ったのよ。終わるころには回復して良かったわ」

 そして、両親と相談役様は平気の平佐だったのね。さすが。

「あー、早く化粧落としたいけど、今お風呂行ったらいいことなさそう」

「そうね。普通に夜入りなさいよ。一緒行くから。そこ、流しに化粧落としあるわよ」

「落とすー」

 父母の部屋にはミニキッチンがある。コンロ一口と流しだけだけどね。洗面台を兼ねてるらしい。とにかくさっぱりしたい。ありがたや。ああ、早く髪も洗いたい。

 てか、温泉入りたい。

 ちょっと、あの微発砲ととろみのある温泉の感じを思い出してしまう。いいなあ、あんな温泉入りたいなあ、あとで検索しよう、と思いながら洗顔して振り向くと、母が変な顔をしていた。

「何?」

「あんた、それ、駄々漏らしして歩かないでよ?」

「ん?」

 なるほど。温泉に思いを馳せたもんだから、ユキさんと一緒にいた時に私から広がったぬるいとろみのある空気が広がっている。ほんとーにわずかに、うっすら膜が張ったように見えなくもない。

「これね、なんだろね。ユキさんといたらなんか出て来た」

「それは、巫女の気だわ」

「巫女の気?」

「あんた、巫女に目覚めたのよ」

 はい?

 お茶を飲みながら聞いたところによれば、男性神宮様にお務めする女性の気質らしい。この気質が発現した場合、『神宮様の巫女』と呼ばれ、事実上の妻扱いになるんだそうだ。女性神宮様の場合は生理が止まるので、特にないらしい。配偶者や恋人がもともといた場合は寄り添うそうだけれど、特に夜番がおそばに呼ばれたりはしないんだそうだ。

「神宮様と巫女に目覚めた娘の子は百パーセント七縛りで、神宮に選ばれる可能性もとても高いと言われているわね。お父さんと私もそう。神宮様だったときのお父さんには正直、年の差も自分の年も関係ないと思っていたわ。あとは今の相談役様と、娘の冬美さんもそうね」

「相談役の娘さん?」

「ユキちゃんのお母さんよ。相談役様は子供が二人、一人は現神宮様の冬彦様。お姉さまが冬美様。冬美様はなっちゃんとユキちゃんを産んだ。二人とも当時の神宮様のお子よ」

「はあ……」

 聞いたことはあるけれど、なんかすごい近親婚だったんだよね、確か。だから二人とも戸籍に父親の名前がない、と聞いた。具体的に誰だかは知らないけど。

「ユキちゃんのお母さんはねえ、私の前に神宮様の元でお務めしていたのよね。お父さんとその前のお三人のところに」

「…………聞かなかったことにしとこうかな」

「それでいいわよ。覚えてはおきなさい」

 ユキさんのお母さんと親父がって……。いや、神宮様と生身を一緒にしちゃいかんわね。うん。親父は親父で、神宮様は神宮様だ。

 そうすると、母がいろんな七縛りのところをうろうろとお近づきになろうとするのは、そういう気質のせいなんだろうか?

 私がじっと見ると、母が悪びれもせずに言う。

「私は神宮様の元にお務めに出たいんだけどね。でも、お父さんに一緒に引退させられちゃったし、その後の神宮様方は女性を寄せないし、お役御免なのよねえ。まあ、お父さんは一応元神宮様だから、悪くはないんだけど」

 何が『悪くない』のかは聞かないでおこう。うん。雰囲気がピンクなんだが。

「えーと、でも、ユキさんは新神宮様で、しかも入れ替わりないんだよね?」

「そうね。お互い大事になさいね。こうなると、あんたに神宮様のお手がついてなくてよかったわ」

 うーん。娘をそのつもりで夜番に出すなよと一応言いたいね。次の代の時のまゆが心配だわ。

 そこに、誰かが部屋に来る気配がした。普通に広縁沿いの部屋なので、通る人はたくさんいたけどね。父がガラッと入って来た。なんだか、笑顔全開だ。

「宴会だぞ宴会、食堂解放だ」

「何? お刺身出るの?」

「出すとも、魚屋と肉屋と寿司屋にも声かけた。ケーキ屋もな」

 おお、ケーキ。生魚も普段食堂で出ないからうれしい。

「でもなんで? 予定なかったよね、今日は特に」

「ユキが昼で帰る予定だったからな。でも帰すどころじゃないだろおまえ、巫女様のお目覚めだぞ? 新神宮様と巫女様の真の夫婦の誕生だ。氏子が逃がすか、宴会だ宴会、ユキは捕まえてある、奴は今回は自分の車で来てないからな、送ってもらえないと帰れない」

 何やってんだ親父。

「俺は義理の父だぞ、遠慮なんかせんわ。なんだ、みゆ、化粧落としちまったのか? おいユサ、私服ももうちょっとなんとかして顔と頭なんとかしてやれよ。ただの宴会にしたって、せめて東京出かけるくらいにさあ」

「はいはい」

 母は呆れたように立ち上がり、ご機嫌で着替える親父を置いて、私を促して部屋を出た。


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