爆睡しました。
「刻限にてございます。これにて共寝の儀、終了と相成ります」
親父の声に、ぱっちりと目を覚ます。目の前で、ユキさんも目を開けた。二人して爆睡していたらしい。
私とユキさんは布団から起き上がり、顔を見合わせて、ちょっと笑いあった。
ユキさんのその笑顔は、見たことがない、気の抜けた感じの顔で。なんか、すごい愛しいなあと思ってしまった。七つも年上なのにね。
「失礼仕ります。御簾を巻き上げさせていただきます」
親父の声がして、出入りしていた側の御簾が巻き上げられた。
私は、ユキさんから最大限離れた布団の端に正座した。
うん、やっぱり親に見られたくないわね。
一谷の本家家長が手伝って、紐で結んでいる。胸の辺りまでしか上げていないので、外側での作業ではお互いに顔が見えることはなかった。そのまま、二人はこちらを見ることなく下がって行った。続けて声がする。
「失礼いたします。御新婦様のお繕いのため、入らせていただきます」
相談役様の声だった。
すぐに、相談役様が入って来た。そうして、少し離れたところで正座し、平伏する。
「御新婦様のお繕い、申し上げます」
「お願いいたします」
私は返事を返して、立ち上がる。
私が手伝ってもらいながら装束を身に着けている間、ユキさんは座ったまま眺めている感じになった。ちょっと恥ずかしいなと思ったけど、ユキさんは全然気にしていないみたい。まあ、重ね着するだけだしね。
そういえば、相談役様はユキさんの母方の祖母にあたるはずなんだけどね。
もともとあまり交流しているところは、見たことがないんだけど。
袴の紐を結び終えたところで、相談役様が見上げてきた。目が合う。
すでに七十代のはずなのに、肌艶もよくて、四十代だと言われても納得しそうだ。髪は真っ白だけどね。
相談役様はにこりと笑んで。身を引いて再び平伏した。
「御新婦様のお支度が整いましてございます。続きまして、新神宮様のお繕い、申し上げます」
いつの間にか母が、藁座を御簾を上げたところに二つ並べていた。こっちに座れ、と視線を寄こしたので、私は指示された藁座の脇にユキさんの方を向いて座った。
ユキさんは、相談役様に手伝ってもらって装束を身に着けている。よく見ると、目元とか顔のラインとか、似てる気がするわ。
支度が終わると、相談役様が下がって平伏した。
「新神宮様のお支度が整いましてございます」
相談役様が平伏する脇を通って、ユキさんがこちらに来る。私は、平伏して迎えた。
ユキさんが隣の藁座に座る様子を確認してから、体を起こして立ち上がり、ユキさんと視線を合わせてから、隣の藁座に座った。
私たちの前には、私の両親と、相談役様、それと、一谷の本家家長の四人だけが座る。
他の四人は途中で退室したらしい。そうだよね、本来なら退室した四人の作業じゃないかなあ、御簾上げるとか服着せるとかさ。
どうやら、この四人しか、残れなかったらしい。
恐るべし、ユキさんパワー。
私達とみんなとの間には、衣紋盆が二つ置いてある。それぞれに、羽織りが畳まれて載せられていた。片方は、私がここに来るまでに羽織ってきたものだ。
「氏子一同を代表し、あらためてお二方のご結縁を寿ぎ申し上げます」
親父が言って、一同が平伏する。
「ただいまより、御衣の交換の儀を執り行います」
今度は、一谷の家長が進行をする。
「新神宮様の御羽織、御新婦様へ」
相談役様がユキさんの側の盆の脇に座り、羽織を取り上げ、再び立ち上がって、私の前に座る。そうして、一度平伏したあと、また立ち上がって羽織を私の背に掛けた。そうして私の前に戻ってまた平伏したあと、自席へと戻って行った。
「御新婦様の御羽織、謹んで新神宮様へ」
今度は、母が立ち上がる。同様に、ユキさんの背に私の羽織を掛けて戻って来た。
私は、ユキさんの方を見る。
ユキさんも、私を見た。
ちょっとだけ目で挨拶を交わす感じになったけど、すぐに前に向き直った。
その様子を、なんだか四人に見られていたよ。
「これをもちまして、両名の御契り、確かに結ばれました。おめでとうございます」
親父が締めるのに、他の三人も唱和する。
「おめでとうございます」
そうして、四人がそろって平伏した。
私たちは、そろって少しだけ頭を下げる。
それからユキさんを見ると、こちらに頷いて、前を見る。ユキさんが言葉を返してくれるってことでいいんだよね?
「ありがとうございます。皆様、どうぞお顔をあげてください」
ユキさんの言葉で、四人は、体を起こして私たちを見る。
「皆様の祝意に感謝いたします。これよりは未冬と共に、我らの御神にお仕えして参る所存です。未熟な我等でございますが、どうぞあたたかくお見守りください」
ユキさんはそう言って、再び軽く頭を少しだけ下げる。私は隣で、同じように頭を下げた。四人は、今一度平伏して、今度はすぐに直った。
「以上をもちまして、御寝所参り、終了と相成ります」
親父が言う。
すっと母が立ち上がり、私の横についたので、私は立ち上がって、母に手を預けて出口を目指した。儀式なので、振り返ることはしない。
羽織を肩に掛けたまま、広縁に出て、庭沿いに進む。
庭や見張りの向こうにいろんな人の姿があった。マジかよ。
私は無表情のまま視線を浴びながら母に引かれ、両親の部屋に入った。




