表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/17

温泉に、入りましょう。

 奥御簾には、ユキさんがいた。

 すでに、白衣と袴を脱いで衣紋盆(えもんぼん)の上に畳んで置かれている。単衣一枚でめくった布団の上にあぐらをかいて座っていた。

 私は二帳の几帳の影の範囲に入ってから、同じように白衣と袴を脱ぎ、一度畳に正座してきちんと畳むと、ユキさんの衣装がお盆の上で右半分に置かれていたので、その脇に載せさせてもらった。

 それから一度立って、ユキさんのそば、布団の脇に正座した。

 ユキさんは、表情もなく私を見ていた。

 私は、一度手をついて、頭を下げる。お邪魔します、だ。

 再び立って、今度は布団の上に正座した。

 夫婦布団て、広いのよね。とはいえ、端っこに座っても、ユキさんからは手が届く範囲だ。

 私が上目遣いに見ると、ユキさんがようやく、ちょっと笑った。

 そうして、几帳を見た。

 こちら側の明かりは、足元の方に一つあるだけ。真っ昼間だというのに、机のスタンド一個みたいな感じだ。影は几帳にはかかっていない。多分、透けてはいないんじゃないかな、几帳も結構厚いみたいだから。御簾もあるしね。

 ユキさんが手招いたので、私はちょびっとにじり寄る。さらに手招くので、またちょびっとにじり寄った。すると、ユキさんが、体を起こして、立ち膝になる。昨日と同じ姿勢で、顔を寄せてきた。

 うひ。キスですか?

 ちょびっと身を引いてしまった。ユキさんはちょっとびっくりした顔をして、面白そうに笑った。そうして手招く。

 うう。はい。キスするとは、昨日言ってましたからね。

 私はあきらめて、姿勢を戻した。

 今度は、ユキさんは先に手を私の顔に添える。指先は後頭部に伸びてる。昨日と同じだ。逃げられない。

 私は、ユキさんのキスを受けた。

 触れるだけのキスから、啄むようなキス。そして、唇がつぶれるような密着度の高いキス。

 ええと、この辺までですよね?

 すでに、空気は昨日と同じような波動を発している。微炭酸の温泉。ああ、お風呂入りたいなあ、肌に細かい気泡が貼りつくんだよね、熱すぎない温度で、ぬめりのあるすこしとろりとした感じのお湯。

 私は、両手を伸ばした。

 ユキさんの顔を挟むようにして触れる。

 このまま、ゆっくりと温泉に浸かりたい。

 思ったのは、それだけだった。

 ユキさんが、びくっとした。

 ん? 私は、自分がユキさんに触れているのにちょっと驚いた。

 ユキさんは、唇を離して私を見降ろしている。目を瞬かせながら。

 ん? なんかおかしい。体がおかしい。

 微炭酸の温泉。気泡がいっぱいの。そこまでは、昨日と同じ。

 今は、空気が、もっととろみがかっている。

 いや、違う。

 ユキさんからは、微炭酸の気泡たっぷりの温泉のような波動が。

 それとは別に、私から、ぬるいとろみのある空気が広がっている。

 それが混ざって、本当に温泉に浸かっているような心地よさが広がっていた。

 ユキさんの手に、ちょっと力が入った。私も、ユキさんの顔にしっかり触れる。

 再び、キスをした。

 バタッと、何かが倒れる音が御簾の向こうでした。

 続けて、バタッ、バタッ、と。さらに二回。

 私たちはキスをしたままみつめあい、事態を察して、離れた。

「退室を許す」

 親父の声がひそやかに聞こえた。

 なんか、出入り口の方まで人を運ぶ何往復もの動きとか、そんなのがわかる。

 ユキさんも私も、ちょっと中途半端に固まったままその気配を聞いていた。

 部屋のふすまが引かれて何人かが出て行く時には、外からの手伝いも入ったみたいで、静かだけどそれなりの騒ぎになっていた。

 うん、気にあてられたのね。まあ、私には、気持ちよかったんだけどねえ。

 ユキさんが、立ち膝から腰をおろす。困った顔をしてこちらを見た。

 うん、気持ち、良かったな。温泉、入りたい。とりあえず、うちの鉱泉で我慢するけど。受験終わったら、温泉旅行に連れて行ってもらおう。

 て、何考えてんだ私!?

 ユキさんは、そのままごそごそと足を布団に入れて横になった。そうして、布団をかぶりかけたままの姿勢で待っている。

 ええと、入れということでしょうかね。

 私は、ごそごそとその隣に横になる。枕もちゃんと二つあったからね、掛布団は一枚だけど。

 ユキさんが布団を一緒にかけてくれる。

 右肩を上に横になっているユキさんと、左肩を上に横になった私。

 ユキさんの右手が私の左手に伸びてきたので、手を握り返した。

 そうして、布団の中だけ、さっきみたいな微炭酸ととろみを満たしてみる。

 お布団の中が、温泉みたいで、気持ちいい。

 ユキさんも気持ちいいみたいで、ちょっとほわっとした顔をしている。まあ、暗いから気のせいかもしれないけどね。

 ぬくもりが気持ちよくて、いつのまに二人して、熟睡してしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ