御寝所参り、だそうです。
そして、当日。
支度としては、風呂に入るくらいだ。
風呂を出たら両親の部屋に行って、いつもどおりの白衣と袴姿になる。そこに、地紋の入った白い羽織を羽織る。それだけだ。今日は足袋もない。
始まりは十時。私が寝坊したので、支度が整ったのは九時半過ぎ。父は先に会場入りしている。母がそわそわする中、私はソファにどかんと座っていた。和室だけどソファがあるのよね、両親のリビングは。もっとも、シワになっちゃあいけないので、寄りかかってはいない。
そこに、まゆが来た。
「あれ? お姉ちゃんどうしたの、なんか綺麗ね」
そうね、薄化粧もしているからね、今日は。母にやられた。
「お見合いみたいなものよ。結婚相手が決まったの」
いい加減、まゆも知っていないとね。父母もうまく伝える方法に悩んでいたので、ちょうどいいやと、私はそう言った。
「え? だれ?」
「ユキさん。新神宮様」
「えーっ! お姉ちゃん、すっごいっ!」
何故か、まゆにものすごく喜ばれた。
「お姉ちゃんうちの長女なのに、地味だし武道強いしあれは絶対嫁き遅れるとかって言われてたんだよっ。友達が家族が言ってるって言ってたもん。ユキさんかあ、すっごーい。わたし自慢できるわー」
ああそうかい。嫁き遅れ候補だったかい。小学校で話題になってたのかい。
「そういうのは、自分からは言わないの。聞かれたらね、春にお式をするらしいって、それだけ言いなさい」
母が言う。うん、そうだね。まゆまでいじられちゃあ、たまんないし。
「えーっ! 自慢したいなあ。だってユキさんだよお?」
「まゆ。この話、今、初めて知ったでしょ?」
「うん」
私は言う。
「実はもっと前から話はあったの」
「え? 私知らないのに?」
「そう。大事な話だからね、内緒。お姉ちゃん受験生だから」
「あ、そうか」
どこがそうかなのかわからないけど、それでいい。
「まゆが知らないうちに話が進んでいたのよ。ごめんね。春に結婚式するときは、まゆもおしゃれしようね」
「うん!」
まゆは今小学校五年生。これで、知らないうちに話が進んでいて自分もびっくりした、と言えるようになっただろう。
「で、何か用事だった?」
「うん。トイレに行くのに部屋出たらさ、昨日の二人、またなんかたくらんでそうだったんだよ、こそこそ同じ部屋に行くのが見えてさ」
ああ、あのジャムの二人ね。
「そう。まあ、原因はこれだから。ばばちゃまが気を付けてくれるから、放っておいていいよ。なんか気づいたらまた教えて」
「うん、わかった」
それだけ言いに来てくれたらしい。まゆは、母に促されて部屋に帰って行った。うん、いい子だ。
まゆが出て行ってすぐ、廊下に人の気配がした。
「失礼いたします」
「どうぞ」
女性の声がして、母の返事に、ふすまが引かれる。廊下に、五味のおばさまが正座していた。
そうして、手をついて言う。
「新神宮様が御簾の間にお入りになられました。未冬様もご準備をお願いいたします」
母を見ると、黙ってうなずいている。
「参ります」
私はひと言言って、立ち上がった。
五味のおばさまの先導で、私は御簾の間に移動した。母は、後ろから付いて来た。
御簾の間に入ると、中は薄暗かった。手前御簾にランプが二つ。奥御簾には端にランプが一つ。それだけだ。
手前御簾側には、父と、ユキさんの祖母の相談役。あとは一谷のおじさんたちが座って、奥御簾側を向いていた。
部屋に入ったところで、五味のおばさまは身を引き、代わりに母が私に手を差し伸べたので、私は右手を置く。母に手を引かれて、奥御簾の端まで進んだ。
ここで手を離し、母が私の羽織りを脱がし、それから御簾を上げる。私はくぐって、一人で奥に入った。




