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朱華の鬼母子は父を討つ  作者: 参望
1話/散りゆく朱華
9/67

1話/散りゆく朱華(6/7)

6.

一方、実鈴は地下を飛び出そうとしていた。

 それを実鈴の両親が止める。

「外に出ては駄目だ!連れ去られたら最後、帰って来れないぞ!」

「朱天鬼となれば、若い女に何をするか分からないよ!」

 酷く取り乱す実鈴。

「放して!お父様、お母様!

 泰寒様はもう動ける時間をとうに過ぎている!!

 行ってあげなきゃ!」

 

 実鈴は「ごめんなさい……」と言いながら、両親に小さな火の玉を投げて怯ませた。

 その隙に階段を駆け上って地下を出る。


(岩戸にいる時からも、微かにしていたけど……凄い血の匂い……!一体どちらの?!)


 石窟を出た先、見慣れた広場は赤一色になっていた。

 顔見知りの鬼達のバラバラな遺体が散らばっている。

 そして奥に見えるのは大鬼。

 関緋だ。


 理性を失った関緋は、傷の回復の為にある『血肉』を食していた。


『上半身だけになった泰寒』。

 全身真っ赤で、白目を剥いて、舌をだらんと出していた。


 実鈴は顔を歪めて涙を流す。

 同時に、周りから炎の手が上がる。鬼や妖が得意とする鬼術だ。


 震え、身を切るような叫び。

「放せ……!

 泰 寒 様 を 返 せ っっっ!!!!!」


 彼女は宙に浮いた。

 体を青い炎に包み、姿を変える。変化(へんげ)だ。


 現れたのは朱色の肌をした女鬼。

 すらっとした四肢と、細い腰の輪郭が美しい。

 天女のような妖艶さと、卑しい者を近寄らせない天神のような威厳が漂う。

 曙のような光を放つ長い髪を放射状に広げて浮遊していた。

 

「変化シタ、オンナ……?!」

「何と優美な……。」

 目を奪われる関緋とその仲間達。


 実鈴は彼らに向かって両手を振り上げ、思い切り下ろした。

 瞬時に空が曇り、雲の中で無数の赤い閃光が放たれる。

 雨の如く降る炎の槍。熱くありながら、氷柱のよう鋭い。

 

 それは朱天鬼達に突き刺さり、彼らを骨の髄まで溶かした。


 下っ端は残らず焼き消され、関緋と側近の大志摩が生き残る。

 彼らは同じく火の鬼術を放って攻撃を和らげる。

「関緋様に仕掛けるとは!何と雄々しい!」

 と、感心する大志摩。


 辺りは揺れる炎の稲田、もしくは風に揺れる彼岸花の群れか。


 石窟から出る前に、実鈴の覚悟は決まっていた。

(もし、最悪の状況が待っていたら——。敵に囚われて飼われるくらいなら、鬼として戦い、敵の命を奪って死ぬ!

 それが命懸けで戦った泰寒様への恩……。)

挿絵(By みてみん)


 実鈴は燕のように素早く滑空し、関緋に突っ込んだ。

 巨大で恐ろしい化け物をものともしない。


「泰寒様をぉ!!!返せぇっっっ!!!」


 互いの顔がはっきりと分かる距離。

 関緋にはその瞬間が止まって見えた。


 麗しい鬼女が涙を流し、怒りで吠えている。

 関緋という怪物に恐怖し、夫の死に狂い、それでも尚立ち向かう強さ——。


(俺を……見ているのか?

 俺だけを見て、命を捨て飛び込んで来た……。俺の胸に……。)


 関緋の母親は幼い彼がどんなに呼んでも振り向かなかった。

 認識されず、温もりを与えられなかった切なさが彼の脳裏に蘇る。


 関緋は手を伸ばし、実鈴を前から抱き締めた。

(俺だけを……見てくれる女……!!)


 実鈴は関緋が放すまいと力を込めるので、胸が潰されて息が出来ない。

 骨もミシミシ言っている。

「……っぁ!!!!」

 本当は身が溶ける程の灼熱だというのに、動じない関緋。

 痛みは彼にとって揺り籠か。


 もがく中、実鈴は関緋の後ろ首に何かが巻き付いているのに気づく。


 先程見た、泰寒の亡骸。

 彼は残った腕一本で敵に絡み付き、息絶えていた。


 その天晴な死に様に、実鈴は涙を堪える事が出来なかった。

「たい……かん様ぁ…… !」

(亡くなっていてもいい!最後に……その顔に触れさせて……!

 いつも私と向き合ってくれた、その顔に……!)

 彼女は最後の力を振り絞り、泰寒の顔に手を伸ばした。


 やっと届いて頬に触れた瞬間、泰寒の体はマグマのようにドロドロに溶けた。

 黄金の火の粉となって実鈴に降り注ぐ。

 彼女に別れでも告げているかのように。


「ご立派……でした……、貴方を誇りに……思います……——。」


 彼女の意識は途切れた。




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