1話/散りゆく朱華(4/7)
4.
『朱天鬼』。
大江を住処とする、天鬼の中でも交戦的な一族。
大江の鬼退治で有名な、『酒呑童子』の血を引いているとされる。
鬼というのは戦いが性分故、土地や食料を巡る、一族同士での小競り合いは珍しくない。
しかし朱天鬼はそれに留まらず、『鬼の天下統一』を掲げ、全ての一族を力で屈服させて、手中に収めようとしている。
服従する者の命は奪わないが、絶対の忠誠を約束させ、歯向かう者は全て根絶やしにすると恐れられている。
石窟の方は騒ぎになっていた。
朱華天鬼の男達が、攻めて来た朱天鬼と交戦している。
朱天鬼達は朱華天鬼達よりも大柄で筋骨隆々、しかも目付きも鋭い猛者揃いだった。
朱天鬼は20に対して、朱華天鬼は10に満たない。
子供や年寄りを、石窟の中へ逃すので手一杯だった。
朱華天鬼の男達は一族の為に戦うが、圧倒的な腕力や気合いに押されてしまう。
皆血を流し負傷していた。
このまま全滅かと思われたその時、辺りが少し暗くなった。
瞬間、突風が吹き、朱天鬼達の首や四肢が飛ぶ。
三毛猫色をした虎の化け物の影。
それが通った後は、鮮血が赤い風となって流れ輝く。
「遅くなった。
皆よく持ち堪えた。」
と仁王立で現れたのは泰寒。
「泰寒様だ!!助かった!」
「朱天鬼を一瞬でやるなんて!さすが大将!」
朱華天鬼達は歓喜の声を上げる。
一方、後ろで様子を伺う、2人の朱天鬼。
「朱華の長ですぞ、『関緋』様。
我が朱天鬼の猛者を同時にとは、やりますな。」
と跪く、髭の天鬼。
彼の隣には、主人らしき天鬼が腕を組んでいる。一際眼光が鋭い。
「そうでなくては面白くない。
ギリギリまで足掻き苦しみ、やっと倒されるような相手でなければ、我が朱天鬼の名は轟かん。」
後ろに掻き上げ流した、岩肌のように荒々しい朱色の髪と、がっしりとした体に纏った赤黒い鎧。堀の深い顔と冷ややかな目。
朱天鬼の長。名は『関緋』。
また、彼の一族では族長は称号として『酒呑童子』と呼ばれる。
「朱華は俺が仕留める。
手を出すな。『大志摩』よ。」
「御意……。関緋様。」
髭の天鬼・大志摩はこうべを垂れて退いた。
近寄る関緋。
泰寒は気さくに話しかける。
「うっかりそちらの子分を殺してしまったのだが、怒らないのだな?」
鼻で笑う関緋。
「怒る?複数いながら相手に傷の一つも付けられず負け死んだ者に、そんな価値は無い。」
「流石、噂の猛者。やる事も、言う事も極端、……いや 、単純だ。
で、我が自慢の朱華の土地が欲しいのか?」
「そんな優しくは言ってはおらぬ。
『速やかに寄越せ。出来ぬなら死ね』だ。」
関緋は構え、唸り始める。
「ヌゥンッ!!!」
強張らせた手を握る。同時に野太く凄みのある掛け声。
鎧が膨張し、弾け飛ぶ。
泰寒は腕組みしたまま、飛び散った破片を余裕で避ける。
関緋はどっしりと重みのある、強靭な筋肉に覆われた体を見せる。
太く盛り上がった肩や腕。古い大木のように頑丈そうな太い胴。
何より、足がすくんで目を背けたくなるような、その覇気。
それを見せられた泰寒。
呑気に伸びをして、準備運動を決め込む。
「やーれやれ。お前らが笑顔で『こんにちは』でも言えたら、美味いものでも食わして歓迎してやったのになあ。
……そうか。じゃあ、とっとと帰るか死にな。」
戯れは終い。
鋭い氷柱のような、冷ややかな目を向ける。
泰寒は髪を、跳ぶ獅子の如く振り回しながら、袴以外を一気に脱ぎ捨てる。
色白で痩せ気味だが、関緋に負けないくらい、よく絞った身体。
表は余裕を見せる泰寒。
だが、内心では関緋を測り切れずにいた。
(これが噂に聞く、朱天鬼の『関緋』。
“俺の動ける間”に終わらせてくれれば良いが……。)




