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朱華の鬼母子は父を討つ  作者: 参望
最終話/忌み子は父を抱く
66/67

最終話/忌み子は父を抱く(9/9)

9.

 緋寒の中で、幼い頃に見た母の姿が花開くように思い出されては萎んで枯れた。

 

 いつも話す時はしゃがんで目線を合わせて、優しい声で囁いてくれた。

 緋寒と元実が喧嘩しないように、2人一緒に抱いてくれた。

 兄弟が焼きもちを焼き合って喧嘩しても、叱らずに、2人の我が儘を沢山聞いてくれた。

 食事をする時は、食べ物を食べやすく小さくしてくれたり、好きなおかずを分けてくれた。いつも自分が食べるのは最後だった。

 風呂に入る時、髪を洗ってくれた時の手の感触が好きだった。


 得意な事も、不得意な事も猶更、母に褒められると嬉しかった。

 母を上手く笑わせられた時も、凄く嬉しかった


 同時に、母が子供達の見ていない所で泣いているのは、何も手が付かない程悲しかった。

 自分自身の事をいつも我慢して、こちらが心配すると平気な顔を作っていた。


 自分達を寝かし付ける時の子守歌は……とても優しく、幸せそうだった。

 でも、どこか直ぐに壊れてしまいそうで、悲しそうだとも感じた。

 いつかの別れの時を思っているようで……。


『ねーんねーこ ねーんねーこ ねーんねこよー』


 緋寒は母の細い声を思い出しながら口ずさむ。喉の奥が狭くなったような感覚を味わいながら。

「ねーんねーこ……。ねーんねーこ…………。」


 涙はもう枯れている。

 しかし、何度やっても、いつもの作り笑いが出来なかった。




***




 戦いの地に赴こうとする鬼が一人。


 大江の朝日を眺める緋寒。

 風に三つ編みが揺れる。


 彼はその三つ編みを手に取った。

 母が編んだ、ただ一つの形見ともいうべきもの。


 彼は晴天の空を見上げた。

「母上、そちらで自由を満喫しているか?

 俺は空は飛べないが、上を向いて進む事はできる……。

 せいぜい笑って、もがく俺達を見降ろしておれよ……。」


 彼は無表情から笑みを作った。


「今行くぞ!まだ見ぬ鬼達よ!!

 俺のこの笑みを剥がし、泣かしてみせろ……。」


 


 彼の姿は朝日の眩い光の中に消えた。

 側では、咲いたばかりのニッコウキスゲが揺らめいていた。




(最終話・完)


挿絵(By みてみん)

ニッコウキスゲの花言葉「日々新たに」「心安らぐ人」

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