最終話/忌み子は父を抱く(6/9)
6.
やがて血塗れの満身創痍になる関緋。
散々殴られ、蹴られ、あらゆる関節を外され、それでも無事な足一本で立っていた。
一方、緋寒はほぼ無傷。ダメージは受けたが、既に自己回復を終えている。
緋寒は真正面から関緋の胸を手刀で貫いた。
胸に空いた穴からトクトク脈打つ動脈、それと心臓を引っ張り出す。
関緋は口と胸から血を鉄砲水のように噴き出す。
緋寒は手に握った父の心臓を愛おしそうに眺めた。
小刻みに握って弄ぶ。
「アッハッハぁ……!
温かいなあ……父上の心臓……。」
「ひ、かん……!」
関緋は寂しくて泣きそうな子供のように、緋寒の膝に追い縋る。
刹那、緋寒は眼光を放ち、心臓を握り潰した。
ブチュっと音がし、八方に飛び散る鮮血と肉片。
関緋は床に倒れた。
血の絨毯が広がる。
彼は呻き、もがく。
(ああ、死ぬのか……!痛い……!苦しい……!)
その時だ。
関緋の体は温もりに包まれた。
緋寒が彼を正面から抱いていた。
彼の首の付け根を噛んで血を飲んでいる。
血は糧。
強くなる為に、倒した父から力を奪い取っているのだ。
「父上……良かったな。
強さ故に誰も殺してくれる者がおらず、独りで老衰する所だったな。」
軽そうに言う緋寒。
緋寒が来る前、関緋は死を望みながらも、一人で寂しく死ぬのは嫌だと葛藤していた。
だが、その不安は取り払われた。
誰よりも憎い彼によって。
更に皮肉な事に、関緋は緋寒の抱擁から実鈴を思い出していた。
彼女と同じ、心地良い鼓動が聞こえる、温かい胸。
思わず錯覚を起こし、彼の背中を撫で返してまでいた。
「じ、つ……りん……。」
(……屈辱……だ……。
だが、俺は緋寒をあの男(泰寒)と全く同じものだと思い込んで、よく見ようとしなかったのだな……。
故に、緋寒自身を見ていなかった。
実鈴と同じ肌の色……。まつ毛の長さも……。
これがお前の顔……。)
嘘の笑みを向けたままの緋寒。
そして彼に重なるように実鈴の幻も見えた。
(……す…………まな……かった…………。)
喉が詰まって声は出ない。
『罪と向き合えたので、やり直す為にも生きたい』
『今なら理解できる。幸せな家庭を築きたい』
様々な願いが頭の中で花火のように煌めいて消える。
だがもう遅い。
頭の中を後悔で一杯にする最期。
それが彼の人生の幕となってしまった。
押し潰されそうになり、彼は縋るようにある一つの場面を思い浮かべる。
実鈴、そして幼い元実と緋寒を、その腕一杯に抱き締める自分。
(次が……許されるなら……、次に……生まれてくる時は……きっと…………、き っ と …………!
ど…………う……か……!)
関緋は涙を流したまま動かなくなった。
緋寒は作り笑いを止めた。
父の髪を掴んで吊るし、無表情になる。
「何故そんな顔をするのだ?ん?
父上が昔叱ったように、睨まず笑ってやっているのだが……。
何故泣いている?」
しかし、答えはもう返って来なかった。
緋寒は近くの火の中に父を捨てた。
薪をくべるように、無造作に。
緋寒は燃える彼を真顔で眺める。
「父上を倒したら、もっと心がスカッとすると思っていた。
なのに、こんなに呆気ないとは。
思えば……殺してしまったから次はもうないのか。
殺さなければ、もう何度か戦えて、もっと違う特別な気持ちになれたのだろうか……?
まあ、どうでもよい。
もう俺にとって、この男は価値がない……。」




