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朱華の鬼母子は父を討つ  作者: 参望
最終話/忌み子は父を抱く
63/67

最終話/忌み子は父を抱く(6/9)

6.

 やがて血塗れの満身創痍になる関緋。

 散々殴られ、蹴られ、あらゆる関節を外され、それでも無事な足一本で立っていた。

 一方、緋寒はほぼ無傷。ダメージは受けたが、既に自己回復を終えている。


 緋寒は真正面から関緋の胸を手刀で貫いた。

 胸に空いた穴からトクトク脈打つ動脈、それと心臓を引っ張り出す。


 関緋は口と胸から血を鉄砲水のように噴き出す。


 緋寒は手に握った父の心臓を愛おしそうに眺めた。

 小刻みに握って弄ぶ。

「アッハッハぁ……!

 温かいなあ……父上の心臓……。」


「ひ、かん……!」

 関緋は寂しくて泣きそうな子供のように、緋寒の膝に追い縋る。


 刹那、緋寒は眼光を放ち、心臓を握り潰した。

 ブチュっと音がし、八方に飛び散る鮮血と肉片。


 関緋は床に倒れた。

 血の絨毯が広がる。


 彼は呻き、もがく。

(ああ、死ぬのか……!痛い……!苦しい……!)


 その時だ。

 関緋の体は温もりに包まれた。


 緋寒が彼を正面から抱いていた。

 彼の首の付け根を噛んで血を飲んでいる。

 血は糧。

 強くなる為に、倒した父から力を奪い取っているのだ。


「父上……良かったな。

 強さ故に誰も殺してくれる者がおらず、独りで老衰する所だったな。」

 軽そうに言う緋寒。


 緋寒が来る前、関緋は死を望みながらも、一人で寂しく死ぬのは嫌だと葛藤していた。

 だが、その不安は取り払われた。

 誰よりも憎い彼によって。


 更に皮肉な事に、関緋は緋寒の抱擁から実鈴を思い出していた。

 彼女と同じ、心地良い鼓動が聞こえる、温かい胸。

 思わず錯覚を起こし、彼の背中を撫で返してまでいた。

「じ、つ……りん……。」


(……屈辱……だ……。

 だが、俺は緋寒をあの男(泰寒)と全く同じものだと思い込んで、よく見ようとしなかったのだな……。

 故に、緋寒自身を見ていなかった。


 実鈴と同じ肌の色……。まつ毛の長さも……。

 これがお前の顔……。)


 嘘の笑みを向けたままの緋寒。

 そして彼に重なるように実鈴の幻も見えた。


(……す…………まな……かった…………。)

 喉が詰まって声は出ない。


『罪と向き合えたので、やり直す為にも生きたい』

『今なら理解できる。幸せな家庭を築きたい』

 様々な願いが頭の中で花火のように煌めいて消える。


 だがもう遅い。

 頭の中を後悔で一杯にする最期。

 それが彼の人生の幕となってしまった。


 押し潰されそうになり、彼は縋るようにある一つの場面を思い浮かべる。


 実鈴、そして幼い元実と緋寒を、その腕一杯に抱き締める自分。


(次が……許されるなら……、次に……生まれてくる時は……きっと…………、き っ と …………!


 ど…………う……か……!)




 関緋は涙を流したまま動かなくなった。


 緋寒は作り笑いを止めた。

 父の髪を掴んで吊るし、無表情になる。

「何故そんな顔をするのだ?ん?

 父上が昔叱ったように、睨まず笑ってやっているのだが……。

 何故泣いている?」

 しかし、答えはもう返って来なかった。


 緋寒は近くの火の中に父を捨てた。

 薪をくべるように、無造作に。


 緋寒は燃える彼を真顔で眺める。

「父上を倒したら、もっと心がスカッとすると思っていた。

 なのに、こんなに呆気ないとは。

 思えば……殺してしまったから次はもうないのか。

殺さなければ、もう何度か戦えて、もっと違う特別な気持ちになれたのだろうか……?


 まあ、どうでもよい。

 もう俺にとって、この男は価値がない……。」


 


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