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朱華の鬼母子は父を討つ  作者: 参望
最終話/忌み子は父を抱く
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最終話/忌み子は父を抱く(4/9)

4.

 更に数年後――。


 新しく魔城に改築された大江の城。

 岩や金属で補強しており、赤黒いヤマアラシのような見た目になっている。


 城の周りには鬼数百が整列していた。

 見た目が人間に似ている天鬼とは違う、絵巻などによく登場する化け物の姿をした鬼達だ。


 天守最上階の廻縁から鬼の兵達を見下ろす天鬼の男。

 禍々しく赤黒い甲冑姿、鬣のような朱色の髪。そしてがっしりとした体格。

 獲物を射殺すかのような冷たく鋭い目つきをしている。

 関緋……、いや似ているが違う。


 背後で人鬼の赤鐘が跪く。

「『元実』様、出発の準備が整いました。」

「うむ。」

 元実は返事した。


 そう、彼は20に近い大人に成長していた。

 

 彼は戦の経験を積み、自ら軍を率いて人間の國々(くにぐに)に攻め入り領地を勝ち取るまでになっていた。


 因みに従えている化け物達は人間を鬼に変えたものであり『鬼兵』という。


 赤鐘の隣には大志摩と白妙が同じく跪いている。

 大志摩は髪と髭の白髪が目立つようになっていた。

「しかし、元実様は大きくご立派になられました……。

 病の関緋様に代わり、傘下に収めた赤鬼の一族達を上手く従えつつ、更に大昔に人間達から奪われた土地を次々と奪い返していらっしゃる。

 土地を取り返したお陰で、食糧や土地を巡る鬼同士の争いが減り、大江は豊かさを取り戻しつつあります。」


 真面目に話す大志摩に対し、茶化す白妙。

「確かになあ。あの小さくて人の尻ばかり触っていた小僧が男前になったものだのう。

 これで素直に縁談を受け入れて身を固めれば完璧なのだが。折角のモテ期が台無しだ。」


 元実はしかめっ面のまま振り返る。

「夫婦や家族など……実にくだらん。


 いずれは朱天鬼存続の為に伴侶を得るが、今はお前達がいればよい。

 女に溺れるよりも遥かに価値のある集まりだ。」


 大志摩達は「勿体なき……」と、深々と頭を下げた。


 元実の真横にひょいと立つ赤鐘。

「確かにご結婚は少し後がよいかもしれませんねえ。

 まず『家督を継ぐ』のが先かと……。」


 元実は拳を握りしめた。

 急に彼の周りから噴き上がる熱風。

 妖力で広がる髪。


「赤鐘。この戦から帰ったら……分かるな?

 父上、いや、あの穀潰しに首をよく洗わせておけ。

『それがこの世で最後の風呂になる』とな。」

「御意にございます」と会釈する赤鐘。


 その時、部屋の入口で耳をそばだてている者がいた。

 鴇羽であった。


 彼女は誰にも知られる事もなく、実鈴を深く愛していた。

 そんな主人を最後の別れもままならないまま失う。

 そして今は関緋の世話を担当している。


 彼女にとって関緋はとても憎かろう。

 しかし、鴇羽は関緋の人鬼。

 彼と血を結び、生かされている存在。

 それ故、本能的に彼に危害を加える事が出来ない。


 憎いのに敵を打つ事も許されず、敵の世話をさせられているというのは、どれ程狂いそうな事なのか。




 ***

 

 


 鴇羽は大江の奥山へ向かった。

 霧がかかった池に着く。


 湖の畔は草や石が大量の血で真っ赤だった。

 まるで血の雨が降った後のようだ。


 霧の中に一盛りの山の影。

 その山の上で何かが蠢いている。

 その影は獅子か狼か。

 影は陽気に鼻歌を歌いながら、山を貪っていた。


「良かった……。戻っておられましたか。」


 霧が晴れ、影の姿が明らかになる。

 山だと思っていたのはトグロを巻いた大蛇の妖であった。

 ただ、それはピクリとも動かない。


 代わりに動いているのは大蛇の上の妖しい男。

 彼は蛇を食っている。


 頬骨の浮き出た中性的な顔立ち。

 炎のような朱色をしたクセのある長い髪。中間から毛先までを緩く三つ編みにしている。

 怠そうな目と咀嚼の息遣いが艶っぽい。

 やや細めの体で、顔は面長の女のようであるが、腿や腕は筋肉でがっしり太い。


 かつて朱華の長であった泰寒という男にそっくりだった。


「『緋寒』様……。

 元実様は関緋様に決闘を申し込むつもりです。

 今を逃したら後はありません……。」


 緋寒は喉仏を動かしながら咀嚼した肉を飲み込む。

 血塗れの、すらっとした指を艶っぽくしゃぶって綺麗にする。


「ふむ、どうして父上の人鬼がそれをわざわざ俺に伝える……?」

 俯いたままの鴇羽。

「貴方はずっとお父上と戦いたがっていました。その為に長い武者修行に出ていたのでしょう?

 実鈴様のお子の願いが無事叶うように配慮するのも私に残された務めです。」

「成程。父上の罠だったら面白いと思ったのだが、ただの親切か。」


 緋寒はニイィと八重歯を見せて笑った。

「楽しみは最後まで取っておきたかったが、それなら急ぐとするか。父上は一人しかおらんからなあ。」

 夜風の音のような、艶っぽい囁き声。


 実鈴の死後、緋寒は強者を求めて島国中を駆け回り、ひたすら戦いに身を投じていた。

 その相手は、人間の武者、深い洞窟や高い山に住まう大妖怪、人間に忘れ去られた神獣、まだ見ぬ力を持った天鬼達など様々。

 いずれも、時に善戦、時に生死を彷徨う苦戦をしつつもそれらに勝利し、全てを強者になる為の糧とした。


 元実が赤鬼や人間達に『鬼王』と呼ばれるのに対し、緋寒は『修羅』としてその名を轟かせ、恐れられるまでになっていた。


 緋寒は立ち上がる。

 近くの茂みで、黒い影が無数に動く。

 緋寒の食べこぼしにありつこうとしている魑魅魍魎だ。


「アハハ……いよいよか……!今行くぞ、愛しい父上……。」

 彼はまるで恋焦がれるかのように囁いた。

 顔に張り付いた嘘の笑みをもっと笑顔にして。





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