1話/散りゆく朱華(3/7)
3.
話は結婚後の朝に戻る。
泰寒は実鈴を連れて外に出た。
実鈴が年頃で未婚だった頃なら、危険で有り得ないと言われる行為だが、今は彼女を守る夫がいるので問題ない。
一族の鬼達とすれ違い、軽く挨拶などを交わす。
狩りや鉱山労働、無法者の人間からの略奪など、仕事に行く所のようだ。
「これは泰寒。新婦殿とお散歩か?
新婚とは言え、夜更かしと寝坊は程々にな。」
「そうからかうな叔父上。また実鈴が顔を赤くする。
それより、もう朝から猪を仕留めたのか?見事だ。」
皆、山奥の鬼にしては質素ながら小袖に上等な毛皮の羽織を重ね、ちゃんとした身なりをした者が多い。
小袖などの着物は人間の文化から取り入たもので、毛皮や金属・宝石を使った装飾品などは鬼の独自のものだ。
因みに泰寒は臙脂の袴に羽織。
実鈴は市女笠のようなもので姿を隠している。
泰寒は実鈴を横抱きにし、近くの峰まで登る。
少し雪が溶け、その下に繁っていた這松が顔を出している。そこを静かに通る白い冬毛の雷鳥。
雪の斜面から水蒸気が立ち、それが流れる方には果てしない青空と盆地が見える。
「すっかり春ですね……。ほら、人間の里の方、木に花が点々と。」
「今年も無事に冬を越せたな。」
「ええ。朱華の里は、本当に豊かな地になりました。大昔は凍死や飢えで苦しむ鬼も多かったのに。」
「今後はこの地をもっと大きくしたい。
依然として、人間は魔除けの術で我らの生息地を狭めてる。
そうして住処を追われた天鬼達を集めて住まわし、人間の都に負けない、華やかな地にするのだ。」
「古き考えに囚われない、素敵な考えです……。」
地面に下ろして貰う実鈴。
笠を取ってやる泰寒。
その瞬間、彼女の髪が風に大きくなびく。
泰寒は彼女の顔にかかった髪を掻き上げてやった。
実鈴は彼と目が合い、頬を染める。
(私の夫が泰寒様でなかったら、きっと『女は争いの種で、他の男に狙われる』と言って、この様に外へ連れ出してはくれなかったでしょう……。
泰寒様はいつでも私に心躍る景色を見せて、自由をくれる……。
この鬼の世では当たり前でも、子孫繁栄の道具として扱ったりもしない……。
私を1人の鬼として理解してくれる……。)
感謝の念で瞳が潤む。
「……私、ずっとこうして何度も春を迎えたいです。貴方と……。」
「きっとそうなるさ。
……実鈴が側におれば、例えどんなに厳しい冬が来ようとも、乗り越えられる。」
彼は背中から彼女を包んだ。
実鈴もまた、彼の胸の温もりを感じた。
その時、2人の所へ鬼が走って来る。
同じ朱華天鬼の住人だ。
「泰寒様!!
他族の集団がこちらに向かって来ます!」
瞬時に険しい表情になる泰寒。
「奴らの髪色は……?!」
「鮮やかな朱色です!
他の一族を片っ端から潰して回っていると噂の『朱天鬼』です!」




