最終話/忌み子は父を抱く(1/9)
最愛の妻・実鈴を自分の幼い嫉妬のせいで失い、関緋は壊れてしまった。
彼はあらゆる者へ許しを乞うが、誰も彼に手を差し伸べない。
それどころか関係は悪化するばかり。
更に数年後、大人に成長した息子・緋寒は彼の血を欲して動き出す。
関緋に下された裁きとは……?
1.
――どこ?どこにいるの?!ねえ!出てきてよ!――
獣の咆哮さえもかき消す程の大雨が降り注ぐ。
闇夜の中で息を切らし、がむしゃらに走る大鬼。
変化した関緋だった。
彼の視界を、飛び散った臓物や千切れた手足が通り過ぎる。
彼は今、殺戮の最中だ。
他一族の鬼達は数十人がかりで術や攻撃を当てた。生き残る道に懸けて。
関緋は痛みで咆哮する。赤子のような声の張りっぷりだ。
――痛い……痛いよ。もう殴らないでよ父上、母上……!
実鈴、どこ……?早く、抱き締めて……!――
心の中で幼児退行を起こす彼。
実鈴が何処にいるのか考えた末、思い出す。
抹消したくても出来ない過ちを。
彼の脳裏に映る、血塗れの彼女。
口と鼻から血を垂流し、目は明後日の方を向いている。
ずっと抱いているとどんどん身が固くなって、生臭くなっていくのが分かった。
どんなに腕の中で保温しようが、家臣が彼女を彼から引き剝がした頃には、すっかり冷たくカチカチになっていた。
(彼女は……俺が殺した……?
そうだ……俺が!!)
彼は敵に反撃を始めた。
自分、彼女、両親など、あらゆるものへの怒りが、体に受けた痛みをハイにさせる。
彼は辺りの生き物全てを赤い粘着物に変えた。骨と肉のペーストになるまで殴って。
悲鳴や呻き声が聞こえなくなった頃、彼はまた立ち尽くす。
そうして怒りが収まると、また孤独感に押し潰されそうになって、彼女を探す。
そして彼女を殺した事実を思い出し、また怒り、泣き、狂う。
その繰り返し。
そんな彼の様子を、大志摩や家臣達は離れた場所から見ていた。
隣には赤鐘。
引いている皆と違い、張り付いたような笑顔を絶やさない。
「ね?離れていて良かったでしょう?
○○とハサミは使いよう。
深い悲しみで無差別に暴れてしまう君主もまたしかり。
暴れ疲れてきたら眠くなる薬湯を飲ませてあげます。
そうすれば比較的安全にお城に連れ帰る事が出来るでしょう。」
後ろめたそうな大志摩。
「しかし、一人に任せて我々は後ろに隠れるというのは、鬼として褒められた事ではない。」
「ならば、次回は隊を分けて複数の根城を同時に攻めましょうか。
関緋様は私が見てれば十分なので、大志摩様は元実様と一緒にどんどん他を攻めに行ってください。
その方が元実様は戦いに集中できますし、適切な勢力分配でしょう。」
疲れたのか関緋は赤子のように座り込んだ。
目の前の血肉ペーストの赤さが実鈴の髪色のようだと錯覚し、生温かいそれを腕一杯に掬って抱き締める。
その温かさが一時的に彼の孤独を慰めた。
彼の脳裏で彼女が微笑み、彼を胸に抱き入れる。
『よく頑張って戦いましたね……。
さあ、血を拭きましょうか。』
(今度はいくらでも嘘を吐いてくれてもいい……。
どうか、また俺に微笑んでくれ……!)
極限まで愛に飢えた怪物。
愛する者を自業自得で失い、いかれてしまった男の末路である。




