6話/紅の刃を託して(8/10)
8.
その日の夜。
寝床に入り、今日顔を合わせた人達との、色んな表情や言葉を思い出して笑顔で眠る。
否。それは叶わなかった。
関緋がまた彼女を部屋に呼んだ。
実鈴は部屋に入る。
明かりさえ灯していない真っ暗な部屋。
関緋は彼女の準備を待たずに無理矢理口付けした。
彼の鋭い眼光が暗闇で光る。
「んっ!んぅん……!!」
関緋は彼女の首筋や手に鼻先を滑らせた。
そしていきなり彼女を寝台へ押し倒す。
四つん這いで馬乗りになり、軽く首を絞める。
「あぁ、や、めて……!!」
「また緋寒に会っていたのか……?
『会うな』と何度言えば分かる……!
我が子から昔の夫の面影を見て欲情するとは……本当に気持ちの悪い女だ!!」
彼は吐き捨てるように言った。
彼は交わる前に相手を労わる優しさなど捨て去っていた。
ただ、怒りのまま彼女を抱く。
彼女が嫌がろうとも、事を強引に進めた。
事が終わり、実鈴は掛け布団に包まった。
「こんな事は慣れている」と自分を奮い立たすが、手の震えは止まらない。
関緋は蔑んだ目で彼女を見下ろした。
自分が好かれようとしていた女を、今、力任せに従わせた。
虚しそうな、そして、泣きそうな顔で笑いだす。
「全部……お前らが悪い。
俺を一人にしておいて被害者面をするな……!」
実鈴は聞き流して「部屋に戻ります……」と、起き上がる。
が、関緋は彼女の手を掴んだ。
「こうしよう。
お前が緋寒に会う度、奴を痛めつける……!
お前はいくら警告しても奴の所に行くからな……!」
「……やめて!痛い!」
実鈴は身じろぎしてその手を振り払おうとしたが、彼は手の力を込めるだけだ。
「この事を誰かに相談したなら、その相談相手をなぶり殺しにしてやる!!
俺はお前を甘やかし過ぎていた……!」
こんな事をすれば、もう彼女との関係の修復など不可能である。
やっと彼は手を放した。
彼女は逃げるように部屋を出た。
残された関緋は乾いた笑い声で寂しく笑った後、嗚咽を始めた。
「アハっアハっっっ!!なぜ早くこうしなかった……。
俺の親達が俺にやったようにするだけで、こんなに気が晴れるとは……。
父上、母上も俺を殴って、こんな風に快感を得ていたのか……。
何て、気持ちがスッとするのだろう……!」
それに気づいた時、彼はどうしようもない深い悲しみと怒りの感情に包まれた。
近くにあった花器を壁に投げつける。
しかし壊しても全然スカッとしない。
「父上、母上……!お前達は、やはり最低のクズだ……!!
汚物以下だ……!!
俺がこうなったのも全部、全部、お前達のせいだ……!
実鈴にこんな事をして心を満たすしかないのも……元はと言えばお前達の間違った子育てのせいだ……!!
そのせいで、お前達を殺した後も俺は苦しいままだ……!!」
泣き顔を両手で覆って床に伏せ落ちる。
一方、実鈴は部屋の外でへたり込んでいた。
疲れ切った、無気力な顔。
(私達は限界……なのね。
もはや子供達を憎んで傷付けるしか出来ず、いつか本当にあの子達を殺めてしまうのなら……母として……私はこの方と……――――!!)
妖気が漂い、彼女の髪がユラユラと揺らめいた。




