6話/紅の刃を託して(2/10)
2.
緋寒に約束をした夜、実鈴は関緋に床へ呼ばれた。
タオヤメが謀反を起こした一件から、実鈴は演技で関緋の機嫌を取る事を止めた。
今はただ、朱天鬼の世継ぎの為に淡々と夫と体を重ねるだけであった。
そうしてもう数年経ったが、元実と緋寒を最後に子供は全く成せていない。
大袈裟なほど、一人には広過ぎる寝台。
敷いているのは珍しい白い獣の毛皮を使った大きな毛布。
仰向けの彼女に関緋が覆い被さっている。
熊が女を襲って食っているかのような体格差。
衰えを知らない隆々の肉体を汗まみれにし、必死で彼女の胸を貪る関緋。
女側が行為で緊張しないようにする愛撫でもあるが、何より幼少から不足している“母”を彼女で穴埋めしようと体が勝手に求めるのだ。
相変わらずだ。
実鈴はか細く弱々しい喘ぎ声を漏らしながらそれを受け止める。
心拍数が上がるから自然に呼吸が速くなって苦しくなるだけだ。
目に光の無い、ほぼ真顔のような、憂いの表情をしている。
世継ぎを作る仕事が終わり、実鈴は横になって丸くなる。
だが、一息つく間もなく関緋が彼女の腕を引っ張った。
胡坐の恰好で彼女を無理矢理胸に抱き、顎を掴んで顔を引き寄せる。
憂いの表情のまま、ぼうっと彼を見つめる実鈴。
昔のように怖がったり、胃が痛くなったりはしないが、やはり彼を心から愛していないのでそれ相応の反応だ。
彼はしかめっ面で尋ねる。
「実鈴……!今度こそちゃんと感じたのか……?」
「はい……。」
真顔で答える実鈴。
関緋は眉をひそめ、彼女の顎を強く掴む。
「嘘を言うな……!
ならばもっと笑え……!昔作っていたあの笑顔を、嘘でなく心からすればいい!」
(簡単に仰る……。)
彼女は声には出さない。
「お前が嘘でなく心から俺に微笑むよう、お前が好む事(前戯)は何でもやってやると言っておるのに……!
そうやって、内心俺を笑って恥をかかせるだけなのか……?!」
関緋は真実を知って以来、なかなか心から笑ってくれない彼女に不満が募るばかりだった。
だが昔のように彼女を怖がらせては同じ過ちの繰り返し。
少しは自分から頭を下げて差し伸べる事を覚えたが、その我慢が嫌味や小言と言う形で放出されてしまう。
「ごめんなさい……。貴方のやり方が悪いのではないです……。
私が元々、このような事が好きではないのかも……。
これが私の限界です……。」
素直な言葉を、本当にすまなそうな顔で言う。
彼女は本音を胸の内で呟く。
(過去に無理矢理襲われた事も、怖かった事も、どうにか水に流そうと心を無にしている。
怯えないようにもなった。
でも、やはり貴方と体を合わせるのは辛い……。
元々、体の相性も、性格の相性も良くないのだから……。
これ以上完璧を求めないで……。
私は貴方の理想そのままではないの……。)
捨て鉢になった実鈴。
また理想と違うものを見せられ苛立つ関緋。
関緋からすると彼女から積極的に母のように抱いて欲しいのだが、見ての通りこの力の差と体の差。
そして、実鈴が胸に抱きたいのは子供達だけ。
そんな子供達もとっくに、心も体も乳離れしている。
「……もう一度だ!今度はもっと集中しろ……!」
関緋は口全部を食らう勢いで口付けし、彼女を強く押し倒した。
実鈴は気怠さと鬱陶しいくすぐったさの中で目を閉じた。
彼の腰に足を絡ませ、背中に腕を回し、形だけの受け入れの抱擁をする。
(大人になり始めたあの子達よりも子供。
この方は……いつ大人になるの?)




