5話/タオヤメ(8/9)
8.
タオヤメは埋まったまま動かなくなった。
白妙が恐る恐る大穴に近寄ると、人型がドサッと倒れた。
変化が解けて、人間に近い姿に戻ったタオヤメだった。
着物がボロボロになって上半身は裸。
纏めた髪は解け、自慢の化粧も血で落ちてしまっている。
「ヨシ!まだ息がある!
悲しいからって、もうこんな事するな!タオヤメ……。」
一方、関緋も変化を解いていつもの姿になった。
タオヤメの事など忘れ、実鈴を鐘の中から救出する。
彼女は多汗による脱水症状と酸欠でぐったりしていた。
「実鈴!!返事をしろ!!」
その時、白妙が叫んだ。
「関緋!後ろっ!
うわっ!!」
関緋が振り返った瞬間、彼の唇に何か触れた。
血の味。
彼はタオヤメに口付けされていた。
関緋は即座に彼を殴り飛ばした。
あまりの拒絶反応で、思わず腕の中の実鈴まで乱雑に放り投げてしまう。
「……ボォオェッッッ!ォおおおっっっ!!
今すぐ殺すっっっ!!」
関緋は吐きそうになりながら目を血走らせ、更にタオヤメの腹に蹴りを入れる。
タオヤメは苦しみ喘ぎながらも、カラカラ笑っていた。
「ほおら!隙だらけなんですよ、今の貴方はっ!!
貴方が気色悪いと思っている、僕みたいなヨナヨナした男に易々と唇を奪われるくらいにねぇ!」
タオヤメは隙を見て立ち上がり、同じように殴り返した。
関緋の顎下にヒット。
細身ながら、いいパンチである。
「このっっ!!」
関緋とタオヤメは今度は素手で殴り合った。
吠えて、血反吐を吐き出し、また殴る。
タオヤメはすっかり女の真似を止めていた。
「僕は……女に溺れた貴方なんか見たくねえんだよ……!
逆境の中であろうと、強敵相手に怒り、吠えて、何度も立ち向かい、徹底的に叩き潰して勝利する!!
『男鬼』とは何か!それを僕に思い出させ、どん底から救ってくれた貴方の姿!!!
例え『願い』が叶わなくても貴方をだけを見てきたのは、こんな女々しい面ぁ見る為じゃねえんだっっっ!!」
女の装いを脱ぎ捨てた、彼の真の叫び。泣きそうな声。
(そう。振り向いてくれなくてもいいから、添い遂げられなくてもいいから、貴方に魂を捧げてきたのは……この為じゃないんだ……。
僕は好いた者とただ欲のまま愛を食い合う奴とは違う!
愛に溺れて大義を見失うような、そんな安い絆なんかじゃない!!
命尽きても、この方を正気に戻してみせる!!)
「俺が弱いだと!?なら、俺を倒してから言うが良い!!」
関緋とタオヤメは血と汗でまみれていた。
体格差は歴然。
しかも妖術を使わずとなればタオヤメは不利。
しかしタオヤメは倒れても、何度も立ち上がった。
彼が信じる男鬼の姿を関緋に見せつける。
家臣や白妙達は息も忘れ、タオヤメの雄姿を目に焼き付けた。
白妙は拳を握る。堪え切れず目の端から涙を流す。
「タオヤメ……いや、今のアイツは手弱女なんかじゃない。『益荒男(ますらお ※強く勇ましい男)』だ……!」
決着の時。
息が切れ、朦朧とする2人。
関緋はタオヤメの腹に突きを放った。
肩の近くまで深く、タオヤメの腹に腕を突き刺す。
その時、タオヤメの顔が関緋の胸に頬擦りするような格好になった。
タオヤメは関緋の顔を見上げた。
全てを寄せ付けない、荒々しい鬼の顔。
タオヤメは顔を綻ばせた。
(良かった……昔の貴方の顔に戻っ……た。)
花火のように背中から噴き上がる血飛沫。
白妙達は関緋に駆け寄った。
タオヤメは関緋の胸に頬を寄せ、微笑んで眠るように事切れていた。
関緋は乱暴に腕を抜くと、遺体を白妙に受け渡した。
「……悔しいが、良い戦いぶりだった。
裏切り者として殺すには惜しかったか……。」
関緋は厳しい顔のまま実鈴の元へ向かう。
白妙は持っていた櫛でタオヤメの髪を整え、何か着せてやった。
「お前は人を茶化してばっかで、嫌な奴だったよ。
……でもお互い関緋が好きで、結ばれようが無い者同志、……友達だった。
私が関緋を忘れられなくて泣いていた時、黙って側にいてくれたよな……?ありがとう……。」
大志摩も跪いて黙祷した。
「タオヤメは、我々朱天鬼が掲げた『鬼の世の天下統一』を思い出させ、皆の闘志を取り戻す為に謀反を起こしたのだな……。
悪役になって、命を捨ててまで……。」
仲間達は誰一人、負けたタオヤメについて何も言わなかった。
負けても心を打つ程の激しい戦いの末に、皆黙祷するのみであった。




