5話/タオヤメ(7/9)
7.
他の家臣は「裏切り者を潰せ!」と関緋を鼓舞する。
タオヤメは実鈴を鐘の上に乗せた。
不安定な半球の形の為、少しでも鐘が揺れたら実鈴は落ちるだろう。
「やっ!!」
早速、滑り落ちそうになる。
縛られているので、何処にも掴まれない。
「実鈴!」
関緋はそっちに気を取られるが、タオヤメが飛び込んできた。
「ほぉら!そうやって女に現を抜かすから、僕にみたいなのに謀反を起こされるんですよぉっ!」
タオヤメは体を炎に包み、変化した。
現れたのは鐘より大きな毬栗かウニの化け物。
トゲとトゲの間から、無数の血色の蛇が触手のように伸び、うねうねユラユラと炎のように踊る。
タオヤメは毬栗の姿で高速回転。
関緋にその身をぶつける。
至近距離だったので、関緋は受け止めるしかなかった。
刺さらないように棘のうち2本をそれぞれ両手で持って回転を止める。
「ぐうっ!!」
関緋は腕の力こぶや血管をはち切れん程浮かび上がらせた。
少しでも力を緩めればタオヤメが再び高速回転を始めるだろう。
そうなれば無数の棘で突き刺されるか、もしくは肉を磨り下ろされるかだ。
関緋は早くタオヤメを投げ捨ててしまおうと考える。
だが、蛇達が全て関緋に巻き付いてきた。縄のように四肢や首に固く絡む。
毬栗の中からくぐもった声。
『あいも変わらず大きくていい体だねえ……。
身動き出来ない貴方を組み伏せて乳繰り合うのも悪くない。』
「黙れ!吐き気がするっっっ!!」
関緋は触手を力尽くで切ってしまおうとする。
だが、どういう訳か力が抜けていく。
見ると蛇達が彼の肉を噛んで血を吸っていた。
白妙が叫ぶ。
「タオヤメの奴!関緋の血と妖力を吸っている!
でもその蛇はそれだけじゃない。
頑丈な皮膚や筋肉をブヨブヨにする毒があるんだ!
早く離れろ、関緋!!」
「このっ、手の力が……!」
関緋の手の力が緩む。
隙を見たタオヤメが迫り、毬栗の棘を突き刺す。
両肩と横腹、腿に串刺し。
「ングっ!」
『弱いねえ!!酒呑童子様!
次は肉棒と玉に刺してあげようか?
それとも、最後の楽しみに取っておこうかな……?』
「小壺のない紛い物が……!
吐き気がすると……言っておろうっっっ!!!」
関緋は踊る龍のような鬣から黄金の炎を発生させた。
燃えて怯む蛇達。
関緋はそのうち何匹かを噛んで引き千切る。
そして、棘が深く刺さるのをものともせず、近寄って毬栗の殻に噛み付く。
その間、関緋の血が細い滝のように落ちる。
激しい流血戦闘に、固唾をのんで見守る仲間達。
実鈴でさえも関緋を心配した。
「関緋様、無茶です!血が!」
関緋は実鈴に目を向けた。少しだけ安心する。
(必ずお前を助ける!
朱黒の時のようにはせん!)
彼は目だけで伝えている気になっていた。
バキバキ、グチャっと骨が折れて肉が抉れた音。
関緋はタオヤメから毬栗の殻の一部を噛み千切った。
ふっと、他所に吐き捨てる。
殻の欠けた部分から奥に見える、女のような化け物の顔。
「やっぱ……猛々しくて綺麗だね……。」
目を細めて微笑むタオヤメ。
関緋は彼を目掛け、吐瀉物を吐き捨てるように炎を吐いた。
松明を投げ込まれた窯のように、毬栗の中から漏れる炎と眩い光。
関緋に絡んだ蛇達も焼け溶けていく。
下から家臣の何人かが歓声を上げる。
「やった!!形勢逆転!!」
しかし、タオヤメを知る者たちは目を離さない。
白妙の檄。
「お前は変化したタオヤメの怖さを知らんのか?!
まだまだここからだぞ!」
言っている側から、タオヤメの毬栗が爆ぜるように割れた。
中からひゅっと飛び出す、胴の長い化け物。
「『服』を引っ剥がされちゃあ仕方ない。
『裸と裸』でやろうか?!」
上半身は女顔の男鬼、下半身は大蛇の胴と尻尾。
彼は魚のように跳ね、鐘に絡み付いた。
上半身を関緋に向け、片手を突き出して構え。
関緋は吠えて迎え撃つ。
関緋とタオヤメは空中を跳び合って、拳や角をぶつけ合う。
巨体の大鬼と、大蛇の鬼が宙を舞って重い音を轟かせる。
食堂の天井から壁は隕石でも飛来したかのように穴ボコだらけになった。
数十分拳を交え、今度は下層階で泥のように体を交える。
白妙達はなるべく奥に避難していた。
真剣勝負に手出しは重罪。
関緋の胴に絡みつき、背後から両手で首を絞めるタオヤメ。
興奮したように叫ぶ。
媚びのない、完全な男の喋りだった。
「楽しいなあ関緋様!!!昔の貴方の顔になってきましたね!!」
「俺と戦う為だけに、こんな愚かな真似をしたのか!?
それとも俺の実鈴に嫉妬しているのか?!」
「両方ですよおおっっっ!!!!ァハハハァ!!!!」
狂ったように高笑いするタオヤメ。
「命を投げ捨てるとは、愚かな!!」
関緋は技を返し、逆に脇でタオヤメの首と胴を絞めた。
その時、中央の鐘。
2人の激しい競り合いで、縄はボロボロ。
それも遂に切れ、鐘が落下する。
“実鈴を乗せたまま”。
鐘から投げ出され、悲鳴を上げる実鈴。
「いやぁああーー!!!」
「実鈴!!」
関緋はタオヤメを殴って突き放し、彼女の元へ走る。
「行くなあっ!!関緋様ぁ!!」
タオヤメの悲痛な叫び。
深い嫉妬にまみれた表情。哀れな般若。
(貴方って鬼はっ!!!
僕がこれだけ目を向けさせても、戦いよりもその女を選ぶのですか!!!!???
そいつは貴方を心から愛してしない、紛い物なのに!!!)
関緋は彼女を受け止めた。
隣に鐘が落ちてゴーンと鳴る。
彼は彼女を強く抱き締める。
愛を知った大猿が人間の姫を愛でるような、慈しみの顔。
だが、2人を包む、紫と朱が入り混じった炎。
タオヤメが火を吐いていた。
「関緋様の目の前で溶けて無くなれぇ!!
この糞女ぁっ!!」
「関緋様!私はよろしいですからタオヤメ様を!
ゲホッ!」
実鈴は肺を高熱で焼かれかけていた。
彼女の美しい着物や髪が燃え始める。
「実鈴!
とりあえずこの中へ!」
関緋は隣にあった鐘を実鈴に被せて隠した。
タオヤメに背を向け、鐘を抱いて守り、業火を浴びる。
タオヤメは関緋に絡み付き、嫉妬で泣き叫ぶように火を吐き続けた。
その姿は、まるで道成寺の大蛇。
安珍への愛憎で、その身を悍ましい姿に変えた清姫のよう。
タオヤメは火を吐きながら関緋ごと鐘を潰してやろうと巻き付く。
だが焦りが裏目に出たか。
毒で弱らせていない関緋に密着するのは無謀だった。
関緋はタオヤメの締め付けを、腕の力だけで解く。
「開いちゃう!開いちゃう!おーぉん、パゥワァアアアアーーッッ!!」
関緋は脱出後、タオヤメの尻尾を両手で掴み、何度も振り回した。
鎖分銅のように回るタオヤメ。
タオヤメが酔って吐きそうになった時、関緋は彼を壁に向かって叩きつけた。
「ぐハァアっっ!!」
タオヤメは白目をむいて、壁に深く埋まった。




