5話/タオヤメ(6/9)
6.
城の地下は騒ぎになっていた。
関緋や他の鬼はタオヤメ探し回る。
よくつるむ事があった白妙は信じられなそうな顔だった。
「あのバカ!関緋に振り向いて貰えないからってヤケでも起こしたのか!」
侍女が指差して叫ぶ。
「こっちです!タオヤメ様は食堂の方へ向かいました!」
関緋は仲間達に全部の入口を封鎖させた。
「自分から袋小路に入るとは!!
賢いと思っていたのは思い違いのようだ!」
関緋は重臣であっても、裏切りには容赦しないと言わんばかりに憤っている。
一方、訝しげな大志摩。
(タオヤメがこんな単純な間違いをするとは思えん……。
何らかの思惑で我々を誘い込もうとしているのか?)
タオヤメがいると叫んでいた幼い侍女は、皆が食堂に押し入ったのを確認すると、奥にいるであろうタオヤメに向かって恭しく頭を下げた。
彼女、いや、女装した彼はタオヤメの人鬼である。
(さようなら、主様……。ご武運を。)
天井を高く削って作られた広い食堂。朱、黒、金の荘厳な配色。
無数の赤い提灯が天井を覆い尽くし、橙の光を乱反射させる。
壁や仕切りは格子で飾られている。
部屋の中央には、巨大な翡翠の原石を切り出して作った長いテーブル。
更にその奥、なだらかな黒い漆塗りの階段を上がった先には余興を行う演壇がある。
劇場の幕の代わりにあるのは、格子の枠が付いた横長の障子戸だ。
いきなりドンドンドンと小太鼓の音が響き、障子戸の奥がパッと明るくなる。
「遠くの者は音にも聞け、近くの者は寄って目にも見よ!」
姿は見せず、声を張り上げるタオヤメ。
障子には正座した鬼の影が映っている。
タオヤメの影である。
彼はゆっくりお辞儀した。
皆、演壇に注目する。
「そこに居るのかタオヤメえええっっっ!!!!
実鈴を何処にやった?!」
関緋は吠えながら階段を上がる。
丁度その頃、関緋の怒鳴り声で実鈴が目を覚ます。
彼女は手足を縛られ、横になっていた。口には猿ぐつわをされて喋れない。
彼女がいるのは障子の裏側。
演技をしているタオヤメの後ろの、影を作っている光源のそのまた後ろだ。
(タオヤメ様?何をなさっているの?)
タオヤメは彼女に気付き、小声で言った。
「よぉーく聞いておきな……。」
タオヤメは役者口調で噺を続ける。
「そう、私『タオヤメ』と申します~。
ヨワヨワ、ヨナヨナ女の手弱女ちゃんとお呼びください(ぁん)♡
さて、今日語りますは、大江の城のとある『哀れな男』と、『恐ろしい女』のお話。
大江に酒呑童子の男鬼がおりました。
大層強く、多くの天鬼達に慕われていたとさ。」
タオヤメは熊の毛皮を頭から被り、荒々しい男鬼の影を作った。
毛皮を鬣に見立てて振り乱し、演技を始める。
『憎き人間どもを天下から洗い流す為、我はこの体一つで、鬼の世を一つにまとめ上げようではないか!
……やや!あれに見えるは麗しい朱の華……――。』
タオヤメは毛皮をパッと脱ぎ捨てた。
着物を着崩して座り込み、艶っぽい女の影を作る。
くねりくねりと腰を動かし、手招きする。
『アレアレアレヨ~、鬼さんこちら~。その逞しい腕で抱いとくれ。』
タオヤメは最初の正座の影を作る。
「男鬼は他の一族を滅ぼし、それはそれは手弱女で美しい女鬼を手に入れた。
彼は彼女を深く愛し、小花を扱うように大切にした。」
タオヤメは「しかぁし!」と扇子で膝をパシーンと叩く。
「女鬼の腹の内やいかに!?」
『酒呑童子の関緋?フンッ!誰がお前など愛すものですか。
女心の分からない、野蛮な男。
その大きな体で子供のように懐に入って来ないで欲しいものね!何と気色の悪い!
でも、抱かせてやれば犬のように大人しくなるのは面白い。』
「何と女鬼は男鬼を弄んでいた!
しかし、男鬼はそうとも知らず、女鬼に物を貢ぎ、彼女が危険に晒された時は命を懸けて守った。
でも女鬼は彼女に溺れた男鬼を心の中で笑いものにした。」
『アハハハ!!酒呑童子も私が命じたとあらば、例え焼石の上であろうが喜んで平伏す!!
これは愉快!私の美貌を利用して、こやつを使い古してやろうぞ!』
一方、ここまで話を聞いていた実鈴。
(まさか、この女鬼は私の事だと言いたいの……?!
嘘の愛を捧げたのは事実だけど、ここまで嘲笑ったりなんかしていない……!)
また、関緋も薄々疑問を持ち始める。
(男鬼は俺の事か?ならこの女鬼は誰だ?!
俺がこんな事するのは実鈴だけだが、話の中の女の態度や言動とは全く結びつかぬ!)
他の仲間達も騒ぎ出す。
「まさか、奥方様が関緋様にこんな事を……!」
「やはり奥方様が関緋様を弱くした!朱天鬼を傾かせているのだ!」
それを聞いた大志摩が慌てて否定する。
「落ち着け皆の者!
内通者のいう事を全部信じるのか!?
既に仲間を傷付けている裏切り者であるぞ!」
一方、白妙。
「実鈴が嘘の愛を捧げたのは、彼女が子供の為にやった事であり、私が助言した」と言いたかった。
しかし、それに至った原因は「関緋が癇癪を起して子供を傷付けたから」と、士気が下がる事を家臣に言う訳にもいかず、黙って唇を嚙む。
関緋は障子の前まで来た。
「大志摩の言う通り!
所詮、男を好む男のやる事だ。嫉妬から、嘘で我が妻を陥れるような浅はかな事を思いつく!
お前を少しでも認めていた俺が愚かだった!」
タオヤメは実鈴を脇に抱えると、食堂の遥か向こう、壁際の格子に向かって跳ぶ。
格子に足を掛け、梯子を上るようにして上へ逃げた。
関緋も同じようにして追いかける。
タオヤメは天井近くまで上り、そこにあった釣り鐘に乗る。
寺にあるような大きさの、金製の釣り鐘。
彼は実鈴を両手で抱え上げ、下の者達によく見せた。
「よく見よ!これが咎人の姿!
このタオヤメ、朱天鬼を立て直さんと、この女を殺しに参った!」
関緋も天井近くまで追いつく。
「貴様あ!!もう容赦せんぞ!!」
タオヤメは目を細めてせせら笑う。
「酒呑童子なら力尽くで奪ってごらんよ……。
それとも、この『母上(実鈴)』が乳を吸わせてくれないと力が出ないのかあい?」
タオヤメは実鈴の猿ぐつわを外した。
すると何を思ったか、暴れる彼女に無理矢理口付けする。
彼女の胸や尻を掴んで揉みながら。
瞬時に火が付く関緋。
黒目を消し、八重歯を見せて吠える。
「腸を全部引きずり出して踏みつぶしてやルゥウウウウっっっ!!!!」
関緋は体を炎に包むと、大鬼の化け物の姿に変化した。
一方、様子を見ていた白妙が呟く。
「おかしい……。
さっきの口付けは絶対に演技だ……!
タオヤメは女が大嫌いで、絶対に自分から体に触れたりはしない!
昔、手違いで私の胸を触った時があったが、イラついて舌打ちしていたくらいだぞ!
それに、深く尊敬している関緋を煽るなんてのもあり得ない事だ!
……この謀反、全部がおかしい!」
頷く大志摩。
「確かに、全て皆によく見せつける為にやっているように見える。
本当の目的は何なのだ?!」




