5話/タオヤメ(5/9)
5.
実鈴は入り口の方へ耳を澄ませる。
(タオヤメ様?また品の無い事を仰って嫌がらせしようとしているのかしら。)
タオヤメは見張りの股間に触れようとして、その手を引っぱたかれている。かなり強めに。
二重の意味で警戒する見張り。実鈴と自分の危機。
「お引き取りを!それと私にその趣味はないので、色仕掛けは無駄です!」
「ちぇ~、じゃあいいよ。部屋の外で。
そういう事で聞こえてるぅ?関緋様の『鞘』ちゃん♪
『朱天鬼を破滅に導く女悪鬼』よ……!!」
と、声を張り上げる。
実鈴はそれを聞き、目を見開き立ち上がる。
見張りは取り押さえようとする。
「度が過ぎますぞ!!
……実鈴様、今大人しくさせますので!!」
「いえ!続けさせなさい!」
実鈴は大声で返した。
許可があろうがなかろうが続けるタオヤメ。
「流石、話が分かる。
その顔も聞き分けもいい所も、『私は完璧』って言っているようでムカつくねえ。
関緋様が攫ってきた女と聞いて、初めて見た時から気に入らなかったけどさ!」
鴇羽は主人を馬鹿にされ、ムッとする。
「奥方様!追い返しましょう!」
しかし、やはりそれを制する実鈴。
「鴇羽……何を言われても静かにしていて……。
……それで、目的は何ですか?!
『朱天鬼を破滅に導く』とはどういう意味でしょう?!」
「分からなぁい?
貴女様に溺れる事で、関緋様は弱くなってしまった。
貴女様は『子供を守る為に寝てた』だけかも知れないけど。」
「待って!それを知っていると言う事は、もしや朱黒に情報を流した内通者は貴方?!」
「まあね。同じ重臣なら白妙や大志摩の会話を盗み聞きしててもおかしくないからね。」
見張りは瞬時に動いたが、タオヤメの方が速かった。
見張りの足元の影から血色の蛇が無数に伸び、極太の硬い針になって貫いた。剣山に花の茎を深く刺したようになる。
見張りは下半身から脳天近くまで貫かれても、まだ死なず、痙攣しながら拳を振り上げる。
タオヤメは見張りの股間を指で撫で、もう片方の手で腹をぶち破って仕留めた。
争う音に、鴇羽は実鈴の前に庇い立つ。
⦅関緋様!タオヤメ様の謀反です!⦆
人鬼の契りの力で、関緋の頭の中に念を送った。
その間にタオヤメが入り口から入って来る。
「奥方様逃げて!私が時間を稼ぎます!」
鴇羽の皮膚が鱗状になり、その一枚一枚が剥がれて無数の燃える小さな蝶になる。
しかし、実鈴は退かない。
何があっても受け入れる気だった。
「タオヤメ様。貴方は先日、朱天鬼を戦いに誘って危険に晒した……。
朱天鬼を滅ぼしたいのですか?」
「その逆さ。
関緋様の弱体化は仲間たちの士気を下げ、鬼の天下統一を遠ざけている。
このままだとどうなると思う?
弱体化した朱天鬼は、最悪、他の一族に狩られて滅びるだろう。」
「こそまで考えているならば何故?!」
「内通者になったのは、まず朱黒にお前を売って関緋様を試したかったからだ。
結果的に関緋様は貴女様を想う事で勝ったし、僕の理想とは違うけど強さを取り戻した。
本当は貴女様が行方不明扱いになって、関緋様がそのうち諦めて終わりなら良かったんだけどね。
鴇羽が貴女様の人鬼になっていなければ、全部が上手くいっていた。」
「それで私をどうしたいのですか……?
関緋様に身を委ねるしか出来ない、無力で愚かな私に何を求めているのですか……?」
「貴女様が関緋様を利用したように、僕が貴女様を利用させて貰おうかね……。」
タオヤメはまた血色の蛇を召喚する。
あらゆる影から無数に湧く。
「奥方様、どうかお逃げを!」
鴇羽は鱗の蝶々を万華鏡のように輝かせて飛ばす。
蝶が蛇達の頭に張り付いて焼く。
「待ちなさい鴇羽!貴女では相手が悪い!」
タオヤメは鴇羽の間合いに飛び込む。羽根扇子を胸の前に構えたまま。
鴇羽は裾を乱してハイキックを何発か放つが、全て避けられてしまう。
タオヤメは羽根扇子を畳み、小刀を扱うように連続突きした。
鴇羽はわずか数秒で血塗れの蜂の巣のようになった。
タオヤメは実鈴を失神させ、蛇達で縛り上げ、肩に担いだ。
去ろうとするタオヤメの足首を鴇羽が掴む。
眼も潰されようとも、震える手を伸ばしている。
「奥方様を……返せ……!」
タオヤメは顔を綻ばせ囁く。
憐れみの目。
「お前も僕と同じだね……。
決して実らないものを胸に秘めている。だから命を懸ける……。
……だがな、大義より愛欲を優先して懸ける命など……ゴミなんだよっっっ!!!」
彼は彼女の腕を、もう片方の足で踏み砕く。
痛ましい呻き声が部屋に響いた。




