5話/タオヤメ(4/9)
4.
ついこの間まで2人の子供達で賑やかだったいつもの中庭。
今は実鈴しかいない。
彼女は針仕事をしていた。
子供達が母から離れて自立の道を歩み始めてからというもの、子供の世話が無くなった分やる事も減った。
なのでこうして子供達の着物の修繕だけでなく、人鬼達からわざわざ仕事を貰って他の鬼達の着物まで手入れしている。
ふと、中庭の近くの廊下を誰かが通る。
緋寒だった。返り血で頭から足まで真っ赤だ。
実鈴は直ぐに立ち上がる。
「緋寒!
今日も、森で熊や鬼と戦っていたの?」
「ん。まあね。」
緋寒は彼女から目を逸らす。
「毎日戦いの稽古に励んで偉いですよ。
でも、相手はよく見定めて。
明らかに勝てない相手とは戦ってはいけませんよ。」
懐から手拭いを出して、血を拭いてやろうとする。
だが、緋寒はその手を払いのけた。
少し後ろめたそうにしかめっ面。
「強い奴と戦わないと、成長出来ないだろ!?
血も自分で拭くから放っておいて!」
緋寒は逃げるように去っていった。
緋寒は母から離れた所で呟く。
(ごめんね。俺は朱黒と戦った時、母上を助けられなかったから……。
甘えてる暇があったら、もっと強くならなきゃ。)
一方、取り残された実鈴に、彼の胸の内など知りようがない。
「緋寒……。」
寂しそうに手拭いを畳んで懐にしまう。
そこへ入れ違いに鴇羽がやって来る。
「奥方様あ!!駄目ですよ勝手に出歩いたら!
朱黒様の件の後も内通者が見つかってないんですから、なるべくお部屋にいてください!
……ん?」
鴇羽は実鈴の表情に気付く。
実鈴は自分の部屋に戻ると、鴇羽に色々聞いて貰った。
鴇羽は日課の薬茶を出しながら言う。
「それは反抗期かもしれませんね。
最近の元実様や緋寒様の様子を拝見する限り。」
「やはりそうですか……。
もうこの年齢の子供ならあってもおかしく無いのに、私……情けない事に動揺してしまいまして……。」
「初めての御子達ですからそういうものですよ。
それと、緋寒様も早く一人前の鬼になろうと必死なだけで、奥方様を嫌いになった訳ではないですよ。」
「そうね。
あの子は鬼で男の子なのだから、そういう気持ちを分かってあげないといけないですね……。
鴇羽、聞いてくれてありがとう。」
「いえいえ!貴女様のお役に立てたのなら……。」
実鈴が笑みを取り戻したので、鴇羽も安心したような顔になる。
因みに鴇羽が勝手に実鈴の人鬼になったので、罰せられるという話があったが、実際は何事もなかった。
処遇を決める関緋は実鈴を取り戻した事に夢中だったので、特に関心を持たなかったのだ。
関緋は鴇羽にこう告げた。
『お前は俺が血を与えた人鬼だ。魂が繋がっており、趣向が俺と似通っても不思議ではない。
それと卑しい身の女まで惚れさせると言うのは、それだけ実鈴が良い女だという証拠であり、俺も鼻が高い。
実鈴自身は貴様を侍女としか思っておらんだろうし、特に事が進む事はない。
だが忘れるな。
人鬼の貴様など、好きな時に消せる事を……。』
その言葉が鴇羽にどう刺さったのかは分からない。
鴇羽は『奥方様に胸の内を打ち明け、困らせるつもりはありません……。最初から、私が死する時まで』と返すのみだった。
実鈴は鴇羽と談笑しながらお茶を飲んで休憩を終えると「さてと」と、腕まくりして仕事を再開した。
その時、部屋の入り口で何か言い争う声が聞こえた。
部屋の入口。
見張りの鬼が険しい表情で臨戦態勢。
「いけませぬ!
特に男は近寄らせるなとの関緋様からのご命令です!」
「んえぇ~?
それってえ、僕が女に興味がなくてもぉ駄目って事ぉ?」
と、くねりくねりと揺れているのは『タオヤメ』だった。




