5話/タオヤメ(3/9)
3.
大江の城の地下、会合場である広間。
数十人が狭そうに並んで座っている。
関緋は大志摩などの家臣達と話し合いをしていた。
内容は勝ち取った土地の用途や、得た捕虜の数や失った兵の数の確認などなど。
そして、城の守りについて過不足は無いかという議題になった時、一人が手を挙げた。
比較的若い天鬼だ。
「関緋様に申し上げたいことが。
『実鈴様』の事にございます。」
誰より先に悪い予感を察知し、片眉を上げる大志摩。
「実鈴がどうした?申してみよ。」
と、まだ冷静な関緋。
「どうかまずは最後までお聞きください……。
先日奥方様が攫われたからというのは理解できますが、見張りに兵を割き過ぎではないでしょうか?
内通者探しの為に人員を割くならまだ分かりますが……。」
ギロリと睨む関緋。
「実鈴は貴重な女鬼だ。守らない理由はない。」
若い鬼は唾を飲む。
「……確かにお美しく、お優しい、聡明で非の打ち所のない方です。
しかし、一族への貢献は……少々十分ではないと存じます。」
関緋の眉の皺が濃くなっていく。
「どういう事か?はっきり申せ!」
「お世継ぎが……増えておりません……!」
関緋は目をカッと開く。
大志摩は関緋と若い鬼の間に入った。
「確かにお世継ぎが少しでも増えていくなら、奥方様を全力で守る意味はある。
しかし、御子は2人だけ。
ならば攻めの兵を割いてまで、過剰に守りに人員を注ぐべきではない。
そう言いたいのだな?」
「ええ……。」
若い鬼は曇る関緋に冷や汗を流しながらも、退かなかった。
「しかし、決して奥方様が多く産んでない事を責めているのではありません。
『鬼は一生で2~3人産めれば御の字』という言葉もあるくらいですから。」
不機嫌になっていく関緋。
「それで、実鈴を見張る兵を減らして、戦に送る兵をもっと増やせと?
味方の数の多さに頼るのは弱者の証!気力で負けている!」
大志摩は助け舟に入る。
「しかし関緋様、確実に他の一族を倒す為にも、わざわざ少数で戦に赴く事もありませぬぞ。
そして、あの奥方様なら納得してくれるでしょう。」
「むう……!大志摩まで言うか。
だが……!」
迷う関緋に、若い鬼は失望の表情になる。
「関緋様……いつからそんなに腑抜けてしまったのですか?!
貴方をお慕いしていた者達が、今どんな想いか……!」
「何だと?!」と立ち上がって、胸ぐらを掴む関緋。
すると他の者達も何人か立ち上がって、ぽつぽつと声を上げ始める。
「そうです!女に溺れた貴方など、見たくありませぬ!」
「朱天鬼の繁栄はどうなるのですか?!
我らはその為に強くあり続けようと耐えているのです!」
多数に非難され、流石の関緋も言い淀む。
いくら強くとも、孤立には弱い。
結局、関緋は『考えさせてくれ』と、今回の提案を一旦保留にした。
解散となり、皆腑に落ちないまま去っていく。
その中から関緋は一人で立ち去る。
タオヤメは関緋を遠巻きに見ていた。大きいのに今は小さく見える背中を。
彼は細めた切先のような鋭い目を羽根扇子で隠す。
やるせない溜息で羽根が揺れた。




