5話/タオヤメ(2/9)
2.
タオヤメは朱天鬼ではない。赤系の他族出身だ。
彼は若い頃から肉付きが悪く、痩せっぽちで、力も弱かった。
代わりに妖術は得意だったが、戦歴は振るわなかった。
戦で勝てない鬼、弱い鬼は見捨てられる。
鬼は遥か昔から人間の魔除けの力によって住処を狭められており、弱い者に与える優しさも物資も余っていない。そんな切り詰めた種族だからだ。
その考えはタオヤメのいた一族も例外ではなかった。
戦で勝って役に立てないタオヤメは、最悪一族を追い出される可能性もあった。
追い出されてフリーになれば、あらゆる部族から敵とみなされ、虫の居所が悪ければ最悪殺される。
しかし、彼のような弱い鬼が生き残る抜け道はあるにはあった。
それは『強い鬼の世話』だ。
世話といっても、そんな綺麗なものではない。
本当の身の回りの世話は人鬼やちゃんとした地位の者が行う。
なら、何をするのかと言われれば『女の代わり』、『性欲の捌け口』。
つまり、『汚れ仕事』だ。
前にも説明したが、鬼は雌が極端に少ない。
よって、いわゆる人間の若衆のように、男が同じ男を女に見立てて妥協し、用を済ませる事も珍しくなかった。
また、中には『女鬼は産めるというだけで、戦わなくても大事にされるので、下等な存在だ』という歪曲した考えの者や、ただ単に男が好みという者もいて、そういう考えの鬼は進んで男と寝る事もあった。
タオヤメは生き残る為に、男の下に寝る道を進まざるを得なかった。
女のように着飾って笑顔を作り、強い男に猫撫で声で近寄り、用足しに使われる。
そうして一族に置いておく価値があると許しを得て、糧を分けて貰う。
まるで犬。
鬼の社会からしても、そういう者は家畜と同等だと認識された。
彼は初めは己の鬼としてのプライドが捻じ曲げられ、気が狂いそうになった。
だが全てを快楽だと思い込んで溺れ狂う事で苦しみから逃れた。
そうして感覚を麻痺させた結果、苦痛なのか快楽なのか本当の気持ちが分からなくなり、男に愛でられる事が彼の幸福、生き甲斐に変わったのだった。
彼はこのまま一生『タオヤメ=手弱女(なよなよした女)』として男の下に寝るだけだと思った。
そんな時、関緋と出会った。
関緋はタオヤメのいる一族の侵略に来ていた。
いくら当時の関緋が勢いに乗った猛者であっても、タオヤメの仕える主人も男を何人も組み伏せて宴の肴にするだけの実力があった。
しかし、関緋は最初こそ押されていたが、血塗れになりながら何度も立ち上がり、戦況をひっくり返す。
決して敵に背を向けず、吠えて食らい付く。
普通ならば愚直という評価で片付くはずの単純な行動が、勝利という結果で武勇伝に変わる。
その時、タオヤメは関緋の無を有に変えるような力、そして可能性の大きさに震えた。
一時的な体の快楽では感じ得ない、永久に続く感動を味わう。
彼は進んで関緋にこうべを垂れた。
「受け身の生き方を止め、もう一度強き鬼を目指そう」と誓って。
タオヤメは朱天鬼の仲間となり、戦で小さな実績と功績を実直に積み重ね、やがて関緋の重臣として実力を認められるようになった。
策士かつ手練れの妖術鬼として朱天鬼になくてはならない存在になる。
それからタオヤメは関緋と戦場を駆け続けた。
その度、彼の勇ましさに最初に感じたような感動を何度も感じ、胸を高鳴らせた。
何度も「どうせ抱かれるなら真に強い鬼がいい……、それなら誉れだ」と、小さな灯火のような淡い感情を抱く。
しかし関緋は見ての通り、男と寝るのは好まない指向だった。
勿論、タオヤメもそんな現実をちゃんと受け止めており、無理強いして添い遂げようとは思わなかった。
彼は叶わない儚さを、力と彼への忠誠に変えた。
本当の想いを深い水底に隠して、偽りの笑みをバラまいて、恩の為に付き従う。
決して交われない男の為に、毎日その身を美しく着飾りながら。




