4話/枯れる揺り籠(12/12)
12.
その後の事——。
元実は母のいる、いつもの中庭に来なくなった。
彼は母の愛を噛み締め、確かな親子の絆を感じた。
しかしだからこそ、その無償の愛に報いる為に自立の道を進むのであった。
元実は大志摩や他の家臣といるようになった。
物怖じせず、次期の長たる堂々とした態度で皆と会話する。
大志摩は顎髭を弄りながら「しかし……」と話題を変える。
「元実様はまた一段と大人の男になられましたな……。長になる日が楽しみでございます。」
「お前達と一緒にいるからだよ。全てが勉強になる。」
ふと白妙とすれ違う。
「白妙!」
「ん?」
元実はいきなり彼女の背後に走り寄り、彼女の着物の裾を捲って、剥き出しの太腿をパシーンと叩く。
「んなぁっ?!」
と、顔を赤くする白妙。
因みに、彼女は並の男にはこんな顔はしない。元実と関緋だけだ。
「また下半身の筋肉を鍛えたな!白妙!」
「こおの!!
子供の癖に尻に興味を持ちおって!」
白妙は彼を思い切り抱きしめてくすぐった。
元実は楽しそうに身じろぎする。
「白妙!お前も仲間に入れてやる。
父上の仕事がない時は、僕に色々教えてくれ。」
「ま、まあ。よいがの。」
「じゃあ決まりだ!」
元実は白妙を加え、再び廊下を突き進む。
「僕……、いや、『私』が族長になった暁には、優秀なお前達を絶対に重臣として迎えるからな。
その時は宜しく頼むぞ。」
その夜。
元実は自室で遅くまで勉強を終えて、寝る支度を終えた。
そこに、緋寒が遊びに来る。
「兄上!俺と手合わせしてよ!
今日、熊を倒したんだぜ?」
と、いきなり元実に掴みかかった。
元実は振り向きもせず、緋寒の腕を掴む。
そして関節を曲がらない方に捻り、あっという間に床に叩きつけてしまった。
彼はしかめっ面で弟を見下ろした。
「ざぁこ。
それじゃ自分の身さえ守れないぞ。
いつまでも母上が守ってくれる訳じゃないのだから、もっと強くなれ。」
「うん……。」
緋寒は起き上がらず。
無表情で兄の言葉を反芻していた。
「……。」
元実はついでだと思い、緋寒に彼の本当の父親について話そうか迷う。
しかし母が望まないと思ったので、そのまま黙るのだった。
***
人間なら不気味で寄り付かない、真っ暗闇の深い竹林。
そのある箇所に、落ち葉などで入り口が分かりにくくなった小さな洞窟がある。
その洞窟でまた鬼が2人で話している。
前は朱黒と誰かだったが、今回はどちらも誰か分からない。
「朱黒様は残念でしたね。」
「いや、朱黒が“朱華の姫”を上手く攫うかどうかは最初からどうでも良かった。関緋様の勝利も結果的には大成功だ。
後は“こちらの番”という訳だ……。」
「本当にやるのですか……?我が主様がやらねばならないのですか?」
「全ては『朱天鬼の未来』の為だ。
その意志は愛に溺れた者よりも固い。
最期に証明してみせるさ……。」
風が吹き、笹が擦れる音が騒がしくなった。
(4話・完)




