4話/枯れる揺り籠(11/12)
11.
朱天鬼は朱黒の一族を服従させ、勝利を収めた。
しかし、城や内部の鬼達の情報を朱黒に流した内通者は、未だ特定できていない。
城に戻った実鈴は子供達を寝かしつけた。
戦いの後、緋寒も元実も母の血を飲んだので元気になった。
実鈴は安心したように子供達を見守る。
「奥方様も御子様達も無事で良かった……!」と、鴇羽。
「ええ。
一時はどうなるかと心配しましたけどね。
でも、2人とも逞しくなったこと……。あんなに強い相手を恐れず戦うなんて。
私の手を離れて独り立ちするのも、そう遠くないかもしれませんね。」
その後、自室で眠ろうとした時「関緋が呼んでいる」と知らされた。
彼女は城の地下にある温泉へ向かう。
いつものように血か汗を洗い流して欲しいだけかと思い、湯帷子を着て、桶と手拭いを持って行った。
関緋は彼女の後から半裸姿で現れた。
六尺褌の下着姿に、腹に包帯を巻いている。
朱黒から腹を深く突かれた傷だけは内臓に近く、流石に直ぐには治りにくいらしい。
彼は何かを心配するように、顔を歪めている。
傷の痛みのせいだけじゃなさそうだ。
実鈴は正座し、いつものように笑顔で良妻を演じる。
「今日は本当にお疲れ様でした。
傷に滲みないよう、軽く拭くだけにしましょうね。」
関緋は彼女の前でしゃがむ。
そして、彼女の手首を掴んで胸に引き寄せた。
「何を言ってる!汚れを洗い流すのはお前の方だ……!」
彼は彼女の帯を解き、急くように湯帷子を脱がせる。
「……関緋様……どうなされたの?
やっ!」
関緋は手拭いを肩に掛け、彼女を横抱きにした。
彼女を抱えたまま奥の岩の湯船に入る。
「ウグゥ……!!」
案の定、腹の包帯が濡れて、傷が滲みる。
「ほら、痛いでしょう?
今日は湯船に入るのは止めましょうよ。」
彼は聞かなかった。
手拭いを湯に浸し、濡れたそれで彼女の体を擦り始める。
頬から鎖骨、腕、背中、腰へ。
「肌が傷付きますから、あ、まり……力はお入れにならなひぃで……。」
目を閉じ、くすぐったそうな声を漏らす実鈴。
彼女が腕で胸や股下を隠しているのを、関緋は力任せに引き剥がす。
彼は彼女を後ろから抱き抱えるようにして座り、露わになった部分をゴシゴシ洗った。
彼女の首元に鼻を押し付け、怯えたような息を漏らす。
「今日は……お止め、にっ……!」
実鈴は顔を歪める。
無理もない。
今日、知らない男(朱黒)に無理矢理触れられたばかりなので、望まない快楽を与えられるのはウンザリだ。
実鈴は別に汚れていない。
だが彼はそうではないと言い張る。
「駄目だ!まだ落ちていない……!
朱黒が汚い手で触った跡が!」
彼は震えながら言うと、手拭いを捨てて素手を彼女の体に滑らせる。
同時に背後から口吸い。
唾液全てを拭い去るように、しつこく念入りに。
実鈴はいつものように抵抗しない。
余計な痛みにならぬように。
口吸いを終え、彼女は口の端の唾液を指先でスッと拭う。
「ああ……怖いのですね……。私が他人のものになったように感じて。」
実鈴は彼を慰めるフリをしながら、心の中は冷めていた。
(自分の心の痛みだけに目を向けて、今日男に犯されたばかりの女を労るどころか無理矢理抱こうとする……。
やはりこの方は、相手の気持ちが分からない……。
でも……今の私にこの方の間違いを批難する権利はない。
私も自分の身勝手で、この人を騙して利用したから……。
怖がって、本当の気持ちを伝えるのを諦めて、心の中で悪態を吐いているだけの私も罪……。)
彼女は彼の後ろ首に手をやって、優しく摩ってやる。
それは偽りでなく、自分の意思でそうしていた。
一番驚いていたのは彼女自身。
愛情表現ではなく、謝罪の行動だった。
(確かにどうしようもなく幼い人だし、許せない部分ばかりだった。
でも、拙いとは言え、これ程までに私に一途に愛情を注ぎ、失いそうになったら壊れそうな程深く傷付く……。
その部分だけは認めてあげるべきかしら……。今回だけは。)
実鈴は関緋に深く絡みつかれた。
彼は体をピッタリと重ねて来る。
2人が流した汗で彼女に染み込んだ朱黒の汗を洗い、拭い去りたいかのように。
実鈴は不思議といつもより痛みを感じなかった。
少しの詫びの気持ちが体の緊張を解いたせいかも知れない。
撫で合いが終わると、関緋は彼女を抱いたまま湯船の岩に背を預けた。
実鈴は彼の胸に寄り掛かり、偽りの仮面を外した。
「今日は子供達と私をお守りいただき、ありがとうございました……。」
声は作らず、素のままで言った。
***
実鈴はようやく寝床に入った。
その夜は不思議な夢を見た。
夢の中で彼女はまた無理矢理身体を弄られていた。
何と『泰寒』に。腕や腹などは所々骨だけの悍ましい姿。
彼は妖しく微笑んだまま、彼女に馬乗りになっている。
実鈴は目を覚ました。
(夢……。
私の泰寒様への後ろめたさによるものなのか、それとも本当に泰寒様の魂が迷い込んだものなのかは分からない。
でも大丈夫。私は貴方のものですよ……。それは変わりません。)
実鈴は脳裏に泰寒の姿を思い浮かべ、その頬を撫でた。
「私は忘れていません。関緋様への恨みを……。」
憎悪が込もった低い声。




