4話/枯れる揺り籠(9/12)
9.
朱黒は関緋の腹違いの弟。そして忌むべき存在だった。
関緋は父親に疎まれて相手にされなかったのに対し、朱黒は家でも戦でも優遇された。
同じ父親から精を分けた子供でありながらこの差。
理由は朱黒の母が関緋の父に寵愛されていた事。
もう一つは朱黒は生まれた時から強い妖力を持ち、戦いの才に恵まれていた事だ。
父親も強い子供は存在を認めるらしく、朱黒を愛でた。
反対に関緋は、体格の割に妖力が弱く、朱黒の影に隠れて育った。
弟が兄より目立つ。それで終わるならまだ良い。
あろう事か、朱黒は優良なフリをしながら、関緋を心身ともに痛め付けたのだ。
例えばワザとぶつかって、こんな事を言った。
『そこに居たのですか兄上!
その無駄に大きな体ですから、気付いてもいいものですが……、何故でしょう?
あ、そうか。父上が兄上の事を全く話さないから、僕ったら「兄弟なんていない」んだと勘違いしちゃった!
おっと、父上だけじゃない。
貴方の母上も兄上の存在を否定してましたっけ。アハハ!』
朱黒は子供と思えぬ、邪な笑みを向ける。
勿論、関緋は怒りに任せて彼にぶつかったが、毎回返り討ちにされてしまうのだった。
そうして関緋は屈辱の幼少期を過ごし、弟や家族への怒りを力に変えて育った。
朱黒とは丁度数年前に決闘し、正式に一族から追い出す事に成功した。
だが、悪夢はまたこうして現れた。
実鈴を奪われる事は、過去の屈辱を逆撫でされるのと同等だった。
朱黒と関緋は正面からぶつかり合った。
牙を見せ合って吠え、闘犬のように首を狙って絡み合う。
互いの妖術の火が体の周りから噴き出し、辺りは炎が渦巻く海に変わった。
「実鈴を、ガエゼっっっ!!!!」
関緋は怒りで言葉を忘れかけ、咆哮混じりになる。
瞬く間にガチンガチンと、激しく噛んで空振りする音が響く。
歯から火花が出る程の速さと強さだ。
そして、関緋の噛み付きや組み付きを全部かわす朱黒。
必死に実鈴に追い縋る関緋をせせり笑う。
「昔からお前の弱点はそこだ!
感情を揺さぶられて癇癪を起こすと、このように一直線!
行動が手に取るように分かる!」
からかうように手に握った実鈴を高く上げて見せつける。
愚直に彼女だけを見て両手を伸ばす関緋。
その隙だらけの腹へ、鎌のような爪を突き刺す朱黒。
「ゴブッ!!」
血を吐く関緋。
それでも朱黒に掴みかかって、彼女に手を伸ばす。
朱黒の手が腹の奥にどんどん突き刺さり、血が鉄砲水のように流れても、前に進むのをやめない。
自己回復が出来る鬼とはいえ、内臓が深く傷付けばただでは済まない。
「実鈴っっっ……!!」
化け物の彼と目が合う実鈴。
(なんて不安そうな目……。1人で置いていかれる子供のような……。)
朱黒は関緋の腹に蹴りを入れ、鎌の手を引き抜く。
流れ出す血の洪水。
流石に失血でふらつき、腹を押さえて膝を突く関緋。
そんな彼を鎌で何度も斬っていたぶる朱黒。
「やる気あんのかぁ?!
女にうつつを抜かして弱くなったってのは本当のようだな!
俺を負かして追放した時は、その勢いに少々感心したものだが。」
その時、関緋の意識は朦朧としていた。
走馬灯か、様々な景色が脳裏に見える。
彼は幼い子供の姿になっていた。




