4話/枯れる揺り籠(8/12)
8.
蟻の巣のように入り組んだ洞窟内。
朱黒のいる部屋以外では、関緋の軍と朱黒の軍が正面衝突し混戦状態になっていた。
変化した化け物同士が、殴り合い、覆い被さり合い、喉首を噛み合って殺し合う。
洞窟は彼岸花が咲き乱れたかのように赤く染まる。
関緋は先頭切って朱黒の手下の頭を潰しながら猛進する。
彼が粗方片付けてしまうので、後ろから付いてくる家臣達には殆ど残らない。
「俺は朱黒と実鈴を探す!!残りカスは頼んだぞ!」
大志摩達に後を任せて進む。
***
実鈴は朱黒に握り締められたまま、こうべを垂れる。
「何でもします……。子供達を放してくれますか?」
「駄目だ……母上!!そんな汚い奴の為に……!」
元実は震える両手で朱黒の足を持ち上げる。
力を入れる度、傷から血が大量に流れ出す。
虫を潰すように、容赦無く踏み付ける朱黒。
「ガぁッ!!」
「元実!!
お願いやめて!ちゃんと言う事聞きますからっ……!!」
朱黒は元実を加減しながらグリグリ踏み付ける。
「ほらよ。テメエみたいな可愛くねえ馬鹿息子を助ける為に、母君が頭下げてんだからよ。
大人しくしとけや。」
再び無力さを味わい、唇を噛む元実。
(母上……。何故そうしてまで、嫌いな父上との子である僕を……!)
実鈴は「よく聞きなさい」と、身を乗り出して元実と目を合わせた。
「元実。先程は、弟を守ろうと戦って偉かったわね……。
そう言う、優しさが貴方の良い所よ。
生まれる時も、貴方はそうだった。」
「生まれる……時も?」
「鬼の双子は人間や動物と違い、その貪欲な闘争心から同じお腹の中にいる兄弟を食べてしまう事がある。
でも元実……、貴方は弟と争う事なく、仲良く一緒に私のお腹から出てきた。
信じられるかしら?
赤ん坊の貴方が、緋寒の手を握っていたの。まるで手を引くように……。」
実鈴は2人を産んだ時の事を思い出したのか、自然と嬉し涙を流していた。
「それだけじゃない。幼い身で私の事を心配して、早く一人前になろうと頑張っている……。」
「……気付いていたの?」
「ええ……。貴方の志に水を差さないように黙っていたの。
こんなに優しくて頑張り屋の貴方を、母は誇らしく思います……。」
「……。」
「元実も緋寒も、2人とも私の血が半分流れている愛しい子達……!
どちらかと比べられる訳ない。
私の生きる『希望』……。
貴方達の為なら、どんな苦しみだって我慢出来るの……!」
実鈴は足元の元実に向かって手を伸ばした。
その手は物理的には元実に届かない。
しかし、元実はその手の平を見るだけで胸が締め付けられ、触れている時のように温かく感じた。
「母……上……。」
元実は血溜まりの中に涙を流しそうになったが、歯を食い縛った。
***
その時、関緋。
(血の匂い……!元実と……緋寒!
実鈴は無事か?!)
彼は広い空間にたどり着いた。
無数の蛍とその蛍火が視界を遮る。
それを手で払って奥へ進むと、変化して巨大な化け物になった朱黒がいた。
彼が踏んでいるのは元実と緋寒。
そして手には関緋が溺愛する妻——。
裸体でぐったりしている。
「ヘッ、先に来やがったか。
もう少しでお前と“穴兄弟”になったのによぉ。」
朱黒は子供達から下りて身構えた。実鈴は手に握ったまま。
関緋は黄金の瞳から黒目を消す。
「実鈴んっっっっっっっーーーー!!!!!!」
嵐のような咆哮。
体を化け物に変化させる。
太くて力強い四肢。背丈は3回り大きく。
額や頭部から生える龍の角のような突起は冠のように見え、朱色の鬣は龍の尾のように踊る。




