4話/枯れる揺り籠(7/12)
7.
「「緋寒!?」」
同時に叫ぶ実鈴、元実。
緋寒は頭をブルブル振って、髪に付いた埃を払う。
朱黒は舌打ちして、着物を着直した。
「俺の根城に小鼠が迷い込むとは。
数多の見張りを掻い潜った事を褒めてやろう。
で、名は何だって?」
緋寒は近くの岩場に上がり、高い所から皆を見下ろす。
「俺は、『俺』!!この世で俺はただ1人!
故に、それ以上でもそれ以下でもない!」
大笑いする朱黒。
「名乗り方も分からん阿呆のようだな!
良い子にするならお前の兄と母君の側に縛り付けてやるぞ。」
緋寒はいきなり跳んだ。朱黒目掛けて蹴り。
足の爪で半円に斬撃の線を描く。
朱黒は冷静に手で弾く。
カマキリの鎌攻撃のような目にも止まらぬ挙動だった。
緋寒は体勢を整え、ニカっと笑う。
「カマキリだ!カマキリ!!
やい、カマキリ!!母上と兄上を放せ!
でないと、その鎌取って、そいつで稲穂を刈るぞ〜!」
緋寒は蹴りを連続で放つ。
足の爪がヒュヒュと右往左往に空を切る。残像が残らない。
直立したまま、それを冷静に全部弾く朱黒。
爪と爪が当たっているだけと言うのに、鍔迫り合いのように、硬いもの同士がぶつかる音がし、火花が散っていた。
まだ5歳にもならない子供の身で、この速さの連撃を放てる緋寒も凄いが、ほぼ動かずに攻撃全部を弾く朱黒も相応の強さだ。
勿論、欠伸をしながら適当に、手加減をしている。
「虫取りは……終わりだ!!」
反撃に入る朱黒。
緋寒の胸ぐらを片手で掴んで吊し上げると、もう片方の手を軽く振った。
虫を払うような小さな動き、だが動きは高速。
無造作に刃で野菜の皮を剥くように、緋寒を切り裂いていく。
「わぁああっ!!」
あっという間に血塗れになり、その辺に投げ捨てられる緋寒。
「緋寒っっっ!!」
実鈴は我が子の変わりように、金切りのような悲鳴をあげる。
身じろぎするが、やっぱり糸は切れない。
元実は緋寒を心配する母を見て、「やはり自分よりも……」と感じてしまう。
(緋寒がやられてしまったら、僕だけが母上の側に残るのか。
しかし、それを待つのは……、鬼らしくない……。
緋寒を守る!母上の為に……。)
彼は涙を拭いた。
緋寒に向かって叫ぶ
「緋寒、なぁにやってんだ馬鹿っっっ!!まず僕の糸を斬れ!!」
「あ、にうえ!」
緋寒は失血で動かない体に鞭打って、首を伸ばした。
角と角の間、額のあたりから小さな鬼火を出して飛ばす。
それは元実の糸を燃やして柔らかくしてくれた。
後は元実が力任せに切る。
「待っていて!母上!」
「元実!!」
元実は緋寒を抱き起す。
「助けに来たなら母上だけでもちゃんと助けろよ!
このおっちょこちょい!」
「あんがと♪兄上!」
凄まじい切り傷の痛みでも、緋寒は不敵な笑みを崩さない。
朱黒はゆっくり歩み寄る。
容赦のない殺意を漂わせながら。
「こりゃ子供は返品願うかな。
流石、関緋ん所のガキだ。躾がなってねえ。」
元実は緋寒を支えながら身構えた。
「兄上ぇ、2対1は卑怯じゃないのか?俺達が2で、向こうが1。」
「馬鹿!!そう言うのは余裕見せてから言え!
……それより耳貸せ!」
兄弟で耳打ちし合う。
まず2人で逃げ回る。
合間に鬼火で攻撃。
当然、朱黒に全部弾かれる。
「大人は忙しいんだが……。もういいか?」
「こっちだ!嘘つきカマキリ野郎!!」
元実は近くにあった、自分より大きな岩を軽々持ち上げる。
岩に鬼火を纏わせて投げつける。
燃えるそれは隕石そのもの。
「哀れなものだな!皮肉にも、父から受け継いだ馬鹿力か!」
朱黒は初めて両手を使って、攻撃を弾いた。
朱黒は急に、目を見開いた。
見ると、奥で緋寒が実鈴を糸から解放し終わった所だった。
「ははっ、ガキどもが……!少々甘やかし過ぎたか。」
朱黒は自分の蝶のような羽織を千切った。
顔や体が筋肉質なカマキリの鬼に変化。
3回り大きな化け物の姿になった。
「緋寒!!早く母上と逃げ……ゥワアア!!!!」
自ら朱黒の足に組み付くが、叩き飛ばされる元実。
「元実!!」
「兄上!!」
彼を心配する間に、実鈴達の所に朱黒が走り寄る。
「遊びは終わりだ……!」
朱黒は緋寒を手の平で叩き潰すと、実鈴を人形のように手に握った。
「緋寒!!」
朱黒は子供達を何度も踏み付ける。
子供達はほぼ失神していた。地面に埋まりながら、血塗れになっていく。丈夫な鬼とはいえ、いつ骨が粉々になってもおかしく無い。
実鈴はその身を拘束されて動けない。糸以上にキツく握られている。
それでも髪を揺らめかせて、そこから火を放とうとするが、朱黒が止めさせた。
よく見ろと言わんばかりに、子供達を足の下にしている。
「後、もう一回踏めば頭の骨が砕ける。
今のうちに約束して貰おうか。
『子供の為に、逃げるなんてしません。それと貴方のものになります』とな。」
実鈴は自分の唇を噛んで血を流す。
(ここでも子供達の命を守る為に、偽りの自分を演じさせられる……!
いいでしょう!何度だって、この子達を守りましょう!
この身を何処までも汚して!!)




