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朱華の鬼母子は父を討つ  作者: 参望
4話/枯れる揺り籠
33/67

4話/枯れる揺り籠(7/12)

7.

「「緋寒!?」」

 同時に叫ぶ実鈴、元実。


 緋寒は頭をブルブル振って、髪に付いた埃を払う。


 朱黒は舌打ちして、着物を着直した。

「俺の根城に小鼠が迷い込むとは。

 数多の見張りを掻い潜った事を褒めてやろう。

 で、名は何だって?」


 緋寒は近くの岩場に上がり、高い所から皆を見下ろす。

「俺は、『俺』!!この世で俺はただ1人!

 故に、それ以上でもそれ以下でもない!」


 大笑いする朱黒。

「名乗り方も分からん阿呆のようだな!

 良い子にするならお前の兄と母君の側に縛り付けてやるぞ。」

 

 緋寒はいきなり跳んだ。朱黒目掛けて蹴り。

 足の爪で半円に斬撃の線を描く。


 朱黒は冷静に手で弾く。

 カマキリの鎌攻撃のような目にも止まらぬ挙動だった。


 緋寒は体勢を整え、ニカっと笑う。

「カマキリだ!カマキリ!!

 やい、カマキリ!!母上と兄上を放せ!

 でないと、その鎌取って、そいつで稲穂を刈るぞ〜!」


 緋寒は蹴りを連続で放つ。

 足の爪がヒュヒュと右往左往に空を切る。残像が残らない。


 直立したまま、それを冷静に全部弾く朱黒。

 爪と爪が当たっているだけと言うのに、鍔迫り合いのように、硬いもの同士がぶつかる音がし、火花が散っていた。

 まだ5歳にもならない子供の身で、この速さの連撃を放てる緋寒も凄いが、ほぼ動かずに攻撃全部を弾く朱黒も相応の強さだ。

 勿論、欠伸をしながら適当に、手加減をしている。


「虫取りは……終わりだ!!」

 反撃に入る朱黒。

 緋寒の胸ぐらを片手で掴んで吊し上げると、もう片方の手を軽く振った。

 虫を払うような小さな動き、だが動きは高速。

 無造作に刃で野菜の皮を剥くように、緋寒を切り裂いていく。


「わぁああっ!!」

 あっという間に血塗れになり、その辺に投げ捨てられる緋寒。


「緋寒っっっ!!」

 実鈴は我が子の変わりように、金切りのような悲鳴をあげる。

 身じろぎするが、やっぱり糸は切れない。


 元実は緋寒を心配する母を見て、「やはり自分よりも……」と感じてしまう。

(緋寒がやられてしまったら、僕だけが母上の側に残るのか。

 しかし、それを待つのは……、鬼らしくない……。

 緋寒を守る!母上の為に……。)


 彼は涙を拭いた。

 緋寒に向かって叫ぶ

「緋寒、なぁにやってんだ馬鹿っっっ!!まず僕の糸を斬れ!!」


「あ、にうえ!」

 緋寒は失血で動かない体に鞭打って、首を伸ばした。

 角と角の間、額のあたりから小さな鬼火を出して飛ばす。


 それは元実の糸を燃やして柔らかくしてくれた。

 後は元実が力任せに切る。

「待っていて!母上!」

「元実!!」


 元実は緋寒を抱き起す。

「助けに来たなら母上だけでもちゃんと助けろよ!

 このおっちょこちょい!」

「あんがと♪兄上!」

 凄まじい切り傷の痛みでも、緋寒は不敵な笑みを崩さない。


 朱黒はゆっくり歩み寄る。

 容赦のない殺意を漂わせながら。

「こりゃ子供は返品願うかな。

 流石、関緋ん所のガキだ。躾がなってねえ。」


 元実は緋寒を支えながら身構えた。

「兄上ぇ、2対1は卑怯じゃないのか?俺達が2で、向こうが1。」

「馬鹿!!そう言うのは余裕見せてから言え!

 ……それより耳貸せ!」


 兄弟で耳打ちし合う。

 まず2人で逃げ回る。

 合間に鬼火で攻撃。


 当然、朱黒に全部弾かれる。

「大人は忙しいんだが……。もういいか?」


「こっちだ!嘘つきカマキリ野郎!!」

 元実は近くにあった、自分より大きな岩を軽々持ち上げる。

 岩に鬼火を纏わせて投げつける。

 燃えるそれは隕石そのもの。


「哀れなものだな!皮肉にも、父から受け継いだ馬鹿力か!」 

 朱黒は初めて両手を使って、攻撃を弾いた。

 

 朱黒は急に、目を見開いた。

 見ると、奥で緋寒が実鈴を糸から解放し終わった所だった。


「ははっ、ガキどもが……!少々甘やかし過ぎたか。」

 朱黒は自分の蝶のような羽織を千切った。

 顔や体が筋肉質なカマキリの鬼に変化。

 3回り大きな化け物の姿になった。


「緋寒!!早く母上と逃げ……ゥワアア!!!!」

 自ら朱黒の足に組み付くが、叩き飛ばされる元実。


「元実!!」

「兄上!!」


 彼を心配する間に、実鈴達の所に朱黒が走り寄る。

「遊びは終わりだ……!」


 朱黒は緋寒を手の平で叩き潰すと、実鈴を人形のように手に握った。

「緋寒!!」


 朱黒は子供達を何度も踏み付ける。

 子供達はほぼ失神していた。地面に埋まりながら、血塗れになっていく。丈夫な鬼とはいえ、いつ骨が粉々になってもおかしく無い。


 実鈴はその身を拘束されて動けない。糸以上にキツく握られている。

 それでも髪を揺らめかせて、そこから火を放とうとするが、朱黒が止めさせた。

 よく見ろと言わんばかりに、子供達を足の下にしている。

「後、もう一回踏めば頭の骨が砕ける。

 今のうちに約束して貰おうか。

『子供の為に、逃げるなんてしません。それと貴方のものになります』とな。」


 実鈴は自分の唇を噛んで血を流す。

 (ここでも子供達の命を守る為に、偽りの自分を演じさせられる……!

 いいでしょう!何度だって、この子達を守りましょう!

 この身を何処までも汚して!!)


 


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