4話/枯れる揺り籠(4/12)
4.
蛍の光が乱舞する洞窟内。
岩壁に映る笠を被った男の影。黒朱だ。
彼が笠を取った瞬間、頭部に長く尖った物が2本伸びる。
関緋を細くしたような、頬の痩けた整った顔。
真っ直ぐな長い髪は腰まで長く、朱と黒のストライプのような模様だ。
垂れ目の人が良さそうな目だが、片目は黒水晶でも詰めたかのような黒の玉だった。
黒朱が向かった方には蛍色に発光する巨大な蜘蛛の巣。
そして、その巣には気絶した実鈴と元実が張り付けにされていた。
黒朱は実鈴の顎を下から摘んで引き寄せる。
彼女の顔には夕陽を金糸にしたかのような美しい髪がかかり、髪の毛の一本が潤った唇に乗っている。
無防備に広げた両手と、薄地の寝巻き。
黒朱は舌なめずりして笑みを浮かべた。
実鈴は体に何かが滑るのを感じた。
くすぐったさに、目を覚ます。
目の前にいたのは片目が黒い男の鬼。
彼女は襟を乱され、鎖骨周りが剥き出しになっていた。
黒朱と向き合って両手を合わせた状態になっている。
「っっ!!!貴方はさっきの!?
(体に力が入らない……!この蜘蛛の糸のせい……?!)」
黒朱は合わせた互いの両手の指を絡ませて弄る。
「……お目覚めかい?実鈴。
湯上がりか?いい匂いするよなあ……。」
彼は彼女の首元の匂いを嗅ぎ、唇をなぞるように舐める。
「っ!!」
実鈴は首を伸ばしてガッと噛みついた。
カチンと歯で噛む音。彼を仕留め損なう。
「おっと危ない。
その蜘蛛の糸で妖気を吸い取っているのに、動けるなんてな……!そこそこ気も強いし、申し分ない!」
実鈴は彼を睨んで唸った。
「何故私の名を?!」
「さあね。世の中には親切な奴がいるのさ。」
「……私の名は内部の者しか知りようがない。
城に内通者でもおりますの?!」
「こんな状況でも冷静だなあ?
……そんな事より、関緋よりいい夢見たくないか?
どうせあの馬鹿力相手じゃ、気分が良くなった事なんてないんだろ……。」
彼は彼女の帯を解いた。
一方、元実は嫌がる母の声を聞いて目覚める。
最愛の母が黒朱に口吸いされているのを見て絶望した。
「黒朱……!!やめてよ!!」
実鈴は元実の視線に気付く。
「んっ……女鬼を得るのが目的なら、その子は関係ないわ!
元実は逃して!!」
しかし、黒朱は見せびらかすように元実の方を向きながら実鈴を弄った。
彼女の袖の奥に手を突っ込んで中の生肌に触れる。
母の嫌がる声が、元実の思考を停止させる。
嘲笑う黒朱。
「馬鹿な関緋の、更に大馬鹿なガキに特別教えてやるよ。
俺の目的は最初から、お前の綺麗な母君さ。
あの妖術の黒い蝶々を使って子供のお前に近づき、幻を見せて略奪に利用したんだ。
因みに今までお前が夢だと思っていたのは夢ではなく、実際に起きていた事だよ。
そしてお前は上手い事騙されて、自分で母君を厳重な城から外に連れ出してくれたってわけだ!!」
「それじゃ、僕は自ら母上を危険に晒したのか……?!
僕は……。クソっ!!!」
母の為にと願っていた自分の心を踏み躙られ、涙を流しながら暴れる。
「いい気味だ!関緋の子供が絶望する姿は!
腹違いとはいえ、弟である俺を一族から追放したあいつに仕返ししているようだ!」
黒朱は洞窟中に響くように笑い狂った。




