序章/この子だけが私の全て(3/3)
次の日。
実鈴は昨日の中庭に行った。
先に椅子に座って待っていた子供達。
「おはよう!母上!」
母の顔を見て無邪気に駆け寄る。
「おはよう。
緋寒、元実。」
彼女はその場でしゃがみ、子供達をしっかり腕に抱くと、念入りに頬ずりした。
緋寒はいつもより自分を撫でてくるのが不思議だと感じる。
「母上……?どうしたの?」
「いいえ。何もありませんよ。」
彼女は緋寒の顔を見てホッとした顔をしている。
「さあ、今日はここで朝食にしましょうね。」
優しい母親を務めるその心の裏、怒りの火も秘めた、刃物の切先のような鋭い感情が湧きあがる。
(緋寒……。この子だけが……、“遺された”この子だけが……私の全て……。)
***
別の日。
実鈴は関緋と会う間、また子供達を侍女に預けた。
子供達は別室にいた。
緋寒がぼやく。
「もう!父上が来ると、母上はすぐどっか行っちゃう!」
「それはそうだよ……。」
膝を抱える元実。
「なんで?兄上。」
と、緋寒は元実の顔を覗き込む。
怯えている元実。
彼は関緋が帰って来ると、常に何かを気にして大人しくしている。
「緋寒……分からないのか?
前に、父上に“あれだけされた”のに……。
父上は……僕達が母上と一緒に楽しくしているのが嫌いなんだ……。
“殺したいほど”……。
だから母上は、僕達を父上に近づけないようにしている。」
緋寒は言葉を失い、無表情になる。
「母上……。」
黄金の瞳は鋭利に輝く。
母がどのように父と戦っているのか——、幼児の彼にはまだ知りようが無い。
しかし、彼の心の奥底で、小さな細波が立っていた。
(序章・完)




