4話/枯れる揺り籠(1/12)
~束縛夫に略奪された鬼の妻は、唯一の希望である子供達を守る為、偽りの愛を捧げる。~
母として子供達を守る為に、自分を略奪した夫に偽りの妻を演じる日々。
心が荒む実鈴と、彼女の愛を本物と信じて溺愛する関緋。
その裏で同族の内通者が暗躍していた。
その魔の手は実鈴と、その子供の一人・元実に伸びる。
誘拐された実鈴を取り戻そうと愛ゆえに狂う関緋に、実鈴は何を思うのか……。
1.
人間なら不気味で寄り付かない、真っ暗闇の深い竹林。
そのある箇所に、落ち葉などで入り口が分かりにくくなった小さな洞窟がある。
洞窟の暗闇に浮かぶ猫のような黄金の眼光。
入り口に一人分、奥にもう一人分。
鬼だ。
奥の鬼が言う。
「成る程。大江の城内部の構造と、関緋周りの人間関係は把握した。
後の策はこちらで何とかする。
……にしても、意外な人物がこうも簡単に情報を流すとはな。
族長が関緋なんかじゃ、どうしてと聞くまでもないが。」
今度は入り口の鬼が言う。
「お前には関係ない……。
お前はせいぜい“朱華の女”で満足していれば良い。」
「そうさせて貰う。
関緋も意地が悪い……。
この俺に黙って、若い女を独り占めしているんだからな……!」
奥の鬼は手の平から手毬サイズの青い鬼火を出した。
その火の中に映し出されたのは、髪の長い淡麗な女——。
『実鈴』だった。
***
薄暗い関緋の寝室。
大袈裟に大きな寝台。
そこに横たわっている男の鬼。
そして、彼の腕を「よいしょ」と持ち上げてどかし、這いずり下りる華奢な女鬼。
今寝ている関緋の妻、実鈴だ。
彼女はいつものように夫の床を温め終えた所だ。
何事もなかったように隠して歩くが、あの気性の荒が荒くて、しかも巨体の関緋が相手だ。心身共に酷く疲れるだろう。
激しい嵐に吹き飛ばされて、かつ、内臓の奥まで殴られるかのような振動を受け、些細な事で彼を怒らせないように注意し、大人の男相手に母を演じて胸の中でその顔を抱く。
それが彼女の今の日常だ。
実鈴は溜息を吐きながら、入り口の暖簾を潜った。
直後、目の前にいたのは細身の女、いや女装した男。タオヤメ。
不気味なにやけ顔と、稲荷の狐のような細目。
引き攣った口角を羽根扇子で隠している。
「っ!!!!!」
驚いて息が止まりそうになる実鈴。
「そんなに驚かなぃでょおん〜♪」
キャンキャンと響く、甘えた女みたいな話し方。
タオヤメは彼女と体が当たりそうな距離まで接近し、紺の口紅をした自分の唇をペロと舐めて囁く。
「奥方様も好きですよねぇ……。ほぼ毎日する程。」
「な、なんの事でしょう?」
実鈴は警戒しながら、困り顔の笑みを作る。
「“根野菜”の手入れですよぉ!とぼけちゃってぇ〜ん!
関緋様の大ぉおおきな“根”が暴れて、奥方様の"籠"が壊れちゃいそうだった?ウフっ♪ぉーん♡」
太い棒を握って上下に扱くような仕草をする。
情事のような淫らな息遣いが不気味だ。
人間なら不敬の罪になる発言に、実鈴は平手打ちしたいのを堪える。
(勘違いしないで……!子供達の為にやっている事よ……。
常に震えが止まらないし、心地良さなんてない……。自分で望んだ秘め事と違って。)
タオヤメはどこで噂を聞きつけたのか、最近は毎日関緋の部屋の前で実鈴を待ち伏せしている。
実鈴はタオヤメが男を好み、関緋が好きだと聞いていたので、嫉妬による嫌がらせだと予想した。
「タオヤメ様。あまりからかわないでくださいな♡ウフフ……。」
彼女は笑って誤魔化し、傍をすり抜けた。
タオヤメは逃げる彼女に喚き散らす。
「あぁん!怒ったなら関緋様に言いつければ良いじゃなぁ〜い!
僕は構わないよ?直に関緋様にお仕置きされ・る・な・ら。」
タオヤメのこの行動は、最近の関緋に不満があっての事。
そして不満があるのはタオヤメだけではなかった。
ここの所、関緋は戦から帰ると直ぐに実鈴を寝床に呼んでいた。
世継ぎの為なら仕方がないが、それに止まらず、戦中でも彼女を想ってぼうっとする事も多くなった。
女は貴重とはいえ、他部族を冷酷に潰す鬼王が1人の女に溺れる、この堕ちっぷり。
今まで強い関緋を慕っていた部下達の士気も下がる一方だ。
一番の重臣である大志摩さえもぼやく。
「主に関緋様に問題があるが、惹きつけてしまう奥方様も困ったものだ。」
それを聞き、侍女の鴇羽が実鈴を庇う。
「奥方様は御子様の為に関緋様の気を鎮めているだけなのです!
我儘や道楽であのような事をされているのではありません!」
「それは分かる。しかし、奥方様の意図に関係なく、軍全体に影響が出ているのだ。
これも男を酔わせる天性の才か……。」
2人の会話を気まずそうに聞く、白髪の妖艶な女・白妙。
(まさか私の助言が発端でここまでなるとは……。)
重臣達の不安は絶えなかった。




