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朱華の鬼母子は父を討つ  作者: 参望
3話/貴方の良き妻に
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3話/貴方の良き妻に(7/8)

7.

 このまま和解の約束をして、終わるかと思われた。

 しかし、部屋の外から子供の声が聞こえてくる。

 

「ははうぇーー!!どこーー?!」

 

 我が子の声に、偽りの顔を止める実鈴。

(緋寒?!)

 



 緋寒は鴇羽の手を逃れ、部屋の外を走り回っていた。

「駄目ですよ!緋寒様ぁ!!」

 元実を背負って跳んで走って追う鴇羽。

 緋寒は子ネズミのように、ちょこまかと逃げ回る。

 幼児でこのはしっこさは、鬼らしいというべきか。

「ははうえ、ずるい!!僕もいれて〜!!」

「駄目ですって!」

 やっと捕まえる鴇羽。

 

 緋寒は彼女の腕の中で駄々をこねた。

「ヤダヤダヤダ!!ちちうえのお部屋、見てみたい!!

 ははうえぇーー!!!」

 



 緋寒の声は、関緋の部屋の中までキンキンと響いた。


 短気な関緋は眉間に皺を寄せ始める。

「野放しとは、侍女は何をしてる?!」


(緋寒、どうか静かに!)

 焦る実鈴。


 関緋は数分我慢したが、やがて限界に達した。

 やっと得た幸福を邪魔しに来たのがよりにもよって実鈴の前の夫の子、つまり、彼にとって因縁の相手の子。そうとなれば怒りもすぐに膨れる。


 彼は彼女を突き放し、踵を返す。

「待っておれ!緋寒を家臣に引き渡してくる!」


(不味い!今の関緋様は苛立っていて、きっとまた緋寒に手を上げる!

 気を逸らさないと!)

 実鈴は咄嗟に関緋の袖を引いたが、びくともしない。

(やめて!あの子の所に行かないで!

 行かないで!!)


 「行かないでっ!!!!」

 心からの言葉。


 彼女は彼の腕にしっかり抱きついた。

 腕に掴まったまま、その場に崩れる。

 重さで引っ張られ、よろける関緋。

 驚いてやっと振り返る。

「実……鈴?」

 

 実鈴は頬を染め、寂しそうな顔をしていた。

 物欲しそうに、半開きの艶やかな唇を向ける。

「貴方と……離れたくないです。」


 関緋は吸い寄せられるように、彼女に向き直った。

 実鈴は自ら彼の胸に飛び込んだ。

 また着物が真っ赤に汚れる。


 魂が抜けたようになる関緋。

 もはや緋寒の騒ぎ声など聞こえていない。

 恐る恐る彼女を抱き締め返す。

 体の密着した部分から、全身が麻痺していくような感覚。


 実鈴は恥じらいの表情で彼の唇を人差し指でチョンと突く。

 彼女は口をパクパクさせて「し、ず、か、に」と伝える。

挿絵(By みてみん)

「じ、つ!————……っ!!!」

 顔を真っ赤にして固まる関緋。

 実鈴は唇に指を当てたまま囁く。胸板には頬を寄せて。

「緋寒に見つかってしまえば、昂まったものが消えてしまいます……。

 このままこっそりと静かに……。ね?

 2人だけの時間にしましょう……。」

「っ……!!」

 関緋は唾を飲みながら頷いた。

 

「戦でお疲れでしょう?まずは血を拭きましょうね。」

「ああ……。」




 関緋はぼうっとしたまま、言われるままに鎧と上着を脱いで上半身裸になった。

 寝台の上で仰向けになる。

 実鈴も寝台に上がって、彼の側に座った。

 侍女に湯の入った桶と手拭いを用意させ、手拭いを絞る。

 彼女は彼の頭の方に覆い被さった。

 彼の顔や首に垂れてくすぐるサラサラとした長い髪。

 実鈴は時々髪を落ちないように耳に挟んだりしながら、関緋の返り血を拭き始めた。

 頬から首、胸、腹へ、彼女の白い手がゆっくり静かにくすぐっていく。


 関緋はその巨体を振るう事なく、彼女にされるがままだった。 

 時々心地良さそうな声を漏らす。

 関緋は彼女の腕に触れる。

「ずっと……お前にこうして貰いたかった……。」

「だから血塗れのまま会いに来ていたんですね……。」

 

 やがて我慢できなくなり、関緋は仰向けのまま、彼女を抱き締める。

「じつ、りん……。じつりんっ……!!!!」

「あぁっ!」

 実鈴はバランスを崩して彼の胸に倒れ込む。

 彼は指に彼女の髪を撫でて絡ませながら、彼女を押し倒した。

 

 襟を開かれる彼女。

 髪留めが外れて、下された髪が広がる。

 温もりを渇望する彼の顔が彼女を見下ろす。


 実鈴は巨体に乗られたが、今度は怯えた姿を見せなかった。


「か……んひ……さま……ぁ……。

 そっと……優しくしてくださいね……。」


 嘘で彼を求め、叫び、彼が彼女から母を見出そうと愛撫でしてくるのを受け取る。

 そうして心の中ではただ無感情に、出来れば痛みなく、それが終わるのを待った。

 



***




 終わると、関緋は微睡み始めていた。

 実鈴は彼を見下ろす。地面の虫をみるような目だった。

 

「おやすみなさいませ。」

 彼に獣皮の毛布をかけてやる。




 眠った関緋の隣で背を向け、実鈴は暗い顔をしていた。

 偽りの自分に対する自己嫌悪。

 それと好きな相手では無いとはいえ、嘘で色目を使って従わせた事に複雑な気持ちだった。

 何より、本当の夫であり、亡き夫である泰寒への後ろめたさ。


(ごめんなさい……泰寒様。

 この子が生き残る為とはいえ、貴方が大事にしてくれたこの体……。 

 こういうのは変ですけど、貴方が亡くなっていて、今のこんな私をご覧にならなくて……良かった。)


 


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