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朱華の鬼母子は父を討つ  作者: 参望
3話/貴方の良き妻に
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3話/貴方の良き妻に(5/8)

5.

 関緋が仲直りの糸口を探していた頃——。

 実鈴は子供達といつもの中庭にいた。


 緋寒が怪我をした件を聞き、白妙がやって来る。

 関緋の元愛人であるので、彼の行いに責任を感じているのかもしれない。

 

「あ!しろたえ!アメ、アメ!」

「はちみつの飴ちゃんーー!!」

 と、白妙にせがむ元実と緋寒。

「これこれ!私の名は飴じゃないぞ?!顔を見る度言いおって!」


 曇りなき眼を向け、悲しそうな表情になる子供達。

「アメ……、ないの?」

「ないの?はちみつの……。」


 その眼差しは、子供好きの彼女にはキツいものだった。

「うっ!

 ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬにゅにゅにゅ!!!」

 彼女は脂汗を流して悶えると、観念したように腰の小袋から金色で透明の小粒を出す。


 蜂蜜を固めた飴だった。

 鬼達にとって高級なお菓子である。


「わーーい!ありがとーー!」

「ありがとーー!」

 白妙は目をキラキラさせる子供達を見て、何だかんだで幸せそうだった。

 特に元実を見る目は、深く満たされたような表情だ。


「白妙様……、いつも心配をしていただき、ありがとうございます。」

 会釈する実鈴。

「それより、緋寒はどうだ?

 怪我は綺麗に治っているが……怯えたりはしておらぬか?」

「ええ。

 怪我をした直後にびっくりして泣いたくらいで、それ以降はケロッと忘れて元気になりました。

 幸い、幼くてよく分からなかったのかも……。」

「肝が据わった子だ。

 実に鬼らしい……。」




 実鈴は白妙と石の椅子に腰掛けた。

 緋寒は実鈴の腕の中、元実は白妙の腕の中で昼寝する。


「謝って済まないが、すまぬ……。

 関緋は昔から一旦頭に血が上ると手が付けられなくてな……。

 この私相手でもそうだった……。」

 

 実鈴は躊躇った末、口を開く。

「関緋様は緋寒が憎いのかも知れません……。

 緋寒は私と私の前の夫の子なので。

 関緋様もそれに薄々気づいているのかも。

 自分の名誉の為に黙ってはいますが……。


 あ……すみません、この話は内密に。」

 溜息の白妙。

「やはりそうか。見た目からして、そんな気はしていた。

 双子として一緒に腹に入っていたのは不思議な話だが……。」


 実鈴は涙を溜める。

「私は……この子達を失いたくありません……。

 大事なもの沢山を失っても……この子達のお陰でどうにか生きていけるんです……。」


 黙る白妙。

 彼女も実鈴のいた朱華を滅ぼした一族と同族であれば、こう言われて言葉は出てこない。

(鬼も天下統一を果たし、一つの強い集団となる事で、人間に侵略されないようになるのが今の朱天鬼の目標だ。

 しかし、その過程でこのような悲しみも生まれてしまう。

 鬼にとって勝利が正義とはいえ、無理矢理諭すのは酷と言うもの……。)

 言葉に迷う白妙。

「そうだな……。

 その心からの言葉と涙を、お前から伝えれば止められるかもしれん。

 関緋が冷静な時にな。

 その代わり、お前も関緋が望むものを与えるのだ。」

「それは?」

「『母親の愛情』だ。

 アイツは本当は寂しがり屋なんだ。愛されず育ったせいで正しい愛し方が分からない故に、酷く愛情に飢えている。

 でも受け入れてやれば、猫のようになるぞ。」

「あの方を……愛す?」

 難しそうな顔になる実鈴。

「勿論アレだけの事があった後でそれは酷なのは分かっている。

 だが残念ながら、そこまでしなければアイツは冷静になれない。焦って苛立ち、暴走を繰り返すばかりだ。

 形だけでいい。

 関緋を冷静でいさせる為の交渉材料だと思えばいい。」

 

 鳩尾がキリリと痛む実鈴。

 泰寒の事を思い浮かべる。

 そして緋寒を見た。

(私の身心の痛みと、この子達の安全……。

 天秤にかけるまでもない……。)


 実鈴は白妙に頭を下げた。

「考えてみます……。ご助言ありがとうございました。」




 ***

 



 白妙は1人、帰り道を行く。

 病で白くはあるが、長く艶のある髪。若々しい少女のような顔。

 山賊のような露出のある防具から覗く、色のある肉付き。

 下の家臣達が見惚れる美貌。


 しかし、武装している以上、女扱いはされない。

 そして朱天鬼の中では、そう言う格好の女は『病や年齢などの理由で産む力を失っているので手を出してはならない』とみなされている。

 そして産みの病は、鬼の世界では男女共に珍しくない呪いである。


 白妙は溜息を吐く。

(私はつくづく変な奴だな……。

 関緋と添い遂げられなかったのに、関緋を好きでもない女に『彼を愛せ』と助言するとは……。)


 かつて白妙は関緋と恋仲で、何もなければ正妻になる予定だった。

 彼女は彼の性格や生い立ちを受け入れ、彼に好かれるように何でもしてきた。

 女性らしい体を妖術で作り、彼を満たせるような母親のような女になろうとした。


 最初は関緋も彼女に満足していた。

 しかし、2人の間には何度やっても子が出来なかった。


 2人はそんな互いを許し合っていたが、関緋はある時別れを告げる。


『すまない、白妙……。

 お前は俺に何でも与えてくれた。

 俺の理想になるように努力も惜しまなかった。

 だが、気がついてしまったのだ。

「母」とは作るものではない……、自然とそうあるもの。

 そして、ただ従って何でも与えてくれるだけではなく、時に導いてくれる絶対的な存在……。


 だから、お前の体の病が原因ではない……。

 ただ、俺が探し求めるものと違った……。それだけなのだ……。』


 白妙は彼の寂しい背中を思い出す。

(あの時、アイツなりに気を遣ってあの言葉だったのか分からんが……。

 でも、やはり最低だよ。本当に不器用な奴……。

 なのに……何故……まだ忘れられない……。

 だから元実から彼の面影を見て、満たされてなんかいる……。

 馬鹿な私……。)


 彼女は胸の奥に子供を抱いた時の疼きを感じた。

 そうしてフラフラと厨房に向かう。

「また元実と緋寒にやる菓子を見繕うかの……。」




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