3話/貴方の良き妻に(2/8)
2.
城の地下洞窟内に作られた中庭。
天井には大きな穴があり、そこから日光をふんだんに取り入れていて暖かい。
優しい日の光はそこに根付いた笹や野花に降り注ぎ、光合成を促す。
中庭の中央には、石を切って磨いただけの簡素なテーブルと椅子がある。
椅子には実鈴が座っている。
彼女はその腕に双子の赤子を抱いていた。
我が子を優しく見守っている。
懐妊した頃の暗い顔とは比べ物にならない、明るく希望に満ちた表情であった。
赤子達は母の体温に包まれて、安心した顔でスヤスヤと眠っている。
産着に包まれた丸っこくて可愛らしい姿は、鬼である事を忘れさせる。
因みに、角は指先のように小さいのがちゃんと2つある。
実鈴が無事に出産を終えてから、早くも一週間。
彼女は出産の疲れを見せることなく、育児に励んでいた。
側で彼女を気遣う鴇羽。
「奥方様ぁ!お産の後からずっと、朝から晩までお世話されていてお疲れでしょう?
私めに任せて、お休みください!」
にこにこ顔を向けるばかりの実鈴。
「大丈夫。この子達の事は全部自分でやりたいの。
この子達は、私を深い苦しみから救ってくれたから……。」
彼女は赤子達を神聖なものとして見ていた。
「関緋様に似たこの子が『元実』。
2番目のクセ毛のこの子が『緋寒』……。」
赤子達がンニャアと泣き出す。
大きく元気な声を聞き、実鈴は「はいはーい」と嬉しそうに返事した。
「おしめはさっき替えたから……お腹が空いたかな?」
実鈴は襟を開く。
露わになる色白の首周り。
そして、大きく張った柔らかな胸、胸元。
彼女は子供達に授乳を始めた。
子供達はそれが仕事かのように無心で吸って、母親から一生懸命栄養を受け取る。
兄弟に一房ずつ、仲良く分け合っているかのようだ。
実鈴は両手でしっかり2人同時に抱き、安らかな顔で見守る。
たおやかでありながら、邪なものを寄せ付けぬような強さを感じる。
(泰寒様の命を継いでくれた緋寒……。
緋寒の手を引いて、一緒に生まれてくれた元実……。
元気に育ってね……。
私も貴方達の為に頑張って生きるから……。)
目の端から流れる一雫。
側にいた鴇羽は彼女に見惚れ、思わず頬を赤く染めた。
(本当……綺麗で完璧な女の人……。)
そして、見惚れていたのは鴇羽だけでは無い。
実鈴達から隠れながら、腕を組み中庭の入り口に背をもたれている関緋。
どこか悲しげなのは、実鈴と自分の母親を比べているからだ。
彼は母親の胸の中の感触や、直に乳を吸う感触を知らない。
彼の母親が赤子の彼を一度も抱かず、乳は器に絞ったのを与えていたからだ。
(実鈴を無理矢理抱いた時、確かにこの手で乳房に触れた。
しかし、それで心が満たされたのはその時だけ……。
何故、俺には、俺だけには、あの子達が感じているような安らぎが赤子の時に与えられなかったのか……。)
彼は顔を歪め、歯を食い縛った。




