2話/御子守(みごもり) (8/8)
8.
迷っている間に、実鈴の腹は大きくなっていった。
実鈴は自分を守るつもりで、お腹の子に集中した。
(どの道産んであげなければ、私もお腹のこの子も自由になれない……。)
生活面では鴇羽が何でも世話してくれたので、何一つ不自由する事は無
かったし、精神的にも心が和らいだ。
また、城の天鬼達も全員協力的で、精のつく食べ物を獲りに行ったり、危険地までお産に良い薬草を採取しに行ったりもしてくれた。
子が増えにくい種族なら猶更。至れり尽くせりにもなる。
あっと言う間に時は過ぎ、出産の時期が来る。
白妙も駆け付け、側で応援してくれた。
関緋は来なかった。
彼自身も「自分が行けば、実鈴が怯えてお産に集中出来ない」と気付いていた。
鬼の風習では、夫は産綱の代わりとして妊婦がいきむ時に掴まる場所になってやるものだが、今回代理は白妙が務める。
出産は産婆の助言を聞きながら進められた。
実鈴は変化する。以前関緋と戦った時の姿だ。
普段の姿よりも産道が広くなる。
女の人鬼達が彼女を囲い、お産の痛みを麻痺させる火の鬼術を絶え間なく浴びせる。
痛みで顔を歪めながらも、彼女は願う。
(不安よね?私も貴方も……。
どんな親か、どんな子供か……。
でも……、これだけは信じて。
この世は辛い事もある、でも素敵だと思える瞬間も必ずある。
私、不安だけど……少しでも多く素敵と思える瞬間を見せてあげるからね……。
早く出ておいで……!広い世界が待っている……!)
彼女の脳裏に、彼女の手を引いて穴蔵から外へ連れ出してくれた泰寒の姿が浮かぶ。
暫くして。
無事に産まれたという知らせが城中に広がる。
皆の助けもあって、短時間の安産であった。
実鈴は変化を解き、息を整える。
産婆が取り上げた子供を見せてくれた。
子供は双子の男の子だった。
最初に出てきた1人は、髪が関緋に似た大きな男の子。
そして後から出た子は、クセ毛の女の子のような見た目だった。
実鈴はそれを見てハッとした。
疲れを忘れたかのように勢いよく身を起こす。
(まさか……こんな事が!!)
彼女は2番目の子を産婆から奪い取って抱く。
涙し、その子に頬擦りした。
白妙は横から嬉しそうに子供達を眺める。
「先に生まれた御子は関緋によく似ているな。
だが、後の御子は……クセ毛?
2人とも髪は真っ直ぐだが?」
「本当だ。顔は実鈴様にそっくりですけどね。」
と、鴇羽。
そこへ戦から帰ったばかりの関緋と大志摩がやって来る。
まず大志摩が深々と床へ伏せる。
「奥方様……。本当によく頑張られました……。
元気な男の子をなんと2人も!
朱天鬼全てが貴女様に深く感謝しております……。」
実鈴は2人の子供を抱く事に夢中だった。
あれ程気まずかった関緋など、今の彼女には眼中にない。
関緋も子供の顔を覗き込む。
「ほお。双子か。
うむ……。面構えは良さそうだ。良い戦士になるだろう。」
最初の子を見て、可でも不可でも無い顔。
子供に特別興味はなさそうだ。
しかし、2番目の子を見て首を傾げる。
(何だ?この2人目の赤子は……?
我が家系にこのようなクセ毛はおらんはず。
周りが言うように、実鈴に似たのか?
実鈴の家系にこのような髪質の者がいるのか?)
彼は暫く考え、冷や汗を流し始める。
その子によく似た、ある男の顔を思い出していた。
彼が『自らの手で倒した男』の顔を。
(まさか……『泰寒』の子か?!
俺に殺される前に実鈴と契りを交わしていたと言うのか?!
だとして、よりにもよって俺の子と一緒に実鈴の腹に入るとは!!)
それは涙ぐんでクセ毛の子を抱く実鈴を見て、確信に変わる。
関緋は怒りを抑えようと歯を食い縛った。
しかし、皆幸せな気持ちに包まれている今、彼女からその子を取り上げたら非難しかされないだろう。
実鈴は『泰寒』によく似た2番目の子に口付けをした。
(奇跡ね……。
泰寒様の子を授かれるなんて……。
婚儀の後、初めてを頂いてから何もなくて流れてしまったと諦めていたはずなのに……。
あの方がこの子を遺していてくれた……。
なのに……死のうとしていた自分が愚かしい……。)
彼女は赤ん坊達をしっかりと抱き締める。
関緋に似た最初の子も一緒にだ。
(お腹の中で、泰寒様の子にも場所を分けて、仲良く一緒に出てきてくれてたのね。ありがとう……。
怖がってごめんね……。
貴方も同じくらい大事に育てるから……。)
赤子2人は乳より先に、母の頬に流れる涙を吸った。
頬に当たる、小さくて柔らかい唇。
(本当に、ありがとう……。
生きる希望をくれて……。)
<2話・完>




