2話/御子守(みごもり) (5/8)
5.
実鈴が脱走して以来、城の警備は厳重になった。
実鈴は更に強固な地下牢に入れられてしまった。
今度は暴れないように手足を鎖で繋がれている。
四六時中、何日も拘束されてる事もあり、精神的にも肉体的にも疲弊し、すっかりやつれていた。
因みに、舌を噛んで自害しないように術で縛られている。よって喋れもしない。
鴇羽は健気に身の世話をする。以前、実鈴に気絶させられたにも関わらず。
「奥方様……その鎖には魔除けの札が少し貼ってあります。
鬼にとっては体を弱らせる麻痺毒のようなもの……。
どうかお願いです。少しでもお食事をして、お体を回復させてくださいな。」
鴇羽は器に入った獣の血を飲ませようとする。
血は鬼にとって消化の良い、栄養たっぷりの飲み物だ。例えるなら強力な経口補水液である。
だが、実鈴は首を振った。
(もう逃げ場はない……。
あの関緋という人に何かされるなら、このまま餓死して死ぬしか。それか別の方法で……。)
一週間後——。
戦に出ていた関緋が城に戻ってくる。
実鈴の事は気になるが、天下統一の野望に休みはない。
重臣以外の、表舞台の関緋しか知らぬ家臣達は、何も知らずに彼の強さを称え、恐れ、敬う。
彼が一人の女に現を抜かしているとも知らず。
関緋は戦で浴びた血を洗い落とすのも忘れ、実鈴の元へ向かおうとする。
大志摩がそれを呼び止める。
「関緋様、そのまま実鈴様の所に行かれるのはお止めになった方が……。」
「『実鈴』?ああ、姫の名前か。
で、何故だ?」
「実鈴様はお体が優れず、食べ物も喉を通らないのです。」
「何?!病気なのか?!
医師は何をやっている!」
関緋は彼女が心配で、せっかちになっている。すっかり彼女の虜だ。
大志摩は「それが……」と、言いにくそうにする。
「侍女の鴇羽によりますと、姫様は酷く怯えておるのです。
“関緋様”に……。
それが心の病の原因でございます。」
瞬時にカッとなる関緋。
「俺が病の原因だとお?!」
大志摩は殴られる覚悟で強く出る。
「“それ”です!それが良くないのです!
姫様はとても繊細な女性。
力任せや怒鳴り付けるなど、以ての外でございます。
いくら鬼の世界、戦の世界だから仕方ないと言えども、故郷や親を失ったのが大きな心の傷となっているはず。
それと、その中に好いた男もいたようで……。」
関緋は「他の男」と聞いて掴みかかる。
「何だと!!!夫がいたのか?!どんな奴だ?!」
関緋は問いかけながら、ハッと思い出す。
(まさか、俺が戦ったあの朱華の族長……。
名は『泰寒』……だったか?!)
「夫がいたとしてそれが何だ?!
俺はそいつと正々堂々戦い、そして奴は負け死んだ!
ならば勝者に従い、新しい夫の妻になったと割り切って生きるべきだろう?!それが正しい鬼の道!」
関緋は「姫に言い聞かせて来る!」と踵を返す。
大志摩は必死で引き止める。
「ですから、なりませぬ!戦ならともかく、男女の間でそれは!
例え自分や掟が正しいと思ってもそれを力任せに押し付けず、相手の気持ちをよく考えて話し合い、落とし所を探す!
それが男と女、そして仲の良い夫婦のあり方なのです!」
「うむむ……!」
関緋は一番信頼している大志摩に珍しく強く言われたので、流石に口を噤んだ。
(確かに、俺の親達の失敗を見ればそれもそうだ……。
父上の暴力や暴言で母上はねじ曲がってしまったし、俺も母上から暴力を受けて悲しかった。
姫に対して同じ過ちをしてはならない。)
「……では大志摩。俺はどうしたら良い?」
「うむ……。まずは色々話を聞いてあげては如何でしょう?
女性は共感されると安心するもののようですしな。
上手くいけば、新しい生き方に納得してくれるやも……。」
「うむ。……分かった、やってみよう。」




