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朱華の鬼母子は父を討つ  作者: 参望
2話/御子守(みごもり)
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2話/御子守(みごもり) (2/8)

2.

 さて、ここは城だけが住処の全てではない。

 地下には洞窟が掘られ、蟻の巣のように入り組んでいる。

 城は戦の拠点、地下は天鬼が生活をする空間なのだ。


 洞窟内は暗くじめじめしてると思いきや、意外にも明るく通気性が良い。

 洞窟のあちこちにある、提灯や、透かし窓のお陰だ。




 多数ある部屋のうち、奥深くにある部屋。

 女鬼専用の牢屋だ。

 窓がなく、扉でさえ厚い岩板なのを見ると、確かに強固な牢獄だ。

 しかし絹の天幕や温かい敷物で飾られ、器に花まで生けてあるのを見ると、特別扱いなのが分かる。

 それ程、鬼達にとって若い女鬼は重要であり、敬意を払わねばならない存在なのだ。


 さて、牢屋の中には何故か関緋がいた。

 石の寝台で眠る実鈴を見つめている。

 気を失った実鈴は、まだ目覚めない。


 関緋は実鈴を端から端まで眺めていた。

 寝台に広がる艶やかな髪、長いまつ毛、程良い肉付きの体。

 背丈が2m近い筋肉質で巨体の関緋と比べたら、彼女は細くて壊れやすそうだ。


 関緋は彼女に心酔していた。

 ずっと追い求めていた理想の女が手に入ったからだ。

 常に戦いに身を置き、怒りや痛みの揺り籠に揺られて育った関緋。

 その心を鎮める小さな花。

 



 関緋は幼い頃、親がいながら一切の愛情を受けられなかった。


 父は先代の族長であり、酒呑童子。百戦錬磨の強い鬼として周りに賞賛されていた。

 しかし彼は子供には全くの無関心で、関緋に対して他人以下程にしか気に留めなかった。


 次に母。

 母親は関緋を産んだ後、早々に世話を家臣に頼んで育児放棄した。(※因みに鬼には、人間の身分の高い女性のように、子育てを他人に任せる文化はない)


 授乳は「忌々しい痛みだ」と、張った乳を嫌々搾り、家臣に持って行かせた。

 放っておいても乳房が痛くて、乳が着物を濡らして不快なだけなので仕方なく、だ。


 それ以外は、何もしなかった。


 彼女が反抗的だった理由は、夫から「強い子を産み、一族に貢献していない」と、暴力を受けていたから。

 それと夫に戦の戦利品として無理矢理連れて来られ、子供まで産まされ、朱天鬼と夫を強く憎んでいたからだ。




 関緋は母の姿を思い浮かべる。

(母上……。いつも俺に背中しか見せなかった……。

 下男との遊びに溺れて、気に入らなければそいつを蹴って、踏み付けて……。

 常に男の鬼を憎んで、弱い立場の者を蔑んだ。

 俺の事も……。


 そんな母上も父上に髪を引っ張られて引き摺られたり、酷い事をされて、人知れず泣いていた。

 だから心が歪んで俺を憎んだのかも知れない。


 俺は、「母親は自分と同じなんだ。愛を奪われて孤独なんだ」と考えて慰めた。

 大人になったら強くなって、父上を倒して母上を助けようと思った……。

 そうでもすれば、俺を認めてくれると思ったからだ。


 だが、母上は……父上を殺した俺を褒めてはくれたが、優しくはならなかった……。


 俺は、母上も殺すしかなかった……。

 涙と怒りでよく覚えていないが、父上の時よりも強く叩き潰した気がする……。)


 この世界の鬼にとって、親殺しは特別珍しい事ではない。

 子供が老いた親に決闘を挑んで倒し、家督を継ぐ一族もある。

 また親に限った事ではないが、決闘を挑んで相手が受けると言う筋さえ通せば、その戦いは正当なものとされる。

 そして、それに勝てば負けた者をどうにでも処分できる。


(俺は孤独のまま……。

 ……いや、もう違う。

 女としても、母としても、ふさわしき娘がここにいる。)


 考え事をしているうちに、実鈴が目を開けた。


「ぅ……ん……。」

 すらりとした手を伸ばす。袖が落ちて、細い腕が露わになる。

(ここは黄泉?泰寒様……、そこで待っていらっしゃったの?)

 彼女は自分が夫と仲良く死んだと思っている。

 なので寝起きでぼやけた視界の先に、亡き夫がいると錯覚していた。


 さて関緋は——。

 彼は彼女のたおやかな所作と、無垢な表情に目を奪われていた。

 ぎこちなく声を掛ける。

「き、気分はどうだ……?怪我は?欲しいものがあれば遠慮なく言うてみよ。」


 実鈴は夫ではない厳つい声にビクッとした。

(泰寒様……じゃないっ!?)

 目を見開いて、飛び起きる。


「っっっ!!

 来ないでっっっ!!!」

「な……?!」

 関緋は彼女に酷く怯えた表情をされ、深く傷付く。


 関緋は「ま、待て!大丈夫だ!」と宥めたが、彼女は関緋の傍をすり抜け、奥の壁まで逃げた。


 実鈴は悔しさで泣きたいのを堪えていた。

(私は……泰寒様を追って、戦い死んだつもりだった!

 なのに……生きている!

 一緒に死ねなかった!泰寒様と……!)


 慌てふためく関緋。

「お、落ち着くのだ、朱華の姫よ!

 確かにここは朱天鬼の根城だが、お前だけは粗末に扱う気は無い!」


 彼はそっと彼女に迫った。

 戦場では怒りの鬼王が、縋るような顔で頼み込む。

「何故なら、お前を我が妻として迎えるつもりからだ……。

 どうか俺に、その身を大切にさせてくれ……!」

 

 それを聞いて、凍り付いた表情になる実鈴。

(朱天鬼の……妻?

 泰寒様を殺した男の……?!)


 憤怒で髪を揺らめかせる実鈴。

 何処からともなく部屋中に火の手が上がった。

「誰がっ貴方の妻などにっ!!!

 殺してやるっっっ!!!!」


 関緋は深く傷付く。泣きそうな顔。

(何……故……?)

 彼女の怒りは当然の事。

 だが、関緋にとっても期待が大きかっただけに、ショックも強かった。

 実鈴の姿が、彼の母親の姿と重なる。

(お前もか……。

 この女も俺を拒絶するのか……!母上の時のように!)

 奥歯を噛み締め、悔し涙を堪え、実鈴の前に立つ。




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