忘れてゆく(千夏編)
「え⁉︎告白しちゃったの?」
咲希は目を逸らし、小さく頷く。耳は真っ赤になっていた。
「でも、そこから先。覚えてないの。実は、屋上で先生を呼び出して、待っているところまでしか記憶になくって。多分フラれたんじゃないかな。丁寧に。それが余計に傷ついちゃって…自殺?みたいなのかなって考えてる」
教育実習生と言えど、先生と生徒。向かう先は、破滅しかない。でも、それで咲希は傷つき、自殺をした。きっとそうだろう。高校生なんて、他人にかけられた言葉ひとつで深く心に傷を負うし、それが失恋ならば桁違いになるはずだ。彼女はこの学校の屋上にずっといる。想像したくはないが、ここから飛び降りたのだろう。だからここは閉鎖された。
「あの、上の影になってる所。どうやって行くの?」
「そこの柵に足をかけて、パイプにつかまって登れば行けるよ」
あの場所に何かがある気がした。咲希が記憶を取り戻す何かが。記憶があった方が良いのかどうかは分からない。でも答えが分からないまま、このまま忘れていくのは寂しいだろうと思った。
柵に足をかけ、パイプに手をかけた時、ドサッという音がした。急いで登り、身を潜めた。何か喋っているのが聞こえたので覗いてみると、同じクラスの松本君と出雲君がいた。松本君は学校を休んでいたはずなのにな。それに、扉からではなく突然現れた。じっと見ていると、松本君がこっちを見た。急いで頭を下げ少し待っていると、話し声がなくなった。また覗いてみると、そこには誰もいなかった。まるで、瞬間移動でもしたかの様だった。まあ、この世界には幽霊が見えるヤツがいるぐらいなのだから、瞬間移動できるヤツだっていてもおかしくないのかもしれない。何にせよ、バレてはいないはずだ。
ほっとして視線を下げると、そこにはボロくなったポーチが置いてあった。
「あ、それ中身見ないで!黒歴史入ってるから」
「ああ、うん。見ない見ない!」
人が嫌がることはしない。私の主義だ。
「そろそろ戻らないとでしょ?」
「ああ、そうだね。じゃあ、またね」
「うん。初めて自分のこと話せて、良かった」
扉を開けて、ゆっくりと閉めようとした時、咲希が近づいてきた。
「さよなら、千夏」
必死で、もう一度ドアを開けようとしたが、鍵がかかって開けられなかった。放課後になっても、鍵はかかったままだった。次の日も、その次の日も。私は学校に行くのが嫌になった。あの声を、思い出してしまうから。




